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「やぁ~~昨日はやっぱ。すごかった~」
「な?人間技を超えてるよな?」
「いつも見てるけど、見慣れる事はないくらい、肝を冷やされるよ…あれでケロってしてるんだから……」
同じローブの同僚が続々と出勤してくる。やっと月に一度の魔石への魔力補給が終わり、一息ついての翌日だ。それぞれ自分の書類を確認しながら、昨日の魔力補給現場にいた同僚たちの驚愕のお喋りは当分止みそうにもなくて、ユリージュは更に深くフードを被る。
「よ!おはよ、ユリージュ!」
同期の中ではユリージュの次に若いシヨンがポンとユリージュの頭を撫でる。
「……お、はよ………」
「お!今日は調子良さそうだな?」
小さく聞こえるか聞こえないかほどのユリージュの返答に、それでも気を良くしたシヨンはヒョイッとユリージュの顔を覗き込んでくる。
「!?」
思わず、ユリージュは後ろに身をひいてしまう。
「そんなに警戒するなって!いつもの俺でしょ?」
ケラケラとユリージュの反応が楽しくてしょうがないとシヨンは腹を抱えて笑うのだ。
「う…ん…」
(シヨンは大丈夫……シヨンは大丈夫……)
必死に心の中で唱えていた言葉にユリージュは縋り付く。
「昨日はお疲れさん、相変わらず化け物並みの魔力だけど、疲れなかった?」
本人を目の前にして化け物なんて酷い言い方なんだろうけど、シヨンと付き合っていくうちに、それは賛辞であることに気がついてユリージュは落ち込まなくなった。
「だい、じょうぶ……」
「そっか!そっか!ちゃんと食べてるな?」
「うん…」
「へぇ?何食べたの?」
「パンケーキ…」
「へぇ?自分で作ったの?」
「…うぅん……」
頭を振るユリージュに、シヨンはポンと手を打った。
「カイルさんか~」
その名が出た瞬間に、ビクッと震えた濃紺のローブ達………この部署は魔術防衛課。魔術結界と防御を担当している所だ。ユリージュは王宮魔術師になった時からここに所属している。そのため、大抵の同僚は風の噂というまことしやかに流れてくるユリージュの使役人の名前が"カイル"であることを知っているのだ。王宮魔術師長並みかそれ以上の力の持ち主位しか今のところ使役物を所持してはいない城の中で、一介のまだ駆け出しの一番年若いユリージュがその使役人を所持しているなんて、周りの同僚にしたらそれは恐怖でしか無い…どれだけ化け物級なんだ、と皆んなが口には出さずとも言いたいことくらい分かるものだ。
が、その噂も公然の秘密で、まだユリージュの使役人は公にはされていないし、魔術師長スーレが言うように出してはいけないものなのだろう事は暗黙の了解ということで触らない様にしてくれている気がきく同僚達でもあった。
なのにシヨンは周りの反応には意に介さず。鈍感なのか物凄く物事に拘らずに生きている人なのか……
「し~…それ、言わないで……」
カイルの事を出されると、ユリージュは途端に警戒心を強めてくる。シヨンに対してのユリージュの表情は少し和らいだと思ったのに、もう警戒態勢に入ってしまった。
「あぁ、ごめん!でも、ユリージュは悪いことしてる訳じゃ無いだろ?」
「うん……でも…内緒、だから…」
「分かってるよ、人と接するのが超苦手なお前がさ、凄く懐いている大切な人なんだろ?俺も揶揄う気はないしこれ以上は言わん。」
「あり、がと……」
人と接するのが超苦手なユリージュは、いつも皆から外れたところにいる。話しかけたところでちゃんとした言葉が帰ってくることの方が少ない程だ。そんなユリージュがエリートとして王宮魔術師の職に付けたのはそれだけの実力があったから…問題を公にしてユリージュをここから失う様なことになる方が、この国にとっては損失が大きそうだ。
「朝の点検を開始する!各自持ち場を回り報告する事!」
本日も班長の掛け声と共に、自分の担当している城内へと魔術師達は散っていく。スロン国の王城内だけでもその敷地は広大で手分けをしていても骨が折れる。点検の他に効力の切れた防具や王族の衣類にも防御魔法をかけに回らなくてはならない為、今日も朝から彼らには遊んでいる暇はない…
「そうですか、チーご苦労様…」
広い執務室の中に、朝日とはまた違い、魔法石の灯りでもない光がチラチラと舞っている。
ここ、魔術師長の専用執務室には各部署からの報告書が朝から山の様に積まれていて、秘書官が必死に振り分けをしている最中だ。魔術師長スーレは緊急性のある報告書にザッと目を通しながら、チラチラと舞っている光、チーに話しかけていた。
チーはスーレの使役物。大きさは小鳥程で羽があるが、人間の様な手足もある。つぶらな大きなピンクの瞳が印象的だが、口は無く人間と同じ姿でないことが分かる。
主に目の役割をしているチーは離れて作業しているだろうユリージュの様子を見に外に出ていた様だ。
「息子さんですか?」
必死に手を動かしながら秘書官がスーレに声をかける。
「私に息子はいませんよ?そもそも結婚もしていないのに…」
魔術師長スーレはとてつもなく若く見えるのだが、実際の年齢は不明。ユリージュが幼い時から親代わりをしているので、身近な者達からはユリージュの事を息子さんと呼ぶ者が多い。年増に例えられるのが嫌いなスーレだが、ユリージュの事を息子さんと呼ばれるのはやぶさかではないようなのだ。
「良いよ、チーあっちでおやすみ…」
スーレのから魔力を分けてもらったであろうチーは嬉しそうにクルクル回って自分のお気に入りのクッションへと飛んでいった。
