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「嫌がっている?そんな訳ありませんよ?」
タントルの言葉にメリカはブルブルと頭を振る。
「……」
「貴方がどなたか知りませんが、メリカは私の物ですから、貴方にとやかく言われる筋合いは無い!失礼!」
「あ!」
そうタントルは言い切るとそのまま踵を返して馬車の方へと進んで行こうとする。
ガッ………
軽い衝撃が走って、メリカもタントルもそれ以上は進めずにその場に留まった。
「何をする!?」
ダンがタントルの肩を掴んでいた。
「何をする、はこちらの台詞だ。バレント国の貴族は婦女子に無体を働くのを常とするのか?」
先程よりも、ダンの目つきが鋭く、エメラルドの色が更に深くなった…
「…そうか、貴方はこの国の者ではないな?では、教えて差し上げよう!この国では、上位貴族や、上位者に逆らった者には罰が与えられる。だからメリカは私に逆らわないでしょうね…?さ、行こう?メリカ。」
肩を掴まれているというのに強引に先に進もうとタントルが足を踏み出すと同時に先程よりも強い衝撃がメリカを襲った。身体が傾いて倒れるかと思い、ギュッとメリカは目を閉じる。
「…まず、人は物ではないだろう?それに何よりもこの方は嫌がっている。国の法は法だが、私欲のためにある法ではないだろう?その様な姿を見せられた市民はなんと思うか、考えた事はないのか?」
倒れると思ったメリカがタントルとは違う腕の中に抱き止められていると知ったのは、直ぐ近くでタントルとは違う声が聞こえたからだ。
「!?」
「メリカ!?」
「……ダン…?」
「あ、やはり分かりましたか?」
怪訝そうに見上げるメリカの顔を覗き込み、ダンは今までの緊張が嘘の様に柔らかく微笑みかけてくる。
「…なぜ、ダンが?」
「…怪我は?メリカ嬢?」
(私の、名前を…?)
お互いに本名を名乗った事はないと思うのだが、まぁ、タントルがあれだけメリカの名前を連呼していればダンも覚えたのだろう。
「い、いいえ…ございません…!」
近くで見れば見るほど、ダンのエメラルドの瞳は深くて美しい色をしている。以前、ジョゼフの瞳を晴天を切り取って来たような素晴らしい色とダンは例えていたが、その本人の瞳も、手付かずの深い森林の透明度を上げた様な…見ているだけで、もの凄く安心感が湧く様な、そんな色合いをしていてメリカは素晴らしいと思った。
「ではお聞きしますがメリカ嬢。あの方の言う通りにあの方との同行は貴方の意思ですか?」
「……」
なんと、答えたらいいものか…全く、自分の意思にそぐわない事がおきているのだが…嫌でも、タントルの意志に逆らったら……それこそ後が怖い……
「私は……」
「はい……」
なんとも歯切れが悪く、言い淀んでしまうメリカの言葉をダンは根気よく一言一言待っていてくれる。
「ストレー様の、所へは……行く事ができませんの……」
「……?…嫌ではなくて、出来ないのですか?」
(嫌でもあるのですが、ここでは言えませんわ。)
「はい……婚約は遠に破棄されていますし、父にも、ストレー侯爵家への訪問は止められていますから…」
「父君…?ソワイユ伯爵にか?なぜだ!」
「なぜ…?私にも分かりませんが…」
(今までの方達と同じ事をしようとなさっているのならば、私にも父が止めるのも肯けます。)
「父君に従わない訳にはいかないのだろう?メリカ嬢?」
「はい…家長には逆らえません……」
「と、言う事だ。諦めて引かれよ。」
「……メリカ。君がそんなに愚かだったなんて…君のお父上より、私は位が高いのだが?」
「………」
(存じています……)
「その私に歯向かえば、どうなるのか分かっているのだろう?」
(十分に……分かっております……)
思わずメリカはギュッとダンの服を掴んでしまう…高位貴族を怒らせてしまえば、どんな事が起こるのか………国王まで巻き込んで裁判を起こし、貴族位を剥奪させるのだって不可能ではないだろう……
「やれやれ…呆れて物が言えんとはこの事だな……力任せの次は権力での脅しとは………理解に苦しむ……」
おびえているメリカにダンはそっと手を添えて、本当に嫌そうな顔でタントルにそう答えた。
「他国の方に理解などされなくても結構だ!さ、メリカ。自分はどうするべきか分かっているね?」
タントルにだって、メリカが本気で嫌がっていること位もう分かっているだろうに、それでもまだメリカに手を伸ばしてくる。
(なぜですの?貴方を相手にしたいと言う方は他にも沢山いるでしょう?)
