Complex

亨珈

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First Contact 海へいこう!

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 新菜は苦笑して右手を振ったが「いいから」と満は譲らない様子。
 少し融けた氷を新菜がストローで吸って間を取っていると、満は質問を変えた。

「女子校?」

「なワケない」

「共学ね。で、制服はセーラー?」

 新菜はぶんぶんと首を振る。

「ブレザー?」

「て言ってたら判っちゃうじゃんかっ」

カキ氷を食べながら頑なに拒む新菜を満は不思議そうに見つめている。

「何でそんなに隠すわけ? 別にいいじゃん、教えてくれたって」

「ロクでもないとこだから……。大体、知ってどーすんの?」

「遊びに行くに決まってんでしょー」

 当然、と言って満は氷を大盛りにすくって頬張った。

 これはますます教えられない、と新菜は口を噤んだが、満は数回噛んで嚥下すると、にまっと笑った。

「けど今のでなんとなーく判っちゃったもんね。ネクタイは赤……じゃなくて紺でしょ」

 新菜の表情を伺いながら最後のチェックを入れると、

「じゃあ梁累だろ? 当たり?」

 満はストローで新菜を指し示した。
 新菜は「あーあ」と溜め息。

「バレちゃったかあ……」

「まっね~。だって髪の色皆派手だし、板についてるトコみると夏休みだけはじけてるってんじゃなさそうだし」

 食べ終えたカップをシートに置くと、満は両手を脇について仰向け気味に背中を伸ばした。

 うう、と唸って真っ赤にマニキュアされた自分の前髪を引っ張る新菜。

「あたしらの学校って、他校のもんからしたらいい印象なんていっこもねーし、頭いい学校じゃねぇしな。ま、中坊ん時バカやってたあたしも円華も県立じゃあっこっきゃ行くところなかったんだけど……」

 自嘲気味に軽く舌を出した。

「けど、今は結構好きなんだ。梁塁行ったお陰で円華ともツルんでられっし、翔子らとも会えたんだし」

 隣のシートでウォルターと歓談している円華、そしてほくほく顔でカキ氷を頬張っている翔子に目を遣った。

「オレは〈ろくでもねー〉なんて思ったこと、一度もないぜ? 喧嘩話ならしょっちゅー聞いてるけど」

 さりげなくフォローを入れてくれる満の声に、新菜はくすりと微笑んだ。

 すると満はにやりと横目で見て、首を傾げた。

「そぉいやー梁塁高のもんで〈新菜〉って聞いたことあるんだよな~」

 含むような言い方に新菜は「げっ」と首を竦める。

「フルネーム〈七元新菜〉――だっけ?」

 すっと顔を近づけてくる満に色んな意味でどきどきしてしまう。

「で、あっちが〈朝霧円華〉と〈矢部翔子〉かあ。あと二人〈宮園唯〉と〈倉本夏美〉でつるんでるとかって」

 後三分の一ほど残ったカキ氷は半ば融けてしまい、手の中で紙コップがへこんだ。

「な、な、なんで星野原のもんまで知って……」

「結構知ってる。オレは練習試合したときに梁塁のやつらがしゃべってるの聞いたんだけど」

 にこっと笑うとなんとも愛くるしい顔になるんだ、と新菜は頭の隅で思った。手の平一つ分ほどの至近距離での普通の会話など、他の男子としたことがない。

「ガッコの名前知らなかったら気付いてなかったかな~。けど今まで名前だけが知れ渡っていて、なんとなーくゴツイ女想像してたからさ、今オレすげーラッキーって感じ」

「ら、ラッキィ?」

「ん。オレらのガッコにはさ、勿論そんなチームとかないんだけど……他校同士の喧嘩でしょっちゅう耳にするのがその五人だったわけ。でこうも流れてくるとやっぱ想像するのは顔でしょ」

「悪かったねっ、ご想像に添えなくて!」

 あまりにも近過ぎて、反対側を向くしか視線の逃げ場がなかった新菜は、ふいっと顔を背けた。

「うん。想像と全然違ってヒットだった」

 思ってもいなかった言葉に、思わず振り返る。

(え? なに? 今なんつった??)

 今度は満のほうが視線を海に向けてしまった。

「男相手でも容赦なく叩きのめすっつーから、すげぇいかついの想像してた」

 新菜には言葉が見つからず、満の眺めている方へと視線を合わせた。その先に砂浜を歩いてくる男子がいた。

「よお、軸谷」

 満は手を高く上げて振った。その声で隣のシートのキャピキャピ声がぴたりと止まる。

「浩司くうん!」

 翔子は食べかけのかき氷を持ったまま片手でおいでおいでと手招きし、「ここここー」と自分の隣を手の平で叩く。

「いいもん食ってんね」

 パラソルに近付きながら言う浩司に、

「お前の分クーラーボックスん中」

と満が指し示した。

 とったげるね、と翔子がいそいそと取り出して手渡したので、成り行き上仕方ないと思ったのか、浩司は先程誘われた場所に腰を下ろした。その途端に座り直した翔子がするりと腕を絡ませてくる。

「うわわ……っ」

 びっくりして氷のカップを取り落としそうになる浩司。

「あっぶねーなあ、もう」

 満がにやっと笑った。

「折角買ってきたんだから、残さず食えよな」

「うぅ」

 声を詰まらせた浩司だったが、ふうっと息を吐いて気を取り直すと、腕のことは無視してカキ氷の攻略に掛かった。クーラーボックスのお陰で、入れたときのまま食べ頃状態だった。

「浩司くん、美味しい?」

 腕を絡めたまま、翔子が擦り寄るようにして尋ねた。まるで自分の手作りであるかのような尋ね方だ。

「ん」

 生返事でシャグシャグと食べ続ける浩司。既に半分以上は腹の中に納まっているようだ。

「甘いもの平気なんだね~。男の人って、ミルクとか小豆とか嫌いな人多いのに」

 翔子は何とかして更に接近しようと段々体を近付けている。

「まあな。大概なんでも食うけど」

 寄られた分だけ逃げるのだが、余り逃げすぎてもパラソルから外に出てしまうため、浩司は途中で諦めた。
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