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First Contact 海へいこう!
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細長いカットグラスの中で、氷がカランと音を立てた。ジンジャーエールの細かい泡が、グラスの中で微かに立ち昇っては弾けて消えていく。その様子をなんとはなしに眺めていると、
「どうしたの? 珍しくお疲れのようね」
黒いスリップドレス一枚の女性が、腰まで届く豊かな黒髪にブラシを入れながら、カウチに向かって声を掛けた。
「ん……海、行ってたんだ」
寝そべっていた男性は、そっと目を瞑った。波の余韻に体を委ねているのかもしれない。
「それで来るなりシャワーを使ったの? まさかシャワールーム代わりにされるとはね」
女は鏡台の前でくすくすと笑った。
「家、帰ってもつまんないんだもん」
女より数歳年下であろう。わざと唇を尖らせ、幼い口調で応じる。
「一人は寂しいって? いいのよ、ずっとここにいても」
一人暮らしには広すぎるほどのマンションだった。部屋数は多くないが、スペースがたっぷりととってあり、女の仕事柄、高級な家具が数点品良く配置されており、無駄なものは一切なかった。
ブラシを置くと、女はゆっくりと裸足でカウチに歩み寄って行った。
「今晩泊めてよ、雪絵サン」
気配を感じて、目が開かれた。ムードライトのみの薄暗い照明に、グリーンの瞳が僅かに光った。
またかわされたなあと内心がっかりしながらも、雪絵は床に膝をつく。それもいつものことだ。
そっと髪に手を遣ると、ブロンドはまだ湿り気を帯びていた。自分と同じシャンプーの香りに、少しほっとする。
少なくとも今だけは――自分のものなのだ。
「勿論」
いいわよ、という言葉を、長い指が止めた。
そのまま腕が首の後ろにと回されて、雪絵は引き寄せられる。そうして……雪絵とウォルターの唇が重なった。
「どうしたの? 珍しくお疲れのようね」
黒いスリップドレス一枚の女性が、腰まで届く豊かな黒髪にブラシを入れながら、カウチに向かって声を掛けた。
「ん……海、行ってたんだ」
寝そべっていた男性は、そっと目を瞑った。波の余韻に体を委ねているのかもしれない。
「それで来るなりシャワーを使ったの? まさかシャワールーム代わりにされるとはね」
女は鏡台の前でくすくすと笑った。
「家、帰ってもつまんないんだもん」
女より数歳年下であろう。わざと唇を尖らせ、幼い口調で応じる。
「一人は寂しいって? いいのよ、ずっとここにいても」
一人暮らしには広すぎるほどのマンションだった。部屋数は多くないが、スペースがたっぷりととってあり、女の仕事柄、高級な家具が数点品良く配置されており、無駄なものは一切なかった。
ブラシを置くと、女はゆっくりと裸足でカウチに歩み寄って行った。
「今晩泊めてよ、雪絵サン」
気配を感じて、目が開かれた。ムードライトのみの薄暗い照明に、グリーンの瞳が僅かに光った。
またかわされたなあと内心がっかりしながらも、雪絵は床に膝をつく。それもいつものことだ。
そっと髪に手を遣ると、ブロンドはまだ湿り気を帯びていた。自分と同じシャンプーの香りに、少しほっとする。
少なくとも今だけは――自分のものなのだ。
「勿論」
いいわよ、という言葉を、長い指が止めた。
そのまま腕が首の後ろにと回されて、雪絵は引き寄せられる。そうして……雪絵とウォルターの唇が重なった。
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