【完結】君に会えたら

たいけみお

文字の大きさ
上 下
18 / 62

Chapter 17:「川上保」

しおりを挟む
【7月23日(月)の週】


*******************************

TOKYO CHIC 2012号

「君に会えたら」 第17話 掲載

*******************************



「川上保です。これからよろしく」


脇さんが紹介してくれた脚本家の川上さんは、ベートーベンのようなぼさぼさの髪の毛。

今の今まで「君に会えたら」第一話の脚本と戦っていたような疲れた顔。

エネルギーレベルは相当落ちてるはずなのに、それでもものすごい存在感を放っている、不思議な人。


少なくともワイドショーや週刊誌から受ける印象とはちょっと違う。

チャラいというより、芸術家っていう感じ。



「これから、川上にムカつくこともいっぱいあると思うけど、根はいい奴だから許してあげてね」

脇さんは私にそう言うと、今度は川上さんに釘をさした。


「片桐さんのこと、可愛いからって虐めるなよ」

「片桐大先生にそんなことするかっ!」

「そんな言葉、信用できるかよ。川上保だぞ?」



そんな和やかな(?)自己紹介を終え、川上さんは私にUSBスティックを差し出した。

「とりあえず第一話分の脚本を書いてきたんでよろしく」


私は脇さんを見上げた。

「この締め切りは?」

「3日以内にラフな感想を聞かせてもらえますか?マイナー修正かメジャー修正かで、その後のスケジュールが変ってくるので」


「わかりました。出来るだけ早めにお知らせします」

「助かります」


「言い回しなどで質問がある場合には、川上さんに直接お電話差し上げたらいいですか?」

「そうしてくれ。それが手っ取り早い」


「何時でも構わないから」

私は川上さんの電話番号とメアドを受け取った。




マンションに戻りパソコンにUSBスティックを差す。


「第一話:Zucca」


一通り読んで、川上保という人はやはりすごい人なのだとわかった。


耕介と聡美の微妙な心の動きの表現の仕方とか、

ストーリーの盛り上げ方とか、

そういう基本的なことはもちろんなんだけれど。


彼は、私が作品に密かに盛り込んでいる伏線とシークレットコードを、きちんと脚本に盛り込んでいた。

たぶん無意識に、それも未完成の作品だというのに。


そして思った。

彼は何故、私に「君に会えたら」の今後の展開を聞かなかったのか、と。

流れがわかっていれば、もっと深く、登場人物の行動や発言の意図が理解できるはずなのに。


私の中で、ストーリーは既に完成している。

それを文字にするだけ。

だから、必要ならば、川上さんにそれを伝えることはできる。




TRRRRRRRRRRRRRRR




「もしもし、誰?」

「川上さん?片桐ですけど」

「あぁ、さっきはどうも。読んだんでしょ?どうだった?」

「よかったです。ちゃんと読みこんで頂いていて。言い回しとか細かい点は後ほどお話させて頂くとして・・・それより」


「なに?」

「これからこの2人がどう展開して、最後どうなるのか、脚本を書くのに必要ですか?」


「必要ないよ」

川上さんは躊躇なく、そう答えた。


「俺は俺なりの解釈で脚本を書く。片桐純が俺の予測を裏切ったらそれはそれで面白い」



やはりこの人はすごい。

行間を正確に読み込める人なんだ。



「それにドラマの最後と小説の最後が同じでなくとも構わないと俺は思ってる。最終的には脇に委ねるけどな」

「わかりました。いずれにしても脇さんが川上さんに信頼を寄せてる理由がよくわかりました。じゃ、細かいことはメールで脇さんと川上さんにお送りするので・・・」


「ちょっと待って」

私が通話を切ろうとするのを、川上さんが遮った。




「はい?」

「「パラレルワールド」よかったよ」

「え?」


「俺はアンタの作品の中であれが断然好きだ」

いきなり「アンタ」って・・・


「売れっ子脚本家の川上さんにそう言っていただけて光栄です」

「あれ、17歳で書いたんだろ?あれ読んだ時「片桐純」は天才だと思ったよ」

「褒めても何も出ないですよ」


「お前、いまいくつ?」

今度はいきなり「お前」って・・・

この人、祐と同じ、俺様キャラだ。


「21です」

「まだそんなに若いんだ」

「悪いですか?」

「・・・俺、「片桐純」に会ったら言おうと思ってたことがあるんだけど」

一瞬間があってから、川上さんは驚くような言葉を発した。


「「パラレルワールド」の脚本、俺にやらせてくれないか・・・頼む」

「へ?」

「それに俺の全てを賭けるから」


