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Third Contact すれ違いの純情
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それからの数日間は、アルバイトが入っていたり部活動があったりとなかなか六人揃うこともなく、お互い電話で遣り取りをするにとどまっていた。
そして――
着信メロディで目が覚めるのが日課となってしまった新菜、今朝も定刻八時にベルを止めた。
『オハヨーサン ミチル』
「おはよー」
寝ぼけ眼で瞼を擦りつつ、ポケットベルに向かって挨拶する。
(あいかーらず元気だわ……。今日も部活かなぁ)
ベッドに腰掛けてうーんと背中を伸ばしていると、もう一度メロディが鳴り始めた。
『17サイオメデトウ!』と入っている。
「え?」
はっとしてカレンダーに目を向ける。
(あーっ! そっか……)
ぺりぺりと七月分を破ると真新しい八月分のページがお目見えだ。今日はもう八月一日、新菜の十七歳の誕生日だった。自分でもすっかり忘れてしまっていた。
「満くん、知っててくれたんだ……」
(あたし、いつんなコト言ったんだろ)
少し不思議に思いながらも、素直に嬉しく感じる。なんたって一番最初におめでとうを言ってくれたのだから。
「ふうん……」
なんとはなしに手の中でポケベルを弄びながら、その余韻を楽しんでいた。
「あーっっ、今日何しよう」
ソファーに寝転がって肘置きを枕代わりにしていたウォルターは、つまらなさそうに声を出した。自分の頭上にあるパキラの葉っぱを指先でつまみ軽く引いてみたりする。
「いいなぁ、学生は」
やや明るめのセミロングヘアを夜会巻きにまとめながら、スーツ姿の女性が笑った。
「課題とか済んだの?」
「もう八割方済んだ」
当然のように言ってのけ、うーんと伸びをするウォルター。
「げ。夏休みの友じゃあるまいし、進学校の課題がそんなに早く済むもんなのぉ!? 高校の課題って無茶苦茶沢山出るじゃない」
自分の若い頃を思い出したのか、女性は呆れ顔だった。
「そりゃあ、解らなかったりして調べる分には時間掛かるんだろうけどさ。俺、古文漢文以外はそんなに時間くわねーもん」
「頭いいって得ねぇ……」
そうそう、辞書を引いたりするのに手間取るんだったわ、と溜め息が漏れた。
「それより百合サン、そろそろ時間だよ」
「あ、うん、そうね。ウォルターまた寄ってね。好きな時に帰ってくれたらいいから」
オートロックのマンションなので鍵の管理の心配はなく、女性はテーブルの隅に置いてあるショルダーバッグを右肩に掛けると軽く手を振った。
「んー。洗い物したら帰る。いってらっしゃい」
ウォルターは物憂げな表情を消し、体を起こして微笑みながら投げキッスをした。
働いている人を気持ち良く送り出すのは養われている者の務めである。
「いってきまぁすっ」
嬉しそうに百合も投げて返し、足に馴染んだパンプスを履いて玄関のドアを開けた。
そして――
着信メロディで目が覚めるのが日課となってしまった新菜、今朝も定刻八時にベルを止めた。
『オハヨーサン ミチル』
「おはよー」
寝ぼけ眼で瞼を擦りつつ、ポケットベルに向かって挨拶する。
(あいかーらず元気だわ……。今日も部活かなぁ)
ベッドに腰掛けてうーんと背中を伸ばしていると、もう一度メロディが鳴り始めた。
『17サイオメデトウ!』と入っている。
「え?」
はっとしてカレンダーに目を向ける。
(あーっ! そっか……)
ぺりぺりと七月分を破ると真新しい八月分のページがお目見えだ。今日はもう八月一日、新菜の十七歳の誕生日だった。自分でもすっかり忘れてしまっていた。
「満くん、知っててくれたんだ……」
(あたし、いつんなコト言ったんだろ)
少し不思議に思いながらも、素直に嬉しく感じる。なんたって一番最初におめでとうを言ってくれたのだから。
「ふうん……」
なんとはなしに手の中でポケベルを弄びながら、その余韻を楽しんでいた。
「あーっっ、今日何しよう」
ソファーに寝転がって肘置きを枕代わりにしていたウォルターは、つまらなさそうに声を出した。自分の頭上にあるパキラの葉っぱを指先でつまみ軽く引いてみたりする。
「いいなぁ、学生は」
やや明るめのセミロングヘアを夜会巻きにまとめながら、スーツ姿の女性が笑った。
「課題とか済んだの?」
「もう八割方済んだ」
当然のように言ってのけ、うーんと伸びをするウォルター。
「げ。夏休みの友じゃあるまいし、進学校の課題がそんなに早く済むもんなのぉ!? 高校の課題って無茶苦茶沢山出るじゃない」
自分の若い頃を思い出したのか、女性は呆れ顔だった。
「そりゃあ、解らなかったりして調べる分には時間掛かるんだろうけどさ。俺、古文漢文以外はそんなに時間くわねーもん」
「頭いいって得ねぇ……」
そうそう、辞書を引いたりするのに手間取るんだったわ、と溜め息が漏れた。
「それより百合サン、そろそろ時間だよ」
「あ、うん、そうね。ウォルターまた寄ってね。好きな時に帰ってくれたらいいから」
オートロックのマンションなので鍵の管理の心配はなく、女性はテーブルの隅に置いてあるショルダーバッグを右肩に掛けると軽く手を振った。
「んー。洗い物したら帰る。いってらっしゃい」
ウォルターは物憂げな表情を消し、体を起こして微笑みながら投げキッスをした。
働いている人を気持ち良く送り出すのは養われている者の務めである。
「いってきまぁすっ」
嬉しそうに百合も投げて返し、足に馴染んだパンプスを履いて玄関のドアを開けた。
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