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Second Contact 王様ゲーム
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他の二組を案内した後、ウォルターは円華と一緒に自分の部屋へと向かった。
セミダブルのベッドと書棚はダークブラウンで、カーテンやベッドカバーなどの寝具はセピア調でまとめられている。落ち着いた雰囲気の部屋だった。
窓の傍にはベンジャミンと椰子の鉢植えが置いてあり、男の一人住まいには珍しいな、と円華の目を引いた。
「いい部屋だね」
円華はポスンとベッドに腰掛けた。
「ありがと」
手に持っていたグラスを小さなガラステーブルに置いて、ウォルターが微笑んだ。
「掃除とか全部自分でしてんの? 広いのに大変じゃない? 物置部屋でもあるかと思ったら、それぞれそれなりに使ってるっぽかったし」
「んーまあね。けど別に嫌いじゃないから……それに姉も時々来てくれるし」
「え、お姉さんいるの?」
「ん。けど国にいるからあんまり来ないよ」
「そっかあ……じゃ、やっぱり一人なんだねぇ……寂しくない?」
他意はなく、何の気なしに口にした円華だったが、一瞬ウォルターが動きを止めた。
そう、本当は、寂しさを紛らわすために料理や掃除に勤しんだり、女性宅に泊まったりしているのだと、自覚はしているのだ。
ただ、会ったばかりの人にそれを指摘されるのは少し悔しくもある。望んでここに来たのだという自負心もある。
クラスメイトなどは羨ましがって終わりだったというのに。
「――かもね」
ウォルターは開襟シャツを脱ぎ、スラックスのベルトを抜いた。
「だとしたら、慰めてくれるの?」
笑みの形に唇の端を上げて円華の隣に腰掛けると、その肩がぴくりと震えるのが判った。
「少し、運動する?」
あんまりさらりと言うものだから、円華は何のことだか気付くのに時間を要した。
「あ、私……はっ」
カッと赤面して目を逸らすと追い討ちが掛かる。
「俺、上手い方だと思うけど」
「や、そういうことじゃなくってっ」
「好きな男がいるから……?」
「えっ」
なんで、と目を合わせ口ごもる。
「判るよ。伊達に遊んでないから」
わざと軽く言うウォルターを、情けなさそうに円華は見つめた。
「ひょっとして、ニーナたちにも内緒なんじゃない?」
半ば確信している問いに、円華はこくんと頷く。
「そっかぁ」
ウォルターは、そっと手を伸ばして円華の髪を撫でた。今度は緊張せずに受け入れられる。
「頑張れ」
「ん……」
その手の平があんまりにも優しすぎて、不覚にも涙が零れそうになり、奥歯を噛み締めることでなんとか堪えた。
「じゃ、これは友達のキス」
ウォルターは、横からそっと唇の端をついばんだ。
「明日からもマドカが頑張れますようにって祈っとくよ」
「……ん。ありがと、ウォルター」
「うん」
ウォルターはもう一度髪を撫でると、リモコンでライトを消した。
「おやすみ」とそれぞれに声を掛け、円華は壁際に横になり夏物の布団を胸まで掛けた。
ウォルターはそれを見守り、テーブルのグラスを手に取った。
セミダブルのベッドと書棚はダークブラウンで、カーテンやベッドカバーなどの寝具はセピア調でまとめられている。落ち着いた雰囲気の部屋だった。
窓の傍にはベンジャミンと椰子の鉢植えが置いてあり、男の一人住まいには珍しいな、と円華の目を引いた。
「いい部屋だね」
円華はポスンとベッドに腰掛けた。
「ありがと」
手に持っていたグラスを小さなガラステーブルに置いて、ウォルターが微笑んだ。
「掃除とか全部自分でしてんの? 広いのに大変じゃない? 物置部屋でもあるかと思ったら、それぞれそれなりに使ってるっぽかったし」
「んーまあね。けど別に嫌いじゃないから……それに姉も時々来てくれるし」
「え、お姉さんいるの?」
「ん。けど国にいるからあんまり来ないよ」
「そっかあ……じゃ、やっぱり一人なんだねぇ……寂しくない?」
他意はなく、何の気なしに口にした円華だったが、一瞬ウォルターが動きを止めた。
そう、本当は、寂しさを紛らわすために料理や掃除に勤しんだり、女性宅に泊まったりしているのだと、自覚はしているのだ。
ただ、会ったばかりの人にそれを指摘されるのは少し悔しくもある。望んでここに来たのだという自負心もある。
クラスメイトなどは羨ましがって終わりだったというのに。
「――かもね」
ウォルターは開襟シャツを脱ぎ、スラックスのベルトを抜いた。
「だとしたら、慰めてくれるの?」
笑みの形に唇の端を上げて円華の隣に腰掛けると、その肩がぴくりと震えるのが判った。
「少し、運動する?」
あんまりさらりと言うものだから、円華は何のことだか気付くのに時間を要した。
「あ、私……はっ」
カッと赤面して目を逸らすと追い討ちが掛かる。
「俺、上手い方だと思うけど」
「や、そういうことじゃなくってっ」
「好きな男がいるから……?」
「えっ」
なんで、と目を合わせ口ごもる。
「判るよ。伊達に遊んでないから」
わざと軽く言うウォルターを、情けなさそうに円華は見つめた。
「ひょっとして、ニーナたちにも内緒なんじゃない?」
半ば確信している問いに、円華はこくんと頷く。
「そっかぁ」
ウォルターは、そっと手を伸ばして円華の髪を撫でた。今度は緊張せずに受け入れられる。
「頑張れ」
「ん……」
その手の平があんまりにも優しすぎて、不覚にも涙が零れそうになり、奥歯を噛み締めることでなんとか堪えた。
「じゃ、これは友達のキス」
ウォルターは、横からそっと唇の端をついばんだ。
「明日からもマドカが頑張れますようにって祈っとくよ」
「……ん。ありがと、ウォルター」
「うん」
ウォルターはもう一度髪を撫でると、リモコンでライトを消した。
「おやすみ」とそれぞれに声を掛け、円華は壁際に横になり夏物の布団を胸まで掛けた。
ウォルターはそれを見守り、テーブルのグラスを手に取った。
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