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First Contact 海へいこう!
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(そんなに冷たい言い方しなくっても……ヤンキーでおしゃべりって、それって私が嫌いってこと……?)
反対側から円華がその肩をぽんぽんと叩いた。「気にすんな」と囁くように慰められる。
「ところでコウちゃん、その首筋のものは何かなあ?」
場の空気を変えるように、ニヤニヤ笑いながら紫が尋ねた。ミラーに映っているのが見えたらしい。
「え」
慌てて首筋を押さえてももう遅い。既に見られてしまったものは仕方がない。
「何って言われても…俺の知らない間に付けられたもんだし……」
「だあれに~?」
相変わらず面白そうに微笑みながら、ミラー越しに女三人を見る紫。
浩司以外が翔子をちらりと見た。
「んー。〈付けられた〉は正確じゃないなぁ。〈付け返された〉んだよねぇ」
円華がしらーっと言うと、
「はははっ、そりゃー言えるわ」
と満が同調し、その隣のウォルターもニヤニヤ笑っている。
「だーかーらー、俺は自覚してねぇんだってば」
ぶつぶつと言い訳めいたことをぬかしている弟にピンと来たのか、「それはただの言い訳よねぇ」と紫は息を吐いて煙草を消した。
「あんたほんと起きぬけ悪いし。どうせ寝ている間のことで覚えてないって理屈なんでしょうけど、本人がやってることなんだから知らぬ存ぜぬじゃ通らないのよ?」
ズバリと言い当てる。伊達に十七年も姉をやっているわけではないのだ。
「んなこと言ったって、ホントに覚えてねえし……」
それでも浩司は納得がいかないようだったが、話に区切りをつけるように匡が紫を促した。
「まあ取り敢えず車出そうぜ。いつまでも駐車場にいるわけにもいかんだろ」
「そりゃそうね。で、何処に向かえばいいのかな? お嬢さんたち」
ようやく紫が振り向いた。
浩司をそのまま女性らしくしたような姿に、翔子ははっと息を飲む。勿論男と女の差異は沢山あるのだが、二人が並んでいれば誰もが姉弟だと判るだろう。
「上依知町までお願いします」
「オッケイ」
いつになく畏まって円華が指定し、紫はにこやかに返答してチェンジをドライブに入れた。スムースに車が発進する。
「で、どっちが声掛けたのー? お姉さん知りたいわあ」
弟からは殆ど情報が得られないのは判りきっているので、紫はここで情報収集する気満々だった。
「あ、はい」
円華が軽く挙手した。
「あんまりにもナイスガイが揃ってるもんで、ここで声掛けとかなきゃ一生後悔すると思って」
運転しながらウヒャヒャヒャと紫が変な笑いをし、「おいおいアブねーぞ」とハンドルと前を見遣りながら匡が心配していた。
「こん中でナイスガイって公言できるのウォルターぐらいでしょ。円華ちゃん褒めすぎだよ」
満が苦笑いしている。
そお? とウォルターが前髪をさらりとかき上げた。
「確かに一番目立ってたのはウォルターだけどっ、満くんも浩司くんもかなりいい男だよっ」
立ち直ったのか翔子が力説した。
「翔子ちゃんの目には軸谷っきゃ入ってなかったもんなぁ」
満がにやりと笑い、翔子は頬を赤らめて拳を下ろした。
「へえ……コウちゃんにねぇ……」
紫はミラーで仏頂面の弟を視認すると、「あのねえ」と少し大き目の声を上げた。
「うちの電話番号―、0#########なのぉ。憶えたあ?」
いきなりの情報に、女三人はわたわたと荷物を引っ掻き回した。
突然何を言うのかとその意図が掴めず、浩司は呆然としている。
ようやく携帯電話を探し出した翔子と円華が電話帳を開いた。
「な、何番?」
紫に確認しようとするのを制して、新菜が先程の電話番号を告げた。
いつもはスケジュール帳を持ち歩いているのだが、そういえば今日は荷物に入れていなかったことを思い出し、新菜は足元の鞄から手を出した。
まさかこんなところで必要になろうとは。
登録しながら、
「記憶力いいねぇ、新菜は」
と円華が言い、「あんたらが悪すぎ」と返して新菜は足を組み替えた。
(しゃーない。家に帰ってから念の為書き込んどくか)
「んでもってねぇ、親もあたしもあんまり電話に出ないし、まあ出たとしてもちゃんと換わってあげるから安心して掛けてきてね~」
ミラーの向こうでウインクする紫に「ああーっ」と浩司が声を上げた。ここにきてようやく紫の魂胆に気付いたのだ。
「あー、うちはね~######。残念ながら家族も出るけど~」
と満が割って入った。
「んでウォルターんちが######。一人暮らし。よろしくねっ」
勝手に人の家の電話番号を言っているが、ウォルターは別に気にしていない様子だ。
満の言葉を新菜は頭にインプット。円華と翔子は登録する指がせわしなく動いている。
「満くんの苗字は?」
先に番号を入れてから、画面を見たまま円華が訊ねた。
「榎本」
「えのもとって木へんに夏と本でいいの?」
「そうそう」
「ウォルターは?」
円華より先に登録を終えた翔子が尋ねた。
「ラ・シーンだよ」
またしても満が勝手に答えている。
ウォルター・ラ・シーンと名前を入力した円華の指がピタリと止まる。名前を登録している間にもう番号を忘れてしまっていた。
