Complex

亨珈

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First Contact 海へいこう!

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「んーっ」

 ヘアマニキュアで真っ赤に染められた髪は、艶々のストレートロング。腰まであるその髪を無造作に後ろに払うと、少女は辺りを憚ることなく大きく伸びをした。

 規定ではないオフホワイトの開襟シャツの胸元ではプラチナと金のコンビネックレスが輝いている。シャツの裾はお腹が見えそうなくらい短いのに、ツータックの学生スカートは踝までと恐ろしく長い。靴下も校則を完全に無視した紫色で、当然のように耳朶には輝石のピアスが3つもあり、石はスタールビー・ガーネット・アメジストと少女の好む色が一見しただけで判りそうな容貌である。

新菜にいなっ」

 少女が振り返り、その横に髪を肩上でラフに切り揃えた少女が並んだ。但しこちらも新菜同様真面目とはいえない服装である。

 髪の色こそライトブラウンと控え目だが、長いスカートから覗く靴下も青いしネックレスは喜平、ピアスはチェーンで左手中指にはダイヤの指輪まで嵌めている。

「うっとーしィ終業式だったなぁ、円華まどか

 ヤンキー娘たちは一応式には出席したらしく、その後てれてれと歩いてこの屋上までやってきたところだった。
 もともと溜まり場にしていたので何となくここに集まっているが、真夏と真冬はサボるためとはいえ来たくは無い場所である。

 県立ではあるけれど偏差値の低い高等学校の屋上に取り立ててナニカの設備があるわけではなく。そのために他の物好きが現れないのが良いのだが、コンクリートを焦がさんばかりの陽光をさえぎるものもなく。
 この日のように風があるからこそ手摺に並んで景色を眺めてぼーっとできる場所だったりする。県立梁塁高等学校、ここは世間でも評判の悪い学校の、更にはみ出しモノの集う場所なのだ。

「明日っから夏休み~っ」

 目からハートマークが飛び出さないのが不思議なくらいに瞳をきらきらとさせて円華は両手を握り合わせた。
 それを横目で眺めながら、新菜は手摺に頬杖をついた。

「まぁた何か企んでる……」

 わかる? と言わんばかりに、円華は手摺に凭れ掛かって舌を出した。
 漫画みたいなリアクション。
 新菜はひとつ溜め息。

「新菜さんっ円華さんっ」

 昇降口から二人を呼ぶ声がした。

「よっ、翔子」

 円華が軽く手を上げて応え、それが許可だったかのように二人とは違う可愛らしい出で立ちの少女が駆け寄ってくる。

 膝上二十cmのスカートは二人同様規定外。オレンジに染められたセミロングのふわふわの猫毛、コンビのネックレスとブレスレットも細くて軽めでくりくりの大きな眼を引き立てているかのようだ。靴下は二人同様踝より短いがこちらは黒。実は白以外は全部規定外なのだが、校則を知らない人が見れば、翔子が黙って立っていればお嬢様に見えなくも無いとか。

「グッドタイミング! 翔子ちゃんってば」

 円華が擦り寄り、嫌な予感に翔子は一歩後退した。

「な、なんでしょお……?」

「翔子、円華が『ちゃん』を付ける時は、ろくなことじゃねぇのは確かだな」

 新菜がぐったりと手摺にもたれかかった。

「感じわりぃやっちゃな、それでもツレかよ」

 顔だけ新菜に向けると、円華は膨れっ面。

「で?」

 どーせロクでもねぇこというくせに、と新菜の顔に書いてある。

「夏! といえばとーぜん『海』でしょう! っつーことで逆ナンしに行こーっ!!」

「ぎゃ……逆ナンーっっ!?」

 前髪をかき上げていた新菜の手がずるりと落ちて、翔子と二人叫んでしまっていた。

「そっ。だってさぁ去年なんか十六歳っつー青春時代に女ばっかでツルんじゃって。今年こそはナイスガイ見つけなきゃ。ナンパしてくるのってロクなんいねぇし、だったらやっぱこっちから声掛けるっきゃないじゃん。それに新菜~」

 パチンとウインクが飛んできた。

「あんた来月一日花のセブンティーンだし、祝ってくれる男いないのって寂しいよぉ? ま、ひと夏のアバンチュールってことで……」

「いんねぇよ、んなの」

 新菜は嘆息した。ずっと自分にアタックを掛けてきている同級生の顔がぽわわんと浮かんでしまう。

「先刻たすくなんか『俺様からの愛のこもったバースディプレゼント待ってろよ』って、ついでに投げキッスまで置いて帰ったわよ……」

 新菜はげっそりした顔を隠しもしない。

「保ぅ? あー駄目駄目、あーんないー加減のーてんぱーな男は。あんなんで妥協してちゃ勿体無いわよ」

 円華は人差し指を立てて、チッチッチと左右に動かした。どうもリアクションが古風である。

「ねー新菜さぁん、海行きましょうよぉ」

 くいくいと新菜の開襟シャツの裾を引っ張り、翔子はすっかり乗り気のようだ。

「んー……」

 新菜が曖昧に言葉を濁していると、円華がパンっと手を打って一方的に話を締めくくってしまった。

「取り敢えず二人とも、男の視線釘付けにするような水着用意しといてな!」
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