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Chapter 17:「川上保」
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【7月23日(月)の週】
*******************************
TOKYO CHIC 2012号
「君に会えたら」 第17話 掲載
*******************************
「川上保です。これからよろしく」
脇さんが紹介してくれた脚本家の川上さんは、ベートーベンのようなぼさぼさの髪の毛。
今の今まで「君に会えたら」第一話の脚本と戦っていたような疲れた顔。
エネルギーレベルは相当落ちてるはずなのに、それでもものすごい存在感を放っている、不思議な人。
少なくともワイドショーや週刊誌から受ける印象とはちょっと違う。
チャラいというより、芸術家っていう感じ。
「これから、川上にムカつくこともいっぱいあると思うけど、根はいい奴だから許してあげてね」
脇さんは私にそう言うと、今度は川上さんに釘をさした。
「片桐さんのこと、可愛いからって虐めるなよ」
「片桐大先生にそんなことするかっ!」
「そんな言葉、信用できるかよ。川上保だぞ?」
そんな和やかな(?)自己紹介を終え、川上さんは私にUSBスティックを差し出した。
「とりあえず第一話分の脚本を書いてきたんでよろしく」
私は脇さんを見上げた。
「この締め切りは?」
「3日以内にラフな感想を聞かせてもらえますか?マイナー修正かメジャー修正かで、その後のスケジュールが変ってくるので」
「わかりました。出来るだけ早めにお知らせします」
「助かります」
「言い回しなどで質問がある場合には、川上さんに直接お電話差し上げたらいいですか?」
「そうしてくれ。それが手っ取り早い」
「何時でも構わないから」
私は川上さんの電話番号とメアドを受け取った。
マンションに戻りパソコンにUSBスティックを差す。
「第一話:Zucca」
一通り読んで、川上保という人はやはりすごい人なのだとわかった。
耕介と聡美の微妙な心の動きの表現の仕方とか、
ストーリーの盛り上げ方とか、
そういう基本的なことはもちろんなんだけれど。
彼は、私が作品に密かに盛り込んでいる伏線とシークレットコードを、きちんと脚本に盛り込んでいた。
たぶん無意識に、それも未完成の作品だというのに。
そして思った。
彼は何故、私に「君に会えたら」の今後の展開を聞かなかったのか、と。
流れがわかっていれば、もっと深く、登場人物の行動や発言の意図が理解できるはずなのに。
私の中で、ストーリーは既に完成している。
それを文字にするだけ。
だから、必要ならば、川上さんにそれを伝えることはできる。
TRRRRRRRRRRRRRRR
「もしもし、誰?」
「川上さん?片桐ですけど」
「あぁ、さっきはどうも。読んだんでしょ?どうだった?」
「よかったです。ちゃんと読みこんで頂いていて。言い回しとか細かい点は後ほどお話させて頂くとして・・・それより」
「なに?」
「これからこの2人がどう展開して、最後どうなるのか、脚本を書くのに必要ですか?」
「必要ないよ」
川上さんは躊躇なく、そう答えた。
「俺は俺なりの解釈で脚本を書く。片桐純が俺の予測を裏切ったらそれはそれで面白い」
やはりこの人はすごい。
行間を正確に読み込める人なんだ。
「それにドラマの最後と小説の最後が同じでなくとも構わないと俺は思ってる。最終的には脇に委ねるけどな」
「わかりました。いずれにしても脇さんが川上さんに信頼を寄せてる理由がよくわかりました。じゃ、細かいことはメールで脇さんと川上さんにお送りするので・・・」
「ちょっと待って」
私が通話を切ろうとするのを、川上さんが遮った。
「はい?」
「「パラレルワールド」よかったよ」
「え?」
「俺はアンタの作品の中であれが断然好きだ」
いきなり「アンタ」って・・・
「売れっ子脚本家の川上さんにそう言っていただけて光栄です」
「あれ、17歳で書いたんだろ?あれ読んだ時「片桐純」は天才だと思ったよ」
「褒めても何も出ないですよ」
「お前、いまいくつ?」
