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Third Contact すれ違いの純情
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『ってことは男がいたってことじゃねーのかよ?』
「さぁねえ?」
『七元に訊いたって言われることはわぁってるんだよ。どーせ冷てー口調で、』
「『テメーにゃ関係ねーよ』って言われんだろ? 」
保が言おうとした台詞を言い、円華はニタリと笑った。
『わぁーってんなら、ゆーなっ』
溜め息が聞こえた。
「で……保ぅ、前から訊きたかったんだけど、新菜の何処に惚れたワケ?」
ここぞとばかりに円華は話を逸らせた。
『顔っ!!』
即答されて、わなわなと震える手で拳を作ると、
「じゃ、さよなら」
どうにかいつもの声を保ってフリッパーを閉じようとする。
『じょ、冗談っ、冗談だって!! ほんっと円華ちゃん冗談通じねーんだもんなぁ……』
保の慌てた様子に気を取り直して、円華は電話を持つ手を替えた。
しばらく黙り込んだ後、何か決意したようにまた真剣な声で保が話し始めた。
『おれさぁ、実は高校入ってすぐ七元の姿見つけて、美人だなって思ったんだ。おれの周りに群がってくる同期の女たちと違って、大人って感じで。
〈男なんか興味ねぇ〉って雰囲気でさ。
ま、あん時ゃー男居たらしいけど、数日経って別れたって噂聞いたし、なんかモーション掛けにくくてさ。
近寄りづれーつうか、おれの周りにいねえタイプだったから、どう接していいもんかも判らなくてな……。
その後も男が出来りゃあ一ヶ月かそこらで別れた、の繰り返しばっか耳にして。
実際おれ、七元がフラレんの見た事あんだよ』
「え? いつ? どの男?」
『高柳高の中道、緑凰高の宮原、あと猩海高の制服着てたっけな?
けどどいつん時もあっけなかったぜ。まぁおれも傍から見たらそんなもんだろうけど。
七元も引き際早ぇのな、泣くワケでもなし、殴るわけでもなし。
あー、きっとこいつは本気で男を好きになった事ねぇんだろうなあって思ったら、マジに落としてみたくなって……』
「そんなつまんねー事で、新菜にモーション掛けてたってのかよっ!! 」
円華が保の話を遮り、怒鳴り声を上げた。
電話の向こうでは、チッチッと舌を鳴らして保が否定する。
『人の話を最後まで聞けって。
で、だな。始めはそんなノリから始まっちまったんだけど、二年で同じクラスんなって、何故か本気になってんのに気付いてさあ。
知らず知らずの内に目で追ってんだよ。七元だけは、他のヤローに取られたくねえって。
このおれがだぜぇー。女なんぞにマジんなるわきゃねえって思ってたのによぉ。
今じゃどっぷりはまってんし……』
けっ、と自嘲気味に笑う。
『自分で自分が信じらんねぇよ』
(そっか……そうだったんだ……入学式から新菜のこと――
今までの他の男みたいに飾りとしてじゃなくて本気で――
何言っても新菜がなびいてくんねーからっつって、意地んなってモーション掛けてるとばっか思ってた。
んなんじゃ、私、かないっこない……
いつか新菜のこと諦めて、その時は話聞いたげて、私のことも見てくれるかって思ってたのに。
けど、そんなの聞かされたって、私だって今更諦められないよ……)
円華の胸の内は複雑だった。
しばらく互いに黙り込み、また涙が零れるのを嫌い円華は勢い良く声を出した。
「し、知んなかったぁー、保がそこまで本気だったなんてぇー」
『何? って事は、おれが冗談とか意地でずっと七元のこと追っかけてるって思ってたっつー事かあ!? 』
「うん! そう思ってた」
それだけは隠すまでもない本音。けれど他の気持ちは、ばらすわけにはいかない。断じて。
『うーーーーーー……』
保は空いたほうの手で、ぐしゃぐしゃと髪の毛を掻き乱している。
『言っとくけどなあっ、おれ様ほど、七元のこと愛してるヤローはいねーぞ!! 』
(愛してる、だって)
「はいはい、その台詞、新菜に言ってやったら?」
(私に言って欲しい台詞だって)
心の声と現実の声は掛け離れている。呆れ声。
『今まで何回言ったことやら……』
(なんだ、言ってるんだ)
「言い過ぎて、本気にしてもらえないんじゃねーのぉ?」
嘆息。
『けど、言わねーとわかんねぇだろ?』
保の答えももっともで。
だからこそ、円華は〈ツレ〉として傍に居られる。気持ちを口にしてしまえば、もうこうやって電話すらしてくれなくなるから。学校でも、話し掛けてはくれなくなるから、だから。
『あ、今の話、七元には言うなよ』
「わぁってんよ」
『で、話元に戻す。今訊きたいのは二つ……まず一つ目。〈パンドラ〉で言ってた〈トレーニングウェアの彼〉って、何処のどいつ?』
いきなり話題を戻され、しんみりした口調が切り口上に変わった。
