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しおりを挟むその日の夜は下の子と2人だけの留守番だった。
上の子と主人は夜の星の観察の為に、ワクワクしながら出かけて行った。
下の子と入浴を済ませ美香は寝室に上がって行く。子供がいる日常は何も予定がなくても知らずに疲れるものだ。
上の子と主人が居ない暫くの時間、下の子とゆっくりゴロゴロしながら早く寛ぎたかった。
寝室の戸締りだけ確認すると、子と一緒に布団に転がる。
はぁぁとため息を吐きながら、でろんと転がれば体が休息を求めていた事がよく分かる。
寝かしつけるしばしの時間、体をリラックスさせながら携帯をポチポチ弄り、時折布団の上で転がり移動してくる子に乗られては潰されて。
今頃はちゃんと星が見えているかどうか少し心配になりながら、そもそも星がよく見える観察ポイントまで行き着くのかも怪しい、なんて心配しながら子の背中をポンポンする。
暗いと怖いと言うから部屋の電気は点けっぱなし。
子が可愛らしい顔で覗いて来ては時々お話タイムが始まる。
けれどももう、21時をまわる。母は早くあなたに寝てもらいたいんですよ~。
「はい、ねんね、ねんね。早く寝ないとお化けが来るよ~。」
なんて言って寝てくれたら楽なんだけど、まだまだ素直なお年の下の子は、すぐに寝るスタイルになるが、目は爛々。
これは長期戦になりますね、と覚悟を決めた美香の耳にドアの閉まる音が聞こえた。
ん?帰って来た?
主人と子供は車で行ったが、車庫にはクルマが入る音は聞こえなかったはず?
時々だが車を反転させないと車庫に入れにくいと言う難点から、短時間路上に止めて家に戻る事もあり今夜もそうしたのだろうと思った。
何かあったか?忘れ物?上の子に何か強請られて取りに戻ったか?
もしかして雲が多くて星が見えなかった為に早めに戻って来た?
ドアの音を聞いた後、美香は色々思い浮かべてはまだ随分早い帰宅を疑問に思った。
子は寝そうだしこのまま興奮させても嫌だし、敢えて下に行く事はせずに皆んなが来るのを待つ。
???
美香はおかしな事に気が付いた。
(あれ?音がしない)
帰宅すれば、何某かの話し声、上がった時の音、部屋のドアの音。寝室にいても、テレビも付けていない静寂の中で玄関先の音位なら優に聞こえていたのに。
物音一つしない。
んん?寝ている体勢から体を起こして耳を澄ます。下の子にはしー、として声を出させない様にした。
確かにドアの音がした。
子供が出入りする時、主人が夜に帰ってくる時ほぼ毎日のように聞いている音だから間違いなく玄関のドア。
だけど、その次の音がしないのだ。
ただいまの声も、忘れ物なら何か玄関でガタガタ漁ってる気配や、リビングのドアや洗面所の音など何もない。
(え、どう言う事?中に入ったはいいが玄関の土間の所でただ立っているだけ?それも怖いけど主人なら携帯を見ながらやるかも?)
音はしたのに人の気配のない事に美香は少し恐怖を覚えた。
見に行ってみようか?何にもなければそれでよし。けれどもし、誰かが入って来てたとしたら?
ゾワッと寒気が背筋を襲う。今家にいるのは自分と下の子供だけだ。もし不法侵入者だったら?女の手で勝てる?子供がいるのに?
近くにバットや竹刀(持っていないけれど)傘など武器になりそうなものは無い。
一気に上がって来られたらここからはベランダから飛び降りるくらいしかないじゃない!
見に行くか行かないか、数十秒位考えていたと思う。
次の音がした。
パチッ
寝室に聞こえる位近場の電気のスイッチの音…
階段の電気の音だ!
近隣に何軒か家はあるが、生活音(スイッチの音)が聞こえた事など過去一度もない。
この時美香は誰かいる!と確信を持った。
ドアの音の後に他の音がしなかったのは極力音を立てない様に静かに動いていたからに他ならない!
先程の寒気と共に手足が一気に緊張で痺れて来た。
どうする?寝室の電気は点けっぱなし。人が居ると分かったら、襲ってくるのでは無いか?子供が居るから一人では逃げられない。
怖い…恐怖で本当に動けなくなる。
そぅっと移動して来た者が美香達に気が付き明かりを頼りに直ぐそこまで来ているかもしれない。
美香は寝室のドアを凝視する。
(そうだ!警察!!)
不法侵入者が居るとしたら警察だ!間違えだとしたらひどく迷惑になるかもしれないが、子供の命もかかっている!
けれど、また美香は動けなくなった。
電話は声を出さなくては行けない。玄関の音も聞こえるくらいなんだから、寝室で喋っていたらその物音は伝わるかもしれない…
電話出来ない!
どうしよう、どうしよう、どうしよう!
誰でもいいから警察を呼んで!
いつもと変わらぬ日常が全然当たり前じゃなくて、誰にも邪魔されないはずの家の中で恐怖に怯えている事に愕然とする。
美香は必死だった。動けないから確かめる事も逃げる事もできない。幸いな事に子は母の言うことを守って静かにしてくれている。
何とかしなければ!
必死に外に出ているであろう夫にメールする。
"パパ今どこ?"
"ねぇ、今どこ?"
"家に居るの?"
"もう帰って来てるの?"
‘まだ星を見てるよ'
'雲が出ちゃってあんまり見えなさそうなんだよね。'
あぁ、矢継ぎ早のメールに対する夫からの返信で家に夫がいない事が分かった…
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