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「アリー?」

「消失…!」

 瞬間、フッとラウードの表情が和らぐ。

「アリー…!」

「どうですか?」
 
「私の中の、苦痛を消したね?」

「…!…消えました…!?」

「凄いね…君の力は………」

「良かった~~~…怪我が消えたから、できるかもと思って……」

「……アリー…ありがとう…でも、君の恐怖は取らなくて良いのか?」

「ラウードさんはやっちゃダメですよ?また、苦しくなるんでしょう?」

「いや…今ので随分と楽にはなった…」

「俺もこんな事できるのなんて知らなかったから…スキルって凄いですね…!」

「あぁ、そうか。アリーは誰にも教えてもらえなかったのだな?」

「スキルの事ですか?だったら、そうです。」

「一つ言っておくよ。私のスキルで人の苦痛を取れたとしても、その人の記憶まで取るわけではないんだ。だから、辛いことがあった記憶は残る。」

「…はい。」

 それは有都にも分かる。ここにきてから恨みとか、嫌な感覚はすっかり無くなったけど、やられた記憶はちゃんとあるのだ。

「だから、また同じ様に苦しくなることもある。」

「そうかもしれません…」

「ふふ…そうなんだよ…何度も何度も繰り返して、今に至るんだ………」

 ラウードの苦しみは消失したはずなのに、明るくなった表情に影が差している様に感じるのはなぜだろうか?

「あの、まだどこか痛む所でも?」

「…大丈夫…これは、私のケジメだから……」

「ラウードさん…?」

「さ、寝ようアリー。明日はもう少しここを片付けなくちゃいけない。オリバーの回復を待ってもう少し移動しよう!」

 もう少し、ラウードの話を聞きたかった有都ははぐらかされた様に話を終わりにされてしまった。


 なんだろう……?楽にはなったと思うんだけど………

 
 
  
 翌日には昏睡していたオリバーは目を覚ます。出血の影響からか、オリバーは食欲旺盛でその日一日中有都とサクは食料集めに奔走する事になった………

「サク、アリー、ハイ!」

 動ける様になったオリバーは今度は自分が、と率先して果物集めをしてくれる。一日中歩き続けたサクと有都は病み上がりのオリバーに少しだけ甘えさせてもらって夜を迎えたのだ。

「これだけ回収できたが、サク、使えそうか?」

 夜帰ってきたラウードが持ってきたのは、襲われた森の周辺にぶちまけてしまった鍋やら着替えやらの諸々だ。

「ありがとう、ラウード。十分よ。」
  
 土で汚れてしまっているものはあるが、どれも皆んな使えそうで何よりだった。
 サクの様子は出会った時と変わらない。ラウードにも昨日の様な辛さはなさそうだった。

「………………」

 モジモジモジ……… 

 片付けも粗方終わり、そろそろ眠ろうかとそれぞれの小屋へ引き上げようとしている中で、ずっと……チラチラとオリバーが有都を見て来る…


 見られてるなぁ……?


 怪我の後からは大分懐いてくれる様になったと思うオリバーだ。有都とも視線を逸らせずに話をしてくれる。

「……………」

 有都が見つめ返すと、スッとサクかラウードの後ろに隠れてしまう。

「オリバー……?」

 仕方なく、有都はしゃがみ込んでオリバーに話しかける。小さい子に話す様に、優しく、を心がけて。

「おいで、オリバー……」

 両手を広げて、抱きつきOK体制を作って待ってみると、オリバーはそっと近付いて来てくれた。

「オリバー…何か俺に言いたい事、ある?」

「…………」

「ん?」

 フワフワの髪や尻尾はあんな大怪我した事なんて嘘みたいに艶やかだ。

「………ありがとう……助けてくれて……」

 有都に抱きつきながら、小さな声でオリバーが言う。その姿が微笑ましくて微笑ましくて、有都はここに飛ばされてきて初めての幸せを感じた。自然と有都の顔もニコニコと笑顔になる。

「うん。オリバーが治って良かったよ……」

 抱きついて来るオリバーに有都も抱きしめ返してポンポンと背中をたたいてやる。
以前街で見かけた親子連れが、泣いている子供をそうやってあやしていたのを有都は見たことがあって、ついつい自分でも真似てみたくなった。

「人間…嫌いだけど、ラウードとサクとアリーは好き………」

「うん…俺も好きだよ…」

 純粋な子供にこんな事を言われて抱きつかれてしまっては、言われた方もこう答えざるを得ない。

「僕、アリーと寝る…!」

 スリスリと頭をこすりつけて甘えてきてくれるオリバーが可愛い……可愛くてつい良いよ、と言いたくもなるのだが…
 実際問題、小屋も小さく寝台が少ないのだ。オリバーとアリーが一緒に寝ては、ラウードとサクが一緒に眠る事になる。


 いや、それはまずいよね?


 まだ幼くてもサクだって女子だし…本当の家族でもないし。ラウードが野宿という手もあるけれど、それでは疲れが取れないだろう。


 あ、そうしたら俺がラウードさんの疲れを消失で消せば良いのかな?


「じゃ、オリバー……」


 それだったらオリバーと一緒に寝てやることもできる。友達らしい友達もいなかった有都にとってほ純粋に懐いて頼ってくれるオリバーが可愛くてたまらない。ラウードは既に野宿決定の案を遂行すべく、オリバーに一緒に眠る事を告げようとしていた。

「ダメだよ。オリバー…?」

 そこに、まったをかけたのは他でもないラウードだった。








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