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「なんで呼ばれたかわかるか?」

 スロウルのシルバーブラウンの瞳を正面からジッと見つめつつ部隊長は質問を投げかけた。

「…分かりかねます。あの、部署移動があるのでしょうか?」

 隊によっては定期的に隊員を動かし、流動的に動ける人材を育てる事はある。本人の希望を通す事もあるが珍しいものではない。


「部署は動かずここだ。」

「討伐隊のままでいいんですね。」

「そうだ。」

「あの、では?」


「お前、何をされている?」

 ピク、と少し上体が動いたな?

「何、でしょうか?」


 はぁ、惚けてなんでもなかった様にしようとしているな?

「裏で、何されてる?」


 キュッと眉が寄ってきた。少しだけ視線を落としたかと思ったら、キッと正面から視線を合わせて来る。


「何もされていません。」

 スロウルの視線はもう動かず、キッパリと言い切る。


「スロウル……噂が噂じゃ無い事はもう知っているんだ。」

 少しだけ顔色が悪くなったスロウル。


「あんなもの、大した事じゃありません。」

「は?お前、何言ってんだ?」

 大した事じゃ無いだと?それでそんな顔になっているのか?事が起きたと思われる時からお前の動きや、周囲に注意を払う態度はここに来た時のものとあからさまに違っていたのに?


「大した事じゃありません。」


 けれど、頑なに身に起こった事を不条理で卑怯な行為とは認めないらしい。
 そう、思わなければここにいることすら辛く、自分を守る拠り所にしているのかも知れないが……


「そう思うならばそれでも良いが、此方としてはそうもいかなくてな。お前が望んでいるのならば、これ以上は追求しないが…?」

「誰が!……あの様な事望むものですか!」

 静かに部隊長を見つめていた瞳に火がついた。

「だろうな、分かっているから聞いている。本心では無いな?」


「………違います……」
 
 絞り出す様なスロウルの声。綺麗なだけだったこの子をここまで追い詰めるなんて、こいつの周りの大人は、自分を含めろくなもんじゃ無い。


「どうしたい?」

「………」


 願いは決まってるだろうが、敢えてそれが叶わないと知っていて聞いてみる。


「このままここからお前を放り出す事は政治的な面でも無理がある。だが、この状態を覆すのもこれだけの規模の隊だ。やはり、無理がある。」


 無理がある、すっとスロウルの顔色が一段と悪くなる。


「どうすれば……」

 独り言の様にポツリと呟くスロウル。


「お前が力をつければ良い。が、もっと手取り早いのがある。」

 
 静かから燃える様にそして絶望の色を湛えたシルバーブラウンの瞳に今はすがる様な色があった。
 最初からこの色に吸い付けられる様に目が離せない部隊長は、スロウルが座っている椅子の前まで移動し、膝をついて目線を合わせる。 


「力に勝てないなら、それ以上の力をつけろ。力がないなら、力ある者を利用しろ。」

「?」

「お前の力が着くまで、俺を利用すれば良い…」


「……?」

 訳が分からないと言うふうに、見つめて来るスロウルに、最早苦笑しか出てこない部隊長は遠慮のないキスをした。


「んぅっ……んっ」

 突然の事に抵抗らしきものなんか全く出来なかった。


「何するん…んぅぅ!」

 話そうと口を開けば口腔に舌を入れられてスロウルの舌は絡めとられ強く吸われる。
 今まで何度も望まぬキスをして来たが、まさか部隊長にまでされるとは思わなかった。押し返そうにも、明らかな体格差、経験も乏しければ苦しくもなり、またこの流れかと諦めてしまいそうになる。


「お前な……」

 
 そこに苦言を呈して来たのは部隊長。自ら無体な事を強いているのに、思いっきり眉を潜めて苦々しい顔をしている。


「何で抵抗しない?」

 明らかに不機嫌に部隊長は聞いて来る。

「抵抗しても、暴れても敵わぬ時の方が多いからです…」

「まあ、確かにな。でもこれじゃぁやられたい放題だぞ?」


 ギュッと眉を潜めスロウルは下を向く。部隊長の言っている事は最もで自分もこれで良いとは思ってもいない。でも、囲まれて、抑え込まれたら如何したって敵わない…!
 

「はぁ、身を守る術は護身術だけじゃ無いだろう?」 


 相手の隙をつき、身を守るくらいの技術はあるが多勢に無勢では役に立たないのだ。


「先ずは叫べ。声の限りに。もし、周りに心ある者がいたら間に入ってくれるだろう。部隊内においてはお前も仲間だ。抵抗しても傷つける様な酷い扱いは受けんだろう。」

 その後騒ぎとなればスロウルを襲った者達もタダでは済まされないからだ。

 全く、幼過ぎる者を良くこんな所に手放したものだ。つくづく貴族の考える事は分からん。


「後は、オレを利用しろ。これ以上玩具にはされたく無いんだろう?」

「……はい…」

 ふぅ、スロウルの返答に溜め息を吐きつつ、部隊長が驚きの提案をする。


「いいか、スロウル。今からお前を一度だけ抱く。周りの者達にお前は俺のものだと位置付ける。いいな?」


 抱く、とは?そんな知識は全く無いスロウルに取っては何と答えたら良いのかさえ分からないのだ。


「分からんか?なら、教えてやるから、ただ力は抜いておけよ?」

 そう言うなり、スロウルを横抱きに抱え上げた。
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