[完]田舎からの贈り物

小葉石

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 いつもの様に仕事をこなし、いつもの様に九郎は自宅へと帰ってきた。

「ただいま~~~」

 違和感は感じる。何故なら今日静香と美沙が帰ってくる予定だったのだから。が、家の中が真っ暗である。

 もう、眠ったのか?と一瞬考えた九郎だが、いや、まだ21時前である。美沙が寝ていたとしても静香は起きているだろうと思うのだ。

「静香~美沙~~帰ってるのか?」

 そういえば、玄関もがらんとしていた…?美沙のお気に入りのサンダルも見当たらなかったな…

 パチパチと部屋の電気を点けて行く。が、リビングにも、台所にも、ニ階に上がって寝室にも二人の姿はない。

「え?」

 九郎はちょっとしたパニックになりそうだ。急いでiPhoneを出して帰宅予定のメールを確認する。やはり今日である。

「何かあった…?」

 ちょっとドキドキしつつ、取り敢えず静香に連絡を入れる。が、コール音は聞こえるのに、静香は出ない。

「…?」

 九郎は何度か連絡を試みたが静香は出ない。勿論メールもした。九郎の実家にも電話をかけた。

「あ!母さん?」

 コール音とザザザッと言う機械音の後に
九郎の母の声がする。

「はい?」

「俺だけど?」

「はいはい。」

「なぁ、もう静香と美沙はそっちを出たんだろう?」

「はぁ、はいはい。」

「え~~なんで帰ってないんだよ?」

「はい?」

「まだ帰ってきてないの…!なんか聞いてる?」

「はぁ~~~?」

 頼みの母の答えはなんとも要領を得ないものだ。

 もしや、母さん少しボケて来たのか?ふと、九郎の頭にそんなことが過ったが、今はそれどころではないだろう。

「あ~ごめん!またかけるわ!「はいはい。」」

 九郎が言い切る前に九郎に被せる様に返答がある。ブツっと電話の切れる音がした。

「なんだよ、冷たいなぁ…」

 久しぶりに声を聞いたと思ったらものの数分で電話は母の方から切られてしまうなんて……

「それより!静香だ!」

 田舎は出たのに、本人に連絡が取れないし、まだ帰って来ていない。もしかして静香の実家の方か?九郎は思い当たる所に電話をかけた。

 結果、静香はどこにも居ない…静香だけではなく、美沙もだ………

「どうしたんだよ…おい………」

 九郎は嫌な胸騒ぎに襲われて、狂った様に静香の携帯に連絡を入れる。が、いずれもコール音ばかりで留守電にもならないのだ。

「……まじか………」

 もう、これ以上、心辺りが無いのだが………九郎は半ば呆然として無意識のうちにダイニングテーブルの椅子に腰掛けた。

 綺麗にされた机の上には一枚の紙………

『暫く家を出ます。どうしてだか、分かってるよね?   静香』

 と言う置き手紙……?

「は?……家を出る?じゃ、一度帰って来てたのか?」

 それにしては昨日とは変わらぬ我が家だが、九郎は一目散に夫婦の寝室へ駆けて行き、静香のクローゼットを開け始めた…

「無い………」

 そこには静香のお気に入りの洋服や下着、靴下なんかも入ってたのに、今はほぼ空だ。次に急いで美沙の部屋へと入って行く。やはり、無い……洋服どころかお気に入りのお人形やら、園のお道具やらいつも見ていた目ぼしい物が全て無くなっている…

「なんで……?」

 一昨日まではちゃんとあった…じゃあ、昨日?昨日家に帰って来ると同時にこんなに大量の荷物を二人だけで運び出したと?少なくとも衣類だけで衣装ケース何箱分かはあるはずだ。それに加えて園のお道具一式に美沙のおもちゃ、本お気に入りの布団まで無い……二人いたとしても直ぐに運べる様な量では無いはずだ。もし、運べたとしても一体どこへ?

 静香の実家には帰っていないと言っていたが、それは静香の両親が九郎に嘘を言っていたのだろうか?

『…どうしてだか、分かってるよね?…』

 静香の置き手紙にはそうあった…

「ばれてた……?いつから……?」

 グルグルグルグルと九郎の頭の中は思考が回って纏まらない。

「他!他には!?」

 急いで九郎はリビングに戻ると、静香が他に何か残していないかと探し出す。

 ダイニングテーブルには一枚の静香のメモ紙だけ。

 連絡は全て自分のiPhoneで行っていた。他に、静香が行きそうな所は?友人とか?九郎はフラフラと固定電話の方へと歩いて行く。今は紙の電話帳などほとんど利用する機会がなくなったが、何か無いだろうかと手探り状態だ。とにかく、九郎は静香と美沙の行方と無事が知りたかったのだ。

 固定電話に何か貼り付けてある?

 ○○法律事務所
 ここへ連絡してください

 静香の字で、法律事務所に連絡する様に弁護士の名刺に書き込まれていた……

「弁護士……?嘘だろ?」

 何かしたか?と聞かれれば、妻と子供に対しては山岸の事くらいしか思い浮かばない。

「嘘だろ…………」

 九郎は立ったままその言葉しか知らない者の様に唱え続けていた……









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