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信じられない光景が、今メリカの前に広がっている。会場全ての貴族は頭を下げているし、上座にいる国王夫妻も起立しダンとメリカが進み来るのを待っているのが見えている。
「どういう、事ですの?」
メリカとて流石は貴族の令嬢で、内心震え上がるほど驚いてはいるのだが、しゃんと伸ばした背筋は崩れず、歩調も乱れなかった。歩きつつ小さくつぶやく様にダンに話しかける。
「君を、驚かせたかった……」
酷く満足げな表情のダンは優しくメリカを見つめている。決して馬鹿にしたり、見下した視線ではない。
「と、言うのは言い訳で、私は君に身分などに囚われずに付き合って欲しかったんだ。」
「………殿下…?」
「そう畏まらずに、一人の男としてね?君と接したかったんだよ。」
と、少しだけ照れた様なダンの表情がなぜかメリカの心にグッと刺さる。
「…殿下……」
「メリカ…今までの様にダンと…」
互いに少し言葉を交わしながら歩を進めれば、直ぐに国王両陛下の面前だ。ダンと揃ってバレント国王夫妻に礼を取る。
「良くお越し下された。フォトスレア皇国皇太子殿下。此度は我が国ソワイユ伯爵令嬢との婚約を心から祝福しよう!」
「婚約の許可を頂きバレント国国王陛下には感謝の念が耐えません。我がフォトスレア皇国皇帝陛下も深く感謝しているとの事でした。今後のバレント国とフォトスレア皇国との明るい未来の為に尽力させて頂きとうございます。」
「うむ。良くぞ申し出て下さった…皇太子殿下、我がバレント国は貴国との国交に全面協力を惜しまない。これを、殿下の帰国の手土産の一つとされよ。」
バレント国王の宣言と共に、一つの書状が従者エシューに手渡された。エシューは畏まってそれを恭しく受け取る。両国間の国交開始宣言書だろう。
もう一度バレント国王夫妻の前でダンとメリカは頭を下げる。その様子を肯きながら、王妃ショラウリンも満足そうに見つめている。
「バレント国王陛下、お慶びの中、私も我が婚約者殿に渡したい物がございます。お許し頂けますか?」
ダンとメリカは未だ婚約式をしていない。親しい周囲への周知と書類の提出のみだった。だからだろうか、ダンが何をするのかメリカには見当もつかないで、パチクリと目を瞬いている。
「構わぬ。其方らは未だに婚約式がまだであったな。良い機会だ。互いの気持ちを固めるが良い。」
国王陛下の許可が下りると、エシューがダンの元へと小さな小箱を持ってくる。
「メリカ左手を…」
おずおずとメリカはダンに手を差し出す。
「これは我が国で採れる宝石で造らせました。婚約の証にと…メリカ、気に入ってくれると良いのだが。」
ダンがメリカの左指の薬指にそっと小さな指輪がつけられる。白金の輝くリングの中央に沿って小さなエメラルドが一周回って埋め込まれている物だ。細身の作りだが、小さなエメラルドは目にも眩しい程の輝きを放っている。
「これ、は…?」
「私からの婚約の品だ。メリカ、遅くなって済まなかった。」
「綺麗…ですわ。ありがとう、ございます。殿下のお気持ちを、謹んでお受けいたします。」
メリカは最上級の礼を持ってダンに答えた。
「メリカ、私達は夫婦になるのだ。フォトスレアでは夫婦は同等。その様な過分な礼は要らない。さ、立って。国王陛下、お時間を頂きありがとうございます。やっと一つ肩の荷がおりました。」
「うむ。改めてそなたらを祝そう。また、我が国の中でも新たな家の繋がりが出来た。ここに紹介しよう。ストレー侯爵!」
ザワッ……明らかに会場内が祝賀ムードから一転して騒めきを帯びた。
「ここに……」
国王に名を呼ばれ、一人の紳士が進み出る。
ストレー侯爵……タントルの父で、メリカの義父になるはずだった方だ。
懐かしい……厳格な方で、メリカと親しく語り合うことはなかったが、それでも細部のことにまで、気を配る侯爵のなさりようはそれだけで優しい方と分かったものだ。
(少し、お痩せになった?)