先日新菜にしたのと同じ問いを円華に投げて来る。軽いノリで言ってはいるが、目付きは鋭くなっている筈だ。
ぐ、と息を呑み、円華は怯んだ。
「さぁねえ?」
『七元に訊いたって言われることはわぁってるんだよ。どーせ冷てー口調で、』
「『テメーにゃ関係ねーよ』って言われんだろ? 」
保が言おうとした台詞を言い、円華はニタリと笑った。
『わぁーってんなら、ゆーなっ』
溜め息が聞こえた。
「で……保ぅ、前から訊きたかったんだけど、新菜の何処に惚れたワケ?」
ここぞとばかりに円華は話を逸らせた。
『顔っ!!』
即答されて、わなわなと震える手で拳を作ると、
「じゃ、さよなら」
どうにかいつもの声を保ってフリッパーを閉じようとする。
『じょ、冗談っ、冗談だって!! ほんっと円華ちゃん冗談通じねーんだもんなぁ……』
保の慌てた様子に気を取り直して、円華は電話を持つ手を替えた。
しばらく黙り込んだ後、何か決意したようにまた真剣な声で保が話し始めた。
『おれさぁ、実は高校入ってすぐ七元の姿見つけて、美人だなって思ったんだ。おれの周りに群がってくる同期の女たちと違って、大人って感じで。
〈男なんか興味ねぇ〉って雰囲気でさ。
ま、あん時ゃー男居たらしいけど、数日経って別れたって噂聞いたし、なんかモーション掛けにくくてさ。
近寄りづれーつうか、おれの周りにいねえタイプだったから、どう接していいもんかも判らなくてな……。
その後も男が出来りゃあ一ヶ月かそこらで別れた、の繰り返しばっか耳にして。
実際おれ、七元がフラレんの見た事あんだよ』
「え? いつ? どの男?」
『高柳高の中道、緑凰高の宮原、あと猩海高の制服着てたっけな?
けどどいつん時もあっけなかったぜ。まぁおれも傍から見たらそんなもんだろうけど。
七元も引き際早ぇのな、泣くワケでもなし、殴るわけでもなし。
あー、きっとこいつは本気で男を好きになった事ねぇんだろうなあって思ったら、マジに落としてみたくなって……』
「そんなつまんねー事で、新菜にモーション掛けてたってのかよっ!! 」
円華が保の話を遮り、怒鳴り声を上げた。
電話の向こうでは、チッチッと舌を鳴らして保が否定する。
『人の話を最後まで聞けって。
で、だな。始めはそんなノリから始まっちまったんだけど、二年で同じクラスんなって、何故か本気になってんのに気付いてさあ。
知らず知らずの内に目で追ってんだよ。七元だけは、他のヤローに取られたくねえって。
このおれがだぜぇー。女なんぞにマジんなるわきゃねえって思ってたのによぉ。
今じゃどっぷりはまってんし……』
けっ、と自嘲気味に笑う。
『自分で自分が信じらんねぇよ』
(そっか……そうだったんだ……入学式から新菜のこと――
今までの他の男みたいに飾りとしてじゃなくて本気で――
何言っても新菜がなびいてくんねーからっつって、意地んなってモーション掛けてるとばっか思ってた。
んなんじゃ、私、かないっこない……
いつか新菜のこと諦めて、その時は話聞いたげて、私のことも見てくれるかって思ってたのに。
けど、そんなの聞かされたって、私だって今更諦められないよ……)
円華の胸の内は複雑だった。
しばらく互いに黙り込み、また涙が零れるのを嫌い円華は勢い良く声を出した。
「し、知んなかったぁー、保がそこまで本気だったなんてぇー」
『何? って事は、おれが冗談とか意地でずっと七元のこと追っかけてるって思ってたっつー事かあ!? 』
「うん! そう思ってた」
それだけは隠すまでもない本音。けれど他の気持ちは、ばらすわけにはいかない。断じて。
『うーーーーーー……』
保は空いたほうの手で、ぐしゃぐしゃと髪の毛を掻き乱している。
『言っとくけどなあっ、おれ様ほど、七元のこと愛してるヤローはいねーぞ!! 』
(愛してる、だって)
「はいはい、その台詞、新菜に言ってやったら?」
(私に言って欲しい台詞だって)
心の声と現実の声は掛け離れている。呆れ声。
『今まで何回言ったことやら……』
(なんだ、言ってるんだ)
「言い過ぎて、本気にしてもらえないんじゃねーのぉ?」
嘆息。
『けど、言わねーとわかんねぇだろ?』
保の答えももっともで。
だからこそ、円華は〈ツレ〉として傍に居られる。気持ちを口にしてしまえば、もうこうやって電話すらしてくれなくなるから。学校でも、話し掛けてはくれなくなるから、だから。
『あ、今の話、七元には言うなよ』
「わぁってんよ」
『で、話元に戻す。今訊きたいのは二つ……まず一つ目。〈パンドラ〉で言ってた〈トレーニングウェアの彼〉って、何処のどいつ?』
いきなり話題を戻され、しんみりした口調が切り口上に変わった。
先日新菜にしたのと同じ問いを円華に投げて来る。軽いノリで言ってはいるが、目付きは鋭くなっている筈だ。
ぐ、と息を呑み、円華は怯んだ。
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