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First Contact 海へいこう!
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イベントになると張り切ったり仕切ったりする人種が必ずいるものだが、まあ満もそんな性格なのだろう。他に誰もやらないからということもあるが、このメンバーでは自然と親分肌になってしまうのは仕方がないことなのかもしれない。
三人の中では一番小柄な満だが、運動部に所属していることもあり、自分の荷物は全て軽々と持ったまま、遊泳区域の端の方まで歩いた。岩場のすぐ傍でも有り、海の家や売店には少し距離があるせいか人影はまばらだ。
歩いている間中、先客たちがちらちらと視線を投げてきていたが、既に学校や街中で慣れっこになっているのか三人とも全く意に介していない。
ウォルターと行動を共にするとどうしても目立ってしまうので、免疫がついているのだ。
「よし、この辺にすっか」
一人で納得すると、満はさかさかと支度を始めた。持参した大きな袋の中からパラソルスタンドを出して砂を入れると穴にパラソルを差し込み、広げたビニールシートの上で影の位置を確認しながら固定する。そしてペグをシートの端がめくれないように打ち込み更に荷物も重石代わりに端の方に載せた。
その間ぽかんと眺めていた二人を手招きして「もういいぞー」と言うまで僅か数分だった。
「おっまえ、実に要領いいなぁ」
半ば呆れて浩司が言い、自分の荷物をどさりとシートに落とした。
「何言ってんの。いかに居心地良くして快適に過ごすか。折角来たのに楽しまないとっ」
したり顔で首を振りながら、満は自分の着替えを取り出している。
「ただでさえ疲れるのに、装備がなくて余計金掛かるなんてやだもんね~。茣蓙とか借りたら結構高いっしょ?」
「そんなに疲れんの?」
ウォルターは不思議そうにしながらも、自分も荷物を下ろして着替えを取り出した。
「そ。ウォルター、海を甘く見るなよ~。上からの紫外線だけじゃなくて海面や砂からの照り返しでめっちゃ日焼けするんだ。だから泳がなくたってビーチにいるだけで体力奪われるってわけ」
「へぇ~」
わくわくした顔で満に習いウォルターも服を脱ぐ。どうやら二人とも下に水着を着用しているらしく、それに気付いた浩司は一人むうっとしていた。
「ほら、折角岩場の近くに来たんだから、あっちで着替えてくれば?」
「おう」
促され一人ぽてぽてと歩き出す後姿に、「ここでも誰も気にしないんじゃね?」とウォルターが声を掛けたが、それは華麗にスルーされた。
岩の間に生えた茂みの向こうに浩司が消えたのを確認して、満はやや声を潜めてウォルターに話し掛けた。
「な、今日ってやっぱりナンパすんの?」
「んー? 紫サンに頼まれてるしなぁ。けど浩司が嫌がるだろうから、女の子から声掛けてきてくれるの期待してるんだけど」
「あー……それは放っといてもそうなるとは思うけど」
たまに放課後街中を一緒に歩くのだが、明らかに高校生の格好なのにかなり年上の女性にまでウォルターは声を掛けられるのだ。
ましてや真夏のビーチなんて明らかにナンパ待ちのギャルが沢山いる場所で何事もなく過ぎてしまうわけはないだろうと思われた。
「理想は同世代の三人グループ」
ナイロン製のデイパックからビーチサンダルを取り出して履くウォルター。
「ま、なんとかなるさ」
「だな」
準備を済ませた満は足の屈伸を始めた。
「取り敢えず……満」
「んー?」
「海での遊び、教えてくれ」
至って真剣な眼差しに一瞬動きを止め、それから満はぐっと親指を立てた。
「オッケイ」
その時着替えを済ませて戻ってくる浩司の姿が視界に入り、ウォルターも立ち上がって軽く体をほぐし始めた。
「んじゃ、まずは軽ーくひと泳ぎしてこようぜ」
満の提案に否やはなかった。
三人の中では一番小柄な満だが、運動部に所属していることもあり、自分の荷物は全て軽々と持ったまま、遊泳区域の端の方まで歩いた。岩場のすぐ傍でも有り、海の家や売店には少し距離があるせいか人影はまばらだ。
歩いている間中、先客たちがちらちらと視線を投げてきていたが、既に学校や街中で慣れっこになっているのか三人とも全く意に介していない。
ウォルターと行動を共にするとどうしても目立ってしまうので、免疫がついているのだ。
「よし、この辺にすっか」
一人で納得すると、満はさかさかと支度を始めた。持参した大きな袋の中からパラソルスタンドを出して砂を入れると穴にパラソルを差し込み、広げたビニールシートの上で影の位置を確認しながら固定する。そしてペグをシートの端がめくれないように打ち込み更に荷物も重石代わりに端の方に載せた。
その間ぽかんと眺めていた二人を手招きして「もういいぞー」と言うまで僅か数分だった。
「おっまえ、実に要領いいなぁ」
半ば呆れて浩司が言い、自分の荷物をどさりとシートに落とした。
「何言ってんの。いかに居心地良くして快適に過ごすか。折角来たのに楽しまないとっ」
したり顔で首を振りながら、満は自分の着替えを取り出している。
「ただでさえ疲れるのに、装備がなくて余計金掛かるなんてやだもんね~。茣蓙とか借りたら結構高いっしょ?」
「そんなに疲れんの?」
ウォルターは不思議そうにしながらも、自分も荷物を下ろして着替えを取り出した。
「そ。ウォルター、海を甘く見るなよ~。上からの紫外線だけじゃなくて海面や砂からの照り返しでめっちゃ日焼けするんだ。だから泳がなくたってビーチにいるだけで体力奪われるってわけ」
「へぇ~」
わくわくした顔で満に習いウォルターも服を脱ぐ。どうやら二人とも下に水着を着用しているらしく、それに気付いた浩司は一人むうっとしていた。
「ほら、折角岩場の近くに来たんだから、あっちで着替えてくれば?」
「おう」
促され一人ぽてぽてと歩き出す後姿に、「ここでも誰も気にしないんじゃね?」とウォルターが声を掛けたが、それは華麗にスルーされた。
岩の間に生えた茂みの向こうに浩司が消えたのを確認して、満はやや声を潜めてウォルターに話し掛けた。
「な、今日ってやっぱりナンパすんの?」
「んー? 紫サンに頼まれてるしなぁ。けど浩司が嫌がるだろうから、女の子から声掛けてきてくれるの期待してるんだけど」
「あー……それは放っといてもそうなるとは思うけど」
たまに放課後街中を一緒に歩くのだが、明らかに高校生の格好なのにかなり年上の女性にまでウォルターは声を掛けられるのだ。
ましてや真夏のビーチなんて明らかにナンパ待ちのギャルが沢山いる場所で何事もなく過ぎてしまうわけはないだろうと思われた。
「理想は同世代の三人グループ」
ナイロン製のデイパックからビーチサンダルを取り出して履くウォルター。
「ま、なんとかなるさ」
「だな」
準備を済ませた満は足の屈伸を始めた。
「取り敢えず……満」
「んー?」
「海での遊び、教えてくれ」
至って真剣な眼差しに一瞬動きを止め、それから満はぐっと親指を立てた。
「オッケイ」
その時着替えを済ませて戻ってくる浩司の姿が視界に入り、ウォルターも立ち上がって軽く体をほぐし始めた。
「んじゃ、まずは軽ーくひと泳ぎしてこようぜ」
満の提案に否やはなかった。
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