社交界から離れていたメリカにはタントルの現状は把握していない。
「ストレー侯爵家の嫡男をここへ。」
(タントル……様が…?)
国王主催の舞踏会で各家必ず出席の事とと言われればストレー侯爵家のタントルだとていて当然。だが、メリカの手に少しばかり力が入ってしまう。最後に会ったのが無理やりに馬車に連れられて行きそうになった時だ。
ギュッとダンがメリカの手を握り返して来た。チラリとダンを見れば、いつもの様に優しい笑顔……
………大丈夫………
まるで耳元で囁かれているみたいに、ダンの声が聞こえる気がする。メリカはキュッと唇を噛み締めてダンに肯き返した。
一瞬騒ついた会場内も、国王の面前であるために直ぐに落ち着きを取り戻す。人垣をかき分ける様にして 一組の男女が王の前に進み出た。
(タントル様と…?……侯爵、令嬢?)
メリカとはあまり接点のないハリード侯爵家令嬢だ。焦茶の豪華な巻き毛をゆったりと背中に流している。
「御前に…」
心なしか、タントルの顔色が悪い様だが…?
(ステイシー様の直ぐ後に…お決まりになったのかしら?)
メリカが知っているタントルのお相手は伯爵家令嬢ステイシー、男爵家令嬢イリヤーナまでだった。
「慶事とは続くものだな、タントルよ?」
「御意にございます。」
「ここに、ストレー侯爵家、ハリード侯爵家の婚姻を宣言する!なお、ストレー侯爵家は今後側室を取る事をも許可する。これでタントルは思い煩うことなく、家を守る事が出来よう?」
「…御意……」
国王の前にタントルとハリード侯爵令嬢は深く首を垂れた。
「どういう、事ですの?」
メリカとて流石は貴族の令嬢で、内心震え上がるほど驚いてはいるのだが、しゃんと伸ばした背筋は崩れず、歩調も乱れなかった。歩きつつ小さくつぶやく様にダンに話しかける。
「君を、驚かせたかった……」
酷く満足げな表情のダンは優しくメリカを見つめている。決して馬鹿にしたり、見下した視線ではない。
「と、言うのは言い訳で、私は君に身分などに囚われずに付き合って欲しかったんだ。」
「………殿下…?」
「そう畏まらずに、一人の男としてね?君と接したかったんだよ。」
と、少しだけ照れた様なダンの表情がなぜかメリカの心にグッと刺さる。
「…殿下……」
「メリカ…今までの様にダンと…」
互いに少し言葉を交わしながら歩を進めれば、直ぐに国王両陛下の面前だ。ダンと揃ってバレント国王夫妻に礼を取る。
「良くお越し下された。フォトスレア皇国皇太子殿下。此度は我が国ソワイユ伯爵令嬢との婚約を心から祝福しよう!」
「婚約の許可を頂きバレント国国王陛下には感謝の念が耐えません。我がフォトスレア皇国皇帝陛下も深く感謝しているとの事でした。今後のバレント国とフォトスレア皇国との明るい未来の為に尽力させて頂きとうございます。」
「うむ。良くぞ申し出て下さった…皇太子殿下、我がバレント国は貴国との国交に全面協力を惜しまない。これを、殿下の帰国の手土産の一つとされよ。」
バレント国王の宣言と共に、一つの書状が従者エシューに手渡された。エシューは畏まってそれを恭しく受け取る。両国間の国交開始宣言書だろう。
もう一度バレント国王夫妻の前でダンとメリカは頭を下げる。その様子を肯きながら、王妃ショラウリンも満足そうに見つめている。
「バレント国王陛下、お慶びの中、私も我が婚約者殿に渡したい物がございます。お許し頂けますか?」
