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Second Contact 王様ゲーム
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「浩司くん、待ってってばあ」
さっさとダイニングに行こうとする浩司に、後ろからパフッと翔子が抱きついた。
「わぁい。石鹸のいい香りぃ」
背中に頬擦りして至福の表情だ。
「邪魔っ、重いしっ」
言いながら構わずに歩いて行く浩司。翔子はずるずると引きずられてダイニングに辿り着いた。
暖簾をくぐると卵とバターの良い匂いが漂って来る。
「もうすぐ出来るよーん」
ウォルターがレタスをちぎって一枚づつ洗っていた。
「さんきゅ。じゃ、もう並べればいいのか?」
ん、と手を動かしながら頷くのをみとめ、浩司は食器棚からグラスを取り出して冷蔵庫で冷やしていた麦茶を人数分注いだ。
カトラリーを並べている間も翔子はぺったりとくっついている。いくら冷房が効いているとはいえ暑苦しいことこの上ない。
「お前なぁ、離れないとメシ食わせねーぞ」
「うー……それはイヤかも。じゃ一旦離れる」
渋々離れると、翔子はグラスを席順に並べた。
「あれ? そういえば後の二人は?」
てっきりテレビでも見ているかおしゃべりして待っているかと思っていたのに、リビングは無人だった。不審に思い、浩司は翔子に尋ねた。
「二階に上がってったみたいだよ」
いい匂い~と翔子は息を吸い込んでいる。もう色気より食い気にシフトしたようだ。
「何ぃ!? 二階―っ!?」
浩司は慌てて階段を駆け上がった。今更どうにもならないだろうが、少しでも早く二人を部屋から追い出したかったのだろう。
そしてドアノブを掴もうとした時、カチャリとドアが内側に開いた。
「あれ? どしたの」
のほほんと円華が言った。気配で浩司が上がってきたのは判っていた様だ。
「お前らぁ……人の部屋で何してんだよ」
激昂とまでは行かないが、明らかに怒っている。
「ウォルターが適当にしててって言うから、部屋でくつろいでただけじゃん」
円華がウインクひとつ。
「あ、それとぉ、あの紙、放り投げてちゃダメだよ」
「そうそう、コルクボードに貼り付けといたから」
円華の言葉に新菜が付け足した。
「コルクボード……だと?」
訝しげな表情の後、何ともいえない複雑な顔で浩司はフイと視線を逸らせた。
「あー……あれ、見たのか……?」
視線だけちらりと二人を窺がった。
「〈あれ〉ってアレ?」
新菜は顎に指を当てて円華を見遣り、円華は浩司を上目遣いに見上げてにんまりと笑った。
円華にぽんぽんと無言で肩を叩かれて浩司は居心地の悪い思いをしたものの、だからといって別に自分が下手に出る必要はないと思い直し、すっといつもの無表情に戻った。
「メシもう出来てるって」
それだけ言って階段を下り始めた浩司の背中を見ながら、新菜も円華もそれぞれに思うところはあったものの口には出さず「ふうん」と頷いて後を追ったのだった。
さっさとダイニングに行こうとする浩司に、後ろからパフッと翔子が抱きついた。
「わぁい。石鹸のいい香りぃ」
背中に頬擦りして至福の表情だ。
「邪魔っ、重いしっ」
言いながら構わずに歩いて行く浩司。翔子はずるずると引きずられてダイニングに辿り着いた。
暖簾をくぐると卵とバターの良い匂いが漂って来る。
「もうすぐ出来るよーん」
ウォルターがレタスをちぎって一枚づつ洗っていた。
「さんきゅ。じゃ、もう並べればいいのか?」
ん、と手を動かしながら頷くのをみとめ、浩司は食器棚からグラスを取り出して冷蔵庫で冷やしていた麦茶を人数分注いだ。
カトラリーを並べている間も翔子はぺったりとくっついている。いくら冷房が効いているとはいえ暑苦しいことこの上ない。
「お前なぁ、離れないとメシ食わせねーぞ」
「うー……それはイヤかも。じゃ一旦離れる」
渋々離れると、翔子はグラスを席順に並べた。
「あれ? そういえば後の二人は?」
てっきりテレビでも見ているかおしゃべりして待っているかと思っていたのに、リビングは無人だった。不審に思い、浩司は翔子に尋ねた。
「二階に上がってったみたいだよ」
いい匂い~と翔子は息を吸い込んでいる。もう色気より食い気にシフトしたようだ。
「何ぃ!? 二階―っ!?」
浩司は慌てて階段を駆け上がった。今更どうにもならないだろうが、少しでも早く二人を部屋から追い出したかったのだろう。
そしてドアノブを掴もうとした時、カチャリとドアが内側に開いた。
「あれ? どしたの」
のほほんと円華が言った。気配で浩司が上がってきたのは判っていた様だ。
「お前らぁ……人の部屋で何してんだよ」
激昂とまでは行かないが、明らかに怒っている。
「ウォルターが適当にしててって言うから、部屋でくつろいでただけじゃん」
円華がウインクひとつ。
「あ、それとぉ、あの紙、放り投げてちゃダメだよ」
「そうそう、コルクボードに貼り付けといたから」
円華の言葉に新菜が付け足した。
「コルクボード……だと?」
訝しげな表情の後、何ともいえない複雑な顔で浩司はフイと視線を逸らせた。
「あー……あれ、見たのか……?」
視線だけちらりと二人を窺がった。
「〈あれ〉ってアレ?」
新菜は顎に指を当てて円華を見遣り、円華は浩司を上目遣いに見上げてにんまりと笑った。
円華にぽんぽんと無言で肩を叩かれて浩司は居心地の悪い思いをしたものの、だからといって別に自分が下手に出る必要はないと思い直し、すっといつもの無表情に戻った。
「メシもう出来てるって」
それだけ言って階段を下り始めた浩司の背中を見ながら、新菜も円華もそれぞれに思うところはあったものの口には出さず「ふうん」と頷いて後を追ったのだった。
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