それを見て取った新菜が嘆息して番号を呟いた。三種類の電話番号を一回で憶えてしまったらしい。市外局番は同じだといえ、なかなか凄い特技だった。
反対側から円華がその肩をぽんぽんと叩いた。「気にすんな」と囁くように慰められる。
「ところでコウちゃん、その首筋のものは何かなあ?」
場の空気を変えるように、ニヤニヤ笑いながら紫が尋ねた。ミラーに映っているのが見えたらしい。
「え」
慌てて首筋を押さえてももう遅い。既に見られてしまったものは仕方がない。
「何って言われても…俺の知らない間に付けられたもんだし……」
「だあれに~?」
相変わらず面白そうに微笑みながら、ミラー越しに女三人を見る紫。
浩司以外が翔子をちらりと見た。
「んー。〈付けられた〉は正確じゃないなぁ。〈付け返された〉んだよねぇ」
円華がしらーっと言うと、
「はははっ、そりゃー言えるわ」
と満が同調し、その隣のウォルターもニヤニヤ笑っている。
「だーかーらー、俺は自覚してねぇんだってば」
ぶつぶつと言い訳めいたことをぬかしている弟にピンと来たのか、「それはただの言い訳よねぇ」と紫は息を吐いて煙草を消した。
「あんたほんと起きぬけ悪いし。どうせ寝ている間のことで覚えてないって理屈なんでしょうけど、本人がやってることなんだから知らぬ存ぜぬじゃ通らないのよ?」
ズバリと言い当てる。伊達に十七年も姉をやっているわけではないのだ。
「んなこと言ったって、ホントに覚えてねえし……」
それでも浩司は納得がいかないようだったが、話に区切りをつけるように匡が紫を促した。
「まあ取り敢えず車出そうぜ。いつまでも駐車場にいるわけにもいかんだろ」
「そりゃそうね。で、何処に向かえばいいのかな? お嬢さんたち」
ようやく紫が振り向いた。
浩司をそのまま女性らしくしたような姿に、翔子ははっと息を飲む。勿論男と女の差異は沢山あるのだが、二人が並んでいれば誰もが姉弟だと判るだろう。
「上依知町までお願いします」
「オッケイ」
いつになく畏まって円華が指定し、紫はにこやかに返答してチェンジをドライブに入れた。スムースに車が発進する。
「で、どっちが声掛けたのー? お姉さん知りたいわあ」
弟からは殆ど情報が得られないのは判りきっているので、紫はここで情報収集する気満々だった。
「あ、はい」
円華が軽く挙手した。
「あんまりにもナイスガイが揃ってるもんで、ここで声掛けとかなきゃ一生後悔すると思って」
運転しながらウヒャヒャヒャと紫が変な笑いをし、「おいおいアブねーぞ」とハンドルと前を見遣りながら匡が心配していた。
「こん中でナイスガイって公言できるのウォルターぐらいでしょ。円華ちゃん褒めすぎだよ」
満が苦笑いしている。
そお? とウォルターが前髪をさらりとかき上げた。
「確かに一番目立ってたのはウォルターだけどっ、満くんも浩司くんもかなりいい男だよっ」
立ち直ったのか翔子が力説した。
「翔子ちゃんの目には軸谷っきゃ入ってなかったもんなぁ」
満がにやりと笑い、翔子は頬を赤らめて拳を下ろした。
「へえ……コウちゃんにねぇ……」
紫はミラーで仏頂面の弟を視認すると、「あのねえ」と少し大き目の声を上げた。
「うちの電話番号―、0#########なのぉ。憶えたあ?」
いきなりの情報に、女三人はわたわたと荷物を引っ掻き回した。
突然何を言うのかとその意図が掴めず、浩司は呆然としている。
ようやく携帯電話を探し出した翔子と円華が電話帳を開いた。
「な、何番?」
紫に確認しようとするのを制して、新菜が先程の電話番号を告げた。
いつもはスケジュール帳を持ち歩いているのだが、そういえば今日は荷物に入れていなかったことを思い出し、新菜は足元の鞄から手を出した。
まさかこんなところで必要になろうとは。
登録しながら、
「記憶力いいねぇ、新菜は」
と円華が言い、「あんたらが悪すぎ」と返して新菜は足を組み替えた。
(しゃーない。家に帰ってから念の為書き込んどくか)
「んでもってねぇ、親もあたしもあんまり電話に出ないし、まあ出たとしてもちゃんと換わってあげるから安心して掛けてきてね~」
ミラーの向こうでウインクする紫に「ああーっ」と浩司が声を上げた。ここにきてようやく紫の魂胆に気付いたのだ。
「あー、うちはね~######。残念ながら家族も出るけど~」
と満が割って入った。
「んでウォルターんちが######。一人暮らし。よろしくねっ」
勝手に人の家の電話番号を言っているが、ウォルターは別に気にしていない様子だ。
満の言葉を新菜は頭にインプット。円華と翔子は登録する指がせわしなく動いている。
「満くんの苗字は?」
先に番号を入れてから、画面を見たまま円華が訊ねた。
「榎本」
「えのもとって木へんに夏と本でいいの?」
「そうそう」
「ウォルターは?」
円華より先に登録を終えた翔子が尋ねた。
「ラ・シーンだよ」
またしても満が勝手に答えている。
ウォルター・ラ・シーンと名前を入力した円華の指がピタリと止まる。名前を登録している間にもう番号を忘れてしまっていた。
それを見て取った新菜が嘆息して番号を呟いた。三種類の電話番号を一回で憶えてしまったらしい。市外局番は同じだといえ、なかなか凄い特技だった。
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