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35 篭城

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 ポロポロと泣き出してしまったシェインを見て、少なからずフランカは動揺してしまった。ただの当て馬として演じればいいと言うものでは無いほど、シェインの様子が尋常ではなかったから。


 ガラット王子が使用人を、しかも同性に想いを寄せているなんて、大声で言える様なことではないが、如何やら当のご本人は甚く真面目に、本気でシェインの事を大事にしているのが見て取れて、その意外な姿が微笑ましく、勿論顔には出さないが当て馬でもいいか、と二人の様子を観察し楽しむ方に気持ちを切り替えたばかりだ。 


 何やらシェインは声が聞こえたと言うが、それ以降シェインは訳を話すまでもなく、入れ替わりに来たメアリーに代わって離宮に引き揚げてしまったのだ。

 事の顛末を話すと、メアリーは案の定フランカには困ったような笑顔を向けて謝罪を申し出てくれたが、ガラット王子はどこと無く嬉しそうに離宮を見つめているだけだった。


「殿下、お約束ですわよ?覚えておいでですわよね?」

 驚きが過ぎ去れば、物知り顔の人を問い詰めたくもなる。


「私が精霊付きと言うのを知っているだろう?」

「ええ、勿論。」

「では、シェインもその様なものと思ってくれ。」

「え?」

 シェインも?え?でも…

「ならば、なぜ?あの子は保護されていませんの?まるで一般人ですわ。」


 精霊付き…精霊の加護を受け、又は精霊自身がその者と融合するほど深く関わりを持っている者達は、大いに自然の恵みを得る人物として大抵は何処かの神殿の保護を受けるのが習いだ。
 例え産まれが平民であったとしても、受ける恵は国の存続を左右するとさえ言われる事があるのだから…シェインの様に一般人と同じ様に使用人として働いている事自体あり得ないのではないかと思われた。


「まさか、それは間違いではありませんの?」

「なぜ、私が間違う?」

 少しガラット王子の機嫌を損ねたのが分かった。

「精霊付きであれば、人間との付き合いを嫌うものではありませんでしたか?私の勉強不足であったなら申し訳ないのですが…」

「いいえ、フランカ様その認識であっておりますでしょう。」

「では、なぜ?シェインが精霊付きと言えますの?彼はとても人懐こい様に見えますが?」

 ええ、そぅ。私よりも…彼の方がずっと周りの者に可愛がられる様な人望がありそうですわ。


「フランカ、精霊付きならばそうだろう。」

「……どう言う事です?訳が分からなくなりましたわ……?」

 降参、とばかりにフランカは上を向く。フワリと優しく後ろへ流した髪が揺れ光を放った。


「彼は、シェイン君は、精霊…自身が人化した姿なのです………」

 思いも掛けない言葉がメアリーから発せられ、一瞬時が止まった……
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