「いきなりなにを言ってるんですか。「パラレルワールド」にはドラマ化の話もないですし、あってもドラマ化はしませんよ」

「映画でもいいから」

「映画もドラマもないですからっ!!」


興奮して大きな声を出したら、私の部屋のキッチンにいたらしい桃野くんがびっくりして仕事部屋のドアを開けた。

「絢ちゃん、どうした?」

私はあわててスマホを手で押さえ「ごめん、なんでもない!」と桃野くんに謝った。



「誰、いまの?」

「川上さんには関係ないことです」

「お前、オトコいるんだ?」


くくっ、と川上さんが喉で笑っている。

この人性格が悪い。


「違いますよ。勝手に勘違いしないでください。集公舎の方です!」

「ま、とりあえず俺の気持ちは言ったから。絶対お前のこと口説き落とすから」

「絶対にムリですから!じゃ、また」

私はぶっきらぼうに通話を切った。


はぁ、、、桃野くんに会いたい。

ベランダを伝って隣の部屋に向かう。




「桃野くん」

「ごめん、仕事の電話の邪魔して・・・」

「いいの、いいの。なんか川上さんが訳のわかんないこと言うから、つい大声になっちゃって」


「わけのわかんないことって?」

「「パラレルワールド」の脚本をやらせてくれって」

「え?」


「ドラマでも映画でもどっちでもいいから、って。川上さんの全てを賭けるって言ってたけど・・・」

「絢ちゃん、前に「君に会えたら」以外の作品は映像化しないって言ってたよね」

「しない!絶対にしないから!!」

祐のストーリーは絶対に映像化しない。

「君に会えたら」だから、ドラマ化を了承したのだから。


「じゃ、川上さんから集公舎に話が来てもそう伝えておくよ。心配しなくて大丈夫」

桃野くんは手に持っていたコーヒーマグを私に手渡した。




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

壁の薄いアパートで、隣の部屋から喘ぎ声がする

サドラ
恋愛
最近付き合い始めた彼女とアパートにいる主人公。しかし、隣の部屋からの喘ぎ声が壁が薄いせいで聞こえてくる。そのせいで欲情が刺激された両者はー

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

[R18] 激しめエロつめあわせ♡

ねねこ
恋愛
短編のエロを色々と。 激しくて濃厚なの多め♡ 苦手な人はお気をつけくださいませ♡

ずぶ濡れで帰ったら彼氏が浮気してました

宵闇 月
恋愛
突然の雨にずぶ濡れになって帰ったら彼氏が知らない女の子とお風呂に入ってました。 ーーそれではお幸せに。 以前書いていたお話です。 投稿するか悩んでそのままにしていたお話ですが、折角書いたのでやはり投稿しようかと… 十話完結で既に書き終えてます。

どうして隣の家で僕の妻が喘いでいるんですか?

ヘロディア
恋愛
壁が薄いマンションに住んでいる主人公と妻。彼らは新婚で、ヤりたいこともできない状態にあった。 しかし、隣の家から喘ぎ声が聞こえてきて、自分たちが我慢せずともよいのではと思い始め、実行に移そうとする。 しかし、何故か隣の家からは妻の喘ぎ声が聞こえてきて…

隣の人妻としているいけないこと

ヘロディア
恋愛
主人公は、隣人である人妻と浮気している。単なる隣人に過ぎなかったのが、いつからか惹かれ、見事に関係を築いてしまったのだ。 そして、人妻と付き合うスリル、その妖艶な容姿を自分のものにした優越感を得て、彼が自惚れるには十分だった。 しかし、そんな日々もいつかは終わる。ある日、ホテルで彼女と二人きりで行為を進める中、主人公は彼女の着物にGPSを発見する。 彼女の夫がしかけたものと思われ…

君の浮気にはエロいお仕置きで済ませてあげるよ

サドラ
恋愛
浮気された主人公。主人公の彼女は学校の先輩と浮気したのだ。許せない主人公は、彼女にお仕置きすることを思いつく。

恋煩いの幸せレシピ ~社長と秘密の恋始めます~

神原オホカミ【書籍発売中】
恋愛
会社に内緒でダブルワークをしている芽生は、アルバイト先の居酒屋で自身が勤める会社の社長に遭遇。 一般社員の顔なんて覚えていないはずと思っていたのが間違いで、気が付けば、クビの代わりに週末に家政婦の仕事をすることに!? 美味しいご飯と家族と仕事と夢。 能天気色気無し女子が、横暴な俺様社長と繰り広げる、お料理恋愛ラブコメ。 ※注意※ 2020年執筆作品 ◆表紙画像は簡単表紙メーカー様で作成しています。 ◆無断転写や内容の模倣はご遠慮ください。 ◆大変申し訳ありませんが不定期更新です。また、予告なく非公開にすることがあります。 ◆文章をAI学習に使うことは絶対にしないでください。 ◆カクヨムさん/エブリスタさん/なろうさんでも掲載してます。

処理中です...