今度はいきなり「お前」って・・・
この人、祐と同じ、俺様キャラだ。
「21です」
「まだそんなに若いんだ」
「悪いですか?」
「・・・俺、「片桐純」に会ったら言おうと思ってたことがあるんだけど」
一瞬間があってから、川上さんは驚くような言葉を発した。
「「パラレルワールド」の脚本、俺にやらせてくれないか・・・頼む」
「へ?」
「それに俺の全てを賭けるから」
「いきなりなにを言ってるんですか。「パラレルワールド」にはドラマ化の話もないですし、あってもドラマ化はしませんよ」
「映画でもいいから」
「映画もドラマもないですからっ!!」
興奮して大きな声を出したら、私の部屋のキッチンにいたらしい桃野くんがびっくりして仕事部屋のドアを開けた。
「絢ちゃん、どうした?」
私はあわててスマホを手で押さえ「ごめん、なんでもない!」と桃野くんに謝った。
「誰、いまの?」
「川上さんには関係ないことです」
「お前、オトコいるんだ?」
くくっ、と川上さんが喉で笑っている。
この人性格が悪い。
「違いますよ。勝手に勘違いしないでください。集公舎の方です!」
「ま、とりあえず俺の気持ちは言ったから。絶対お前のこと口説き落とすから」
「絶対にムリですから!じゃ、また」
私はぶっきらぼうに通話を切った。
はぁ、、、桃野くんに会いたい。
ベランダを伝って隣の部屋に向かう。
「桃野くん」
「ごめん、仕事の電話の邪魔して・・・」
「いいの、いいの。なんか川上さんが訳のわかんないこと言うから、つい大声になっちゃって」
「わけのわかんないことって?」
「「パラレルワールド」の脚本をやらせてくれって」
「え?」
「ドラマでも映画でもどっちでもいいから、って。川上さんの全てを賭けるって言ってたけど・・・」
「絢ちゃん、前に「君に会えたら」以外の作品は映像化しないって言ってたよね」
「しない!絶対にしないから!!」
祐のストーリーは絶対に映像化しない。
「君に会えたら」だから、ドラマ化を了承したのだから。
「じゃ、川上さんから集公舎に話が来てもそう伝えておくよ。心配しなくて大丈夫」
桃野くんは手に持っていたコーヒーマグを私に手渡した。
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TOKYO CHIC 2012号
「君に会えたら」 第17話 掲載
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「川上保です。これからよろしく」
脇さんが紹介してくれた脚本家の川上さんは、ベートーベンのようなぼさぼさの髪の毛。
今の今まで「君に会えたら」第一話の脚本と戦っていたような疲れた顔。
エネルギーレベルは相当落ちてるはずなのに、それでもものすごい存在感を放っている、不思議な人。
少なくともワイドショーや週刊誌から受ける印象とはちょっと違う。
チャラいというより、芸術家っていう感じ。
「これから、川上にムカつくこともいっぱいあると思うけど、根はいい奴だから許してあげてね」
脇さんは私にそう言うと、今度は川上さんに釘をさした。
「片桐さんのこと、可愛いからって虐めるなよ」
「片桐大先生にそんなことするかっ!」
「そんな言葉、信用できるかよ。川上保だぞ?」
そんな和やかな(?)自己紹介を終え、川上さんは私にUSBスティックを差し出した。
「とりあえず第一話分の脚本を書いてきたんでよろしく」
私は脇さんを見上げた。
「この締め切りは?」
「3日以内にラフな感想を聞かせてもらえますか?マイナー修正かメジャー修正かで、その後のスケジュールが変ってくるので」
「わかりました。出来るだけ早めにお知らせします」
「助かります」
「言い回しなどで質問がある場合には、川上さんに直接お電話差し上げたらいいですか?」
「そうしてくれ。それが手っ取り早い」
「何時でも構わないから」
私は川上さんの電話番号とメアドを受け取った。
マンションに戻りパソコンにUSBスティックを差す。
「第一話:Zucca」
一通り読んで、川上保という人はやはりすごい人なのだとわかった。
耕介と聡美の微妙な心の動きの表現の仕方とか、
ストーリーの盛り上げ方とか、
そういう基本的なことはもちろんなんだけれど。
