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Fourth Contact きみが好き
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唯乃が買うと決めてから紐を選んだので、色使いまでがピッタリなのは当然だった。だが、それを口にすることは出来ない。
唯乃が告げていれば、自分だって普通に話す事が出来たのに……。何故言わなかったのかは解らないが、こちらから波風を立てるわけにはいかなかった。
「ほんとにありがとなっ。浩司と美川だけだよ、祝ってくれるのって。オヤジたちはしてくんねーし」
にこぉっと満面の笑顔を向けられて、浩司も釣られて微笑む。
「ま、普通は男にゃプレゼントしねーだろ」
「そ、か? 他のヤツには?」
「するわけないじゃん。進は特別だからな」
「うん……」
(そっか~……あの二人にはしねーのか……)
こくんと頷き安堵する進の表情が胸にぐっと来て、浩司は抱き締めてしまっていた。
(くそぉ~っ、マジで可愛いっ!! 可愛すぎるっ)
「俺……進のことすんげぇ好き」
「はいはい、俺も美川と浩司、おんなじくらい好きだぜ」
進は、肩越しにそっと浩司の髪を撫でた。艶やかでさらさらとしていて、とても触り心地が良い。
(いいなぁ……。俺なんか、日焼けしてすんげーパサパサだし茶色だし……そりゃまあ男だから、別に気にしなくってもいいけど~。
浩司なんか、顔も整ってて精悍でケツちっさくてデルモ体系でさ……やっぱ俺も中学ん時に一緒に陸上部入ってたら、体型だけでも違ったんかなぁ。正直、色んなトコ羨ましいんだけど……)
「なあ、浩司ぃ」
「んー?」
「何で彼女作んねーの? 表立っては言わねーけど、結構女の子にモテてんだぜ。俺、時々訊かれるもん。『他のガッコに彼女いるのか』とか『どんな子が好みなのか』とかさぁ」
一瞬、一年生の一学期間だけ付き合っていた人の面影が浩司の脳裏をよぎり、鈍い痛みを覚えた。
初めて恋とか愛とかいう言葉の意味を教えてくれた女だった。
そして今までで唯一「抱きたい」と思った女でもある。それより前にも後にも、自分からそう思ったことはなかったから――
そう、唯乃だとて、進の周囲に現れたことでようやく存在を知り、進を盗られるという嫉妬や悋気から転じて〈気になる〉存在になったに過ぎない。今は親愛の情とも呼ぶべきものを感じてはいるけれど、それはどちらかというと進の為に大事にしたい、という思いの方が強かった。
出会った時から惹かれていたということに気付いた時には、もう抑制が効かなくなっていた。そうなるまでには喧嘩もし、全力でぶつかって互いに気持ちを確認した後は、毎日少なくない時間を共に過ごしたあの日々――
忽然と消えてしまった想い人のことを、今でも消化できずにいる。
ただ、それを知っている者は当人以外にはもういなくて。
それを思い出にしてしまうには、まだ早過ぎて――
誰にも言えないまま、胸の奥深くで熾火のようにくすぶり続けている。普段は本人ですら忘れたつもりになっている想いだった。
「何言ってんの。俺がいっとー好きなのは進だもん」
浩司は震えかけた指先に力を入れて、更にギュッと進を抱き締めた。
「ぐえっ」と進がおどけた悲鳴を上げた。
唯乃が告げていれば、自分だって普通に話す事が出来たのに……。何故言わなかったのかは解らないが、こちらから波風を立てるわけにはいかなかった。
「ほんとにありがとなっ。浩司と美川だけだよ、祝ってくれるのって。オヤジたちはしてくんねーし」
にこぉっと満面の笑顔を向けられて、浩司も釣られて微笑む。
「ま、普通は男にゃプレゼントしねーだろ」
「そ、か? 他のヤツには?」
「するわけないじゃん。進は特別だからな」
「うん……」
(そっか~……あの二人にはしねーのか……)
こくんと頷き安堵する進の表情が胸にぐっと来て、浩司は抱き締めてしまっていた。
(くそぉ~っ、マジで可愛いっ!! 可愛すぎるっ)
「俺……進のことすんげぇ好き」
「はいはい、俺も美川と浩司、おんなじくらい好きだぜ」
進は、肩越しにそっと浩司の髪を撫でた。艶やかでさらさらとしていて、とても触り心地が良い。
(いいなぁ……。俺なんか、日焼けしてすんげーパサパサだし茶色だし……そりゃまあ男だから、別に気にしなくってもいいけど~。
浩司なんか、顔も整ってて精悍でケツちっさくてデルモ体系でさ……やっぱ俺も中学ん時に一緒に陸上部入ってたら、体型だけでも違ったんかなぁ。正直、色んなトコ羨ましいんだけど……)
「なあ、浩司ぃ」
「んー?」
「何で彼女作んねーの? 表立っては言わねーけど、結構女の子にモテてんだぜ。俺、時々訊かれるもん。『他のガッコに彼女いるのか』とか『どんな子が好みなのか』とかさぁ」
一瞬、一年生の一学期間だけ付き合っていた人の面影が浩司の脳裏をよぎり、鈍い痛みを覚えた。
初めて恋とか愛とかいう言葉の意味を教えてくれた女だった。
そして今までで唯一「抱きたい」と思った女でもある。それより前にも後にも、自分からそう思ったことはなかったから――
そう、唯乃だとて、進の周囲に現れたことでようやく存在を知り、進を盗られるという嫉妬や悋気から転じて〈気になる〉存在になったに過ぎない。今は親愛の情とも呼ぶべきものを感じてはいるけれど、それはどちらかというと進の為に大事にしたい、という思いの方が強かった。
出会った時から惹かれていたということに気付いた時には、もう抑制が効かなくなっていた。そうなるまでには喧嘩もし、全力でぶつかって互いに気持ちを確認した後は、毎日少なくない時間を共に過ごしたあの日々――
忽然と消えてしまった想い人のことを、今でも消化できずにいる。
ただ、それを知っている者は当人以外にはもういなくて。
それを思い出にしてしまうには、まだ早過ぎて――
誰にも言えないまま、胸の奥深くで熾火のようにくすぶり続けている。普段は本人ですら忘れたつもりになっている想いだった。
「何言ってんの。俺がいっとー好きなのは進だもん」
浩司は震えかけた指先に力を入れて、更にギュッと進を抱き締めた。
「ぐえっ」と進がおどけた悲鳴を上げた。
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