「な?人間技を超えてるよな?」
「いつも見てるけど、見慣れる事はないくらい、肝を冷やされるよ…あれでケロってしてるんだから……」
同じローブの同僚が続々と出勤してくる。やっと月に一度の魔石への魔力補給が終わり、一息ついての翌日だ。それぞれ自分の書類を確認しながら、昨日の魔力補給現場にいた同僚たちの驚愕のお喋りは当分止みそうにもなくて、ユリージュは更に深くフードを被る。
「よ!おはよ、ユリージュ!」
同期の中ではユリージュの次に若いシヨンがポンとユリージュの頭を撫でる。
「……お、はよ………」
「お!今日は調子良さそうだな?」
小さく聞こえるか聞こえないかほどのユリージュの返答に、それでも気を良くしたシヨンはヒョイッとユリージュの顔を覗き込んでくる。
「!?」
思わず、ユリージュは後ろに身をひいてしまう。
「そんなに警戒するなって!いつもの俺でしょ?」
ケラケラとユリージュの反応が楽しくてしょうがないとシヨンは腹を抱えて笑うのだ。
「う…ん…」
(シヨンは大丈夫……シヨンは大丈夫……)
必死に心の中で唱えていた言葉にユリージュは縋り付く。
「昨日はお疲れさん、相変わらず化け物並みの魔力だけど、疲れなかった?」
本人を目の前にして化け物なんて酷い言い方なんだろうけど、シヨンと付き合っていくうちに、それは賛辞であることに気がついてユリージュは落ち込まなくなった。
「だい、じょうぶ……」
「そっか!そっか!ちゃんと食べてるな?」
「うん…」
「へぇ?何食べたの?」
「パンケーキ…」
「へぇ?自分で作ったの?」
「…うぅん……」
頭を振るユリージュに、シヨンはポンと手を打った。
「カイルさんか~」
その名が出た瞬間に、ビクッと震えた濃紺のローブ達………この部署は魔術防衛課。魔術結界と防御を担当している所だ。ユリージュは王宮魔術師になった時からここに所属している。そのため、大抵の同僚は風の噂というまことしやかに流れてくるユリージュの使役人の名前が"カイル"であることを知っているのだ。王宮魔術師長並みかそれ以上の力の持ち主位しか今のところ使役物を所持してはいない城の中で、一介のまだ駆け出しの一番年若いユリージュがその使役人を所持しているなんて、周りの同僚にしたらそれは恐怖でしか無い…どれだけ化け物級なんだ、と皆んなが口には出さずとも言いたいことくらい分かるものだ。
が、その噂も公然の秘密で、まだユリージュの使役人は公にはされていないし、魔術師長スーレが言うように出してはいけないものなのだろう事は暗黙の了解ということで触らない様にしてくれている気がきく同僚達でもあった。
なのにシヨンは周りの反応には意に介さず。鈍感なのか物凄く物事に拘らずに生きている人なのか……
「し~…それ、言わないで……」
カイルの事を出されると、ユリージュは途端に警戒心を強めてくる。シヨンに対してのユリージュの表情は少し和らいだと思ったのに、もう警戒態勢に入ってしまった。
「あぁ、ごめん!でも、ユリージュは悪いことしてる訳じゃ無いだろ?」
「うん……でも…内緒、だから…」
「分かってるよ、人と接するのが超苦手なお前がさ、凄く懐いている大切な人なんだろ?俺も揶揄う気はないしこれ以上は言わん。」
「あり、がと……」
人と接するのが超苦手なユリージュは、いつも皆から外れたところにいる。話しかけたところでちゃんとした言葉が帰ってくることの方が少ない程だ。そんなユリージュがエリートとして王宮魔術師の職に付けたのはそれだけの実力があったから…問題を公にしてユリージュをここから失う様なことになる方が、この国にとっては損失が大きそうだ。
「朝の点検を開始する!各自持ち場を回り報告する事!」
本日も班長の掛け声と共に、自分の担当している城内へと魔術師達は散っていく。スロン国の王城内だけでもその敷地は広大で手分けをしていても骨が折れる。点検の他に効力の切れた防具や王族の衣類にも防御魔法をかけに回らなくてはならない為、今日も朝から彼らには遊んでいる暇はない…
「そうですか、チーご苦労様…」
広い執務室の中に、朝日とはまた違い、魔法石の灯りでもない光がチラチラと舞っている。
ここ、魔術師長の専用執務室には各部署からの報告書が朝から山の様に積まれていて、秘書官が必死に振り分けをしている最中だ。魔術師長スーレは緊急性のある報告書にザッと目を通しながら、チラチラと舞っている光、チーに話しかけていた。
チーはスーレの使役物。大きさは小鳥程で羽があるが、人間の様な手足もある。つぶらな大きなピンクの瞳が印象的だが、口は無く人間と同じ姿でないことが分かる。
主に目の役割をしているチーは離れて作業しているだろうユリージュの様子を見に外に出ていた様だ。
「息子さんですか?」
必死に手を動かしながら秘書官がスーレに声をかける。
「私に息子はいませんよ?そもそも結婚もしていないのに…」
魔術師長スーレはとてつもなく若く見えるのだが、実際の年齢は不明。ユリージュが幼い時から親代わりをしているので、身近な者達からはユリージュの事を息子さんと呼ぶ者が多い。年増に例えられるのが嫌いなスーレだが、ユリージュの事を息子さんと呼ばれるのはやぶさかではないようなのだ。
「良いよ、チーあっちでおやすみ…」
スーレのから魔力を分けてもらったであろうチーは嬉しそうにクルクル回って自分のお気に入りのクッションへと飛んでいった。
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