きみをさがしてた

亨珈

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〈おまけSS 〉銀杏散るなり夕日の丘に

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 今でもまだ時々不安になる。

 緩やかに傾き行く暖かい光を浴びながら、膝の上で静かな寝息を立てている白皙の美貌を見つめる少女の瞳が揺れた。背を持たせかけている太い木からは、音もなく黄金の蝶たちが舞い降り二人の周りに降り積もっていく。
 時折それらが触れる際に立てる乾いたひそやかな音が、今この世界を統べる音の全てだった。
 起こしてはいけないと思いながらも、少女は確認しないではいられなくなる。指先が震える。彼の額に掛かる黒髪をそっと掻き分け、生の証を見逃すまいとじっと見つめてしまう。

 はらりと銀杏の葉が頬にとまり、青年は静かに瞼を上げた。髪を梳いていた指先で葉を摘み傍らに落とすと、少女は安心したように口元を綻ばせる。

「……おはよう。そろそろ時間かな」
「そうだね。連絡が来る頃かな」

 青年のしっとりした声が少女を現実に引き戻す。知らず知らず引き戻されて泣きたいほどの焦燥に包まれて確認してしまう行為に、彼も気付かずにはいられない。

「大丈夫、僕はここにいるよ」

 頬の傍らにある白い手を取り、青年は唇を寄せた。

「……ローレンス、あたし」

 くしゃりと笑顔が歪んだ。

「僕もこうしていると思い出すことがあるから、少しは理解できていると思うよ。最後のその時も、こんな風に君を見上げていた。だから君は、そんな泣きそうな顔になるんだね」

 沿わせていた手を握ると、青年はそのまま少女を胸の上に抱き込んだ。温もりが最愛の少女に伝わりますようにと。

「聞こえる?」
「……うん」

 ほっと息を吐いて、少女はまた微笑んだ。

「約束するよ。僕はもう二度と君より先には逝かない。何に縋り付いてでも、どんなに見苦しくても、生きていくから」
「うん」

 じわりと滲んだのは、悲しみの涙ではない。様々な感情を教えてくれる青年の胸に顔をうずめたまま、少女も彼の手を取り口付けた。

 幼いときから共に在った存在は、今はもう傍らから失われてしまった。それでも、喜びも悲しみも共にした筈の彼からは、今ほどの切なさを感じたことはない。大好きの意味は沢山あると、気付かせてくれた人。

 青から茜色に変わり行く空の下、雪のように降り積もる落葉の中で、二人は静かに寄り添っていた。
 後しばらく、燃えるような色のスーツに身を包んだ有能な秘書が現れるその時まで。


   了
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