ダンとメリカは未だ婚約式をしていない。親しい周囲への周知と書類の提出のみだった。だからだろうか、ダンが何をするのかメリカには見当もつかないで、パチクリと目を瞬いている。
「構わぬ。其方らは未だに婚約式がまだであったな。良い機会だ。互いの気持ちを固めるが良い。」
国王陛下の許可が下りると、エシューがダンの元へと小さな小箱を持ってくる。
「メリカ左手を…」
おずおずとメリカはダンに手を差し出す。
「これは我が国で採れる宝石で造らせました。婚約の証にと…メリカ、気に入ってくれると良いのだが。」
ダンがメリカの左指の薬指にそっと小さな指輪がつけられる。白金の輝くリングの中央に沿って小さなエメラルドが一周回って埋め込まれている物だ。細身の作りだが、小さなエメラルドは目にも眩しい程の輝きを放っている。
「これ、は…?」
「私からの婚約の品だ。メリカ、遅くなって済まなかった。」
「綺麗…ですわ。ありがとう、ございます。殿下のお気持ちを、謹んでお受けいたします。」
メリカは最上級の礼を持ってダンに答えた。
「メリカ、私達は夫婦になるのだ。フォトスレアでは夫婦は同等。その様な過分な礼は要らない。さ、立って。国王陛下、お時間を頂きありがとうございます。やっと一つ肩の荷がおりました。」
「うむ。改めてそなたらを祝そう。また、我が国の中でも新たな家の繋がりが出来た。ここに紹介しよう。ストレー侯爵!」
ザワッ……明らかに会場内が祝賀ムードから一転して騒めきを帯びた。
「ここに……」
国王に名を呼ばれ、一人の紳士が進み出る。
ストレー侯爵……タントルの父で、メリカの義父になるはずだった方だ。
懐かしい……厳格な方で、メリカと親しく語り合うことはなかったが、それでも細部のことにまで、気を配る侯爵のなさりようはそれだけで優しい方と分かったものだ。
(少し、お痩せになった?)
社交界から離れていたメリカにはタントルの現状は把握していない。
「ストレー侯爵家の嫡男をここへ。」
(タントル……様が…?)
国王主催の舞踏会で各家必ず出席の事とと言われればストレー侯爵家のタントルだとていて当然。だが、メリカの手に少しばかり力が入ってしまう。最後に会ったのが無理やりに馬車に連れられて行きそうになった時だ。
ギュッとダンがメリカの手を握り返して来た。チラリとダンを見れば、いつもの様に優しい笑顔……
………大丈夫………
まるで耳元で囁かれているみたいに、ダンの声が聞こえる気がする。メリカはキュッと唇を噛み締めてダンに肯き返した。
一瞬騒ついた会場内も、国王の面前であるために直ぐに落ち着きを取り戻す。人垣をかき分ける様にして 一組の男女が王の前に進み出た。
(タントル様と…?……侯爵、令嬢?)
メリカとはあまり接点のないハリード侯爵家令嬢だ。焦茶の豪華な巻き毛をゆったりと背中に流している。
「御前に…」
心なしか、タントルの顔色が悪い様だが…?
(ステイシー様の直ぐ後に…お決まりになったのかしら?)
メリカが知っているタントルのお相手は伯爵家令嬢ステイシー、男爵家令嬢イリヤーナまでだった。
「慶事とは続くものだな、タントルよ?」
「御意にございます。」
「ここに、ストレー侯爵家、ハリード侯爵家の婚姻を宣言する!なお、ストレー侯爵家は今後側室を取る事をも許可する。これでタントルは思い煩うことなく、家を守る事が出来よう?」
「…御意……」
国王の前にタントルとハリード侯爵令嬢は深く首を垂れた。
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