彼は、私が作品に密かに盛り込んでいる伏線とシークレットコードを、きちんと脚本に盛り込んでいた。
たぶん無意識に、それも未完成の作品だというのに。
そして思った。
彼は何故、私に「君に会えたら」の今後の展開を聞かなかったのか、と。
流れがわかっていれば、もっと深く、登場人物の行動や発言の意図が理解できるはずなのに。
私の中で、ストーリーは既に完成している。
それを文字にするだけ。
だから、必要ならば、川上さんにそれを伝えることはできる。
TRRRRRRRRRRRRRRR
「もしもし、誰?」
「川上さん?片桐ですけど」
「あぁ、さっきはどうも。読んだんでしょ?どうだった?」
「よかったです。ちゃんと読みこんで頂いていて。言い回しとか細かい点は後ほどお話させて頂くとして・・・それより」
「なに?」
「これからこの2人がどう展開して、最後どうなるのか、脚本を書くのに必要ですか?」
「必要ないよ」
川上さんは躊躇なく、そう答えた。
「俺は俺なりの解釈で脚本を書く。片桐純が俺の予測を裏切ったらそれはそれで面白い」
やはりこの人はすごい。
行間を正確に読み込める人なんだ。
「それにドラマの最後と小説の最後が同じでなくとも構わないと俺は思ってる。最終的には脇に委ねるけどな」
「わかりました。いずれにしても脇さんが川上さんに信頼を寄せてる理由がよくわかりました。じゃ、細かいことはメールで脇さんと川上さんにお送りするので・・・」
「ちょっと待って」
私が通話を切ろうとするのを、川上さんが遮った。
「はい?」
「「パラレルワールド」よかったよ」
「え?」
「俺はアンタの作品の中であれが断然好きだ」
いきなり「アンタ」って・・・
「売れっ子脚本家の川上さんにそう言っていただけて光栄です」
「あれ、17歳で書いたんだろ?あれ読んだ時「片桐純」は天才だと思ったよ」
「褒めても何も出ないですよ」
「お前、いまいくつ?」
今度はいきなり「お前」って・・・
この人、祐と同じ、俺様キャラだ。
「21です」
「まだそんなに若いんだ」
「悪いですか?」
「・・・俺、「片桐純」に会ったら言おうと思ってたことがあるんだけど」
一瞬間があってから、川上さんは驚くような言葉を発した。
「「パラレルワールド」の脚本、俺にやらせてくれないか・・・頼む」
「へ?」
「それに俺の全てを賭けるから」
「いきなりなにを言ってるんですか。「パラレルワールド」にはドラマ化の話もないですし、あってもドラマ化はしませんよ」
「映画でもいいから」
「映画もドラマもないですからっ!!」
興奮して大きな声を出したら、私の部屋のキッチンにいたらしい桃野くんがびっくりして仕事部屋のドアを開けた。
「絢ちゃん、どうした?」
私はあわててスマホを手で押さえ「ごめん、なんでもない!」と桃野くんに謝った。
「誰、いまの?」
「川上さんには関係ないことです」
「お前、オトコいるんだ?」
くくっ、と川上さんが喉で笑っている。
この人性格が悪い。
「違いますよ。勝手に勘違いしないでください。集公舎の方です!」
「ま、とりあえず俺の気持ちは言ったから。絶対お前のこと口説き落とすから」
「絶対にムリですから!じゃ、また」
私はぶっきらぼうに通話を切った。
はぁ、、、桃野くんに会いたい。
ベランダを伝って隣の部屋に向かう。
「桃野くん」
「ごめん、仕事の電話の邪魔して・・・」
「いいの、いいの。なんか川上さんが訳のわかんないこと言うから、つい大声になっちゃって」
「わけのわかんないことって?」
「「パラレルワールド」の脚本をやらせてくれって」
「え?」
「ドラマでも映画でもどっちでもいいから、って。川上さんの全てを賭けるって言ってたけど・・・」
「絢ちゃん、前に「君に会えたら」以外の作品は映像化しないって言ってたよね」
「しない!絶対にしないから!!」
祐のストーリーは絶対に映像化しない。
「君に会えたら」だから、ドラマ化を了承したのだから。
「じゃ、川上さんから集公舎に話が来てもそう伝えておくよ。心配しなくて大丈夫」
桃野くんは手に持っていたコーヒーマグを私に手渡した。
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