伸ばされるタントルの手を見て、知らずメリカはピクっと反応してしまった。
「ここまでも愚かだと、醜悪さしか見えて来ないな………」
ポツリ…ダンは呟くと、しっかりメリカの身体に手を添えた。
「安心して良いですよ、メリカ嬢。あの者には貴方を渡しませんから。」
「………」
(それでは、ダンのお立場は…?この国での立場が、危うくなるのでは?)
この場を回避することだけに意識が向いていたメリカは、このままだとタントルの怒りがダンにも向いてしまう事に気がついた。留学中であろうダンの立場が危うくなる事に気が付いたメリカは、苦しそうな表情をダンに向ける。
(私が、行かなくては……幾ら嫌だと言っても、他人を巻き込んでしまっては………)
「メリカ……!」
少し、イラついたタントルの声が聞こえて……
「は……い…」
メリカがダンから身体をそっと離し、タントルの方へ行こうとすれば、ダンはそれを阻む様にメリカを離さなかった。
「ダン……?」
「言ったでしょう?貴方を渡しませんと。」
「…でも…」
「失礼ですが、こちらを見た事は?」
ダンはメリカとタントルに良く見える様に、あるマークが描かれている懐中時計を出した。
タントルの言葉にメリカはブルブルと頭を振る。
「……」
「貴方がどなたか知りませんが、メリカは私の物ですから、貴方にとやかく言われる筋合いは無い!失礼!」
「あ!」
そうタントルは言い切るとそのまま踵を返して馬車の方へと進んで行こうとする。
ガッ………
軽い衝撃が走って、メリカもタントルもそれ以上は進めずにその場に留まった。
「何をする!?」
ダンがタントルの肩を掴んでいた。
「何をする、はこちらの台詞だ。バレント国の貴族は婦女子に無体を働くのを常とするのか?」
先程よりも、ダンの目つきが鋭く、エメラルドの色が更に深くなった…
「…そうか、貴方はこの国の者ではないな?では、教えて差し上げよう!この国では、上位貴族や、上位者に逆らった者には罰が与えられる。だからメリカは私に逆らわないでしょうね…?さ、行こう?メリカ。」
肩を掴まれているというのに強引に先に進もうとタントルが足を踏み出すと同時に先程よりも強い衝撃がメリカを襲った。身体が傾いて倒れるかと思い、ギュッとメリカは目を閉じる。
「…まず、人は物ではないだろう?それに何よりもこの方は嫌がっている。国の法は法だが、私欲のためにある法ではないだろう?その様な姿を見せられた市民はなんと思うか、考えた事はないのか?」
倒れると思ったメリカがタントルとは違う腕の中に抱き止められていると知ったのは、直ぐ近くでタントルとは違う声が聞こえたからだ。
「!?」
「メリカ!?」
「……ダン…?」
「あ、やはり分かりましたか?」
怪訝そうに見上げるメリカの顔を覗き込み、ダンは今までの緊張が嘘の様に柔らかく微笑みかけてくる。
「…なぜ、ダンが?」
「…怪我は?メリカ嬢?」
(私の、名前を…?)
