Complex

亨珈

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Fourth Contact きみが好き

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「保ぅ、あんたはいいのよ。来なくってっ」

 隣に並び、円華は語気を強めて指差した。

「何で? おれはただ美形の外人さんを一目見てみたいだけだぜ」

 ニッと笑い、保は両手をポケットに突っ込んでスタスタと歩いて行く。

(嘘付け!! ホントは満くんの名前、新菜に向けて言っちゃったからだろ)

「あんたが来るとややこしくなんの、分かんねーのっ!!」

「何で? おれ、円華ちゃんのツレじゃん。ツレなら一緒に帰ったっておかしゅーねぇだろ?」

 ちらとも顧みず、無表情に前だけ見ている保。
 翔子は足取りも軽く、スキップに近くなってしまっている。
 その五メートルほど後ろを興味津々で付いて行く唯と夏美。そのすぐ後ろを幾度と無く溜め息をつきながら、憂鬱な顔で新菜が歩き、更に離れて円華と保が言い合いながら向かっていた。

「そんかーり、ぜってー、手ぇ出すなよ!!」

 円華は念を入れて釘を刺すが、保はけらけらと笑い出した。

「何でおれが、手ぇ出すんだよ。おれ、弱いもんいじめだけは、でぇきれーなん知ってんだろ」

 ようやくチラリと円華を見て、見られた方は半信半疑で見上げ返す。

「こーじくぅ───んっっ!!」

 メンバー以外梁塁ではお目にかかれない甘えた声が響き渡った。
 その声で円華が視線を前方に遣ると、正門の壁に凭れている頭の先だけがこちらから見えている。
 ついに駆け出した翔子が、その内の一人にガバッと抱きついた。

 正門付近で留まって様子を窺っていた梁塁の生徒たちの目が点になっている。無理も無いだろう。
 解らんこともないな、と思いながら、新菜は近寄って行って軽く手を上げた。

「よっ、久し振りぃ」

 途端に満が笑顔になり、ポケットから手を出して挨拶した。

「こら、お前、あちーんだよっ」

 その隣では、浩司が翔子を引き剥がそうと躍起になっている。

「い、やーっ」

 翔子は胸に顔をうずめて至福の表情をしているのだが、ギャラリーは見てはいけないものを見てしまったと複雑な表情を浮かべている。

「おやぁ、皆さんでお出迎えとは有り難いなぁ。美人が二人増えてるし~。マドカ、紹介してくれるんでしょ?」

 ウォルターは円華たちに愛想をしたあと、夏美と唯に向けて微笑んだ。

「夏美と唯ね。二人とも一年」

 円華は一人づつ指差した。

「で、おれの紹介はねぇワケ? ついでにそちらさんも紹介してくれると嬉しんだけど」

 両手をポケットに入れたまま、新菜と円華の間に保が割って入り、じろりと満の方を見た。もう既に見当がついてしまったらしい。

「どなたかの彼氏?」

 とウォルターがそつのない笑顔で言った。保の顔を見て、

「気合入ってんね~。いい宝石いししてんじゃん」

 と自分の耳朶を人差し指で触り指摘する。
 左耳に二つ入っているピアスを示しているのだ。
 因みにウォルターも両耳に一つづつ入れているのだが、実は校則違反ではない。違反ではないがしてくる生徒が少ないため、他校生にはそのことを知られていない。
 逆に梁塁では一応禁止されていて、それを無視している生徒の方が多いのである。
 それを知っていて言っているのだけれど、別に嫌味のつもりではなく、褒めているつもりだった。

 一方、明らかに睨みつけられていると判ってはいても、新菜に会えて嬉しい気持ちの方が先にたち、満はひたすらにこにこと新菜を見つめていて、関係ない筈の浩司の方が表情を険しくして保に視線を向けている。
 もっとも、それが本来の他人に対する浩司の反応なのだが、敵意には特に敏感に反応するので、初めて目にした翔子はやや困惑していた。
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