お互いに本名を名乗った事はないと思うのだが、まぁ、タントルがあれだけメリカの名前を連呼していればダンも覚えたのだろう。
「い、いいえ…ございません…!」
近くで見れば見るほど、ダンのエメラルドの瞳は深くて美しい色をしている。以前、ジョゼフの瞳を晴天を切り取って来たような素晴らしい色とダンは例えていたが、その本人の瞳も、手付かずの深い森林の透明度を上げた様な…見ているだけで、もの凄く安心感が湧く様な、そんな色合いをしていてメリカは素晴らしいと思った。
「ではお聞きしますがメリカ嬢。あの方の言う通りにあの方との同行は貴方の意思ですか?」
「……」
なんと、答えたらいいものか…全く、自分の意思にそぐわない事がおきているのだが…嫌でも、タントルの意志に逆らったら……それこそ後が怖い……
「私は……」
「はい……」
なんとも歯切れが悪く、言い淀んでしまうメリカの言葉をダンは根気よく一言一言待っていてくれる。
「ストレー様の、所へは……行く事ができませんの……」
「……?…嫌ではなくて、出来ないのですか?」
(嫌でもあるのですが、ここでは言えませんわ。)
「はい……婚約は遠に破棄されていますし、父にも、ストレー侯爵家への訪問は止められていますから…」
「父君…?ソワイユ伯爵にか?なぜだ!」
「なぜ…?私にも分かりませんが…」
(今までの方達と同じ事をしようとなさっているのならば、私にも父が止めるのも肯けます。)
「父君に従わない訳にはいかないのだろう?メリカ嬢?」
「はい…家長には逆らえません……」
「と、言う事だ。諦めて引かれよ。」
「……メリカ。君がそんなに愚かだったなんて…君のお父上より、私は位が高いのだが?」
「………」
(存じています……)
「その私に歯向かえば、どうなるのか分かっているのだろう?」
(十分に……分かっております……)
思わずメリカはギュッとダンの服を掴んでしまう…高位貴族を怒らせてしまえば、どんな事が起こるのか………国王まで巻き込んで裁判を起こし、貴族位を剥奪させるのだって不可能ではないだろう……
「やれやれ…呆れて物が言えんとはこの事だな……力任せの次は権力での脅しとは………理解に苦しむ……」
おびえているメリカにダンはそっと手を添えて、本当に嫌そうな顔でタントルにそう答えた。
「他国の方に理解などされなくても結構だ!さ、メリカ。自分はどうするべきか分かっているね?」
タントルにだって、メリカが本気で嫌がっていること位もう分かっているだろうに、それでもまだメリカに手を伸ばしてくる。
(なぜですの?貴方を相手にしたいと言う方は他にも沢山いるでしょう?)
伸ばされるタントルの手を見て、知らずメリカはピクっと反応してしまった。
「ここまでも愚かだと、醜悪さしか見えて来ないな………」
ポツリ…ダンは呟くと、しっかりメリカの身体に手を添えた。
「安心して良いですよ、メリカ嬢。あの者には貴方を渡しませんから。」
「………」
(それでは、ダンのお立場は…?この国での立場が、危うくなるのでは?)
この場を回避することだけに意識が向いていたメリカは、このままだとタントルの怒りがダンにも向いてしまう事に気がついた。留学中であろうダンの立場が危うくなる事に気が付いたメリカは、苦しそうな表情をダンに向ける。
(私が、行かなくては……幾ら嫌だと言っても、他人を巻き込んでしまっては………)
「メリカ……!」
少し、イラついたタントルの声が聞こえて……
「は……い…」
メリカがダンから身体をそっと離し、タントルの方へ行こうとすれば、ダンはそれを阻む様にメリカを離さなかった。
「ダン……?」
「言ったでしょう?貴方を渡しませんと。」
「…でも…」
「失礼ですが、こちらを見た事は?」
ダンはメリカとタントルに良く見える様に、あるマークが描かれている懐中時計を出した。
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