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126 贈り物 2

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「ここにも、一つ……」

 あの人の控えめな性格をすっかり忘れて美化していたみたいね。嬉しくもあるけど、今は苦笑が込み上げる。

 まさか、まさかと思って探っていたら良く見知った、自分に馴染みすぎている魔力の残滓ざんし……
もういない人と諦めもしていたから探る事さえもしていなかった自分を恨みたい。

 サウラの証言が無かったら絶対に見落としていた自信がある程微かな残滓…


「もう!残すなら残すで、どうしてもっとわかりやすい様にしないのかしら?この魔力を追えるのだって私だけでしょうに!」

 もしや、体が弱っているのかと物凄く心配もしたのだが、残った魔力の残滓は充分にコントロールが出来ているものだ。隠す必要も無いのに敢えてこれ。嫌がらせとしか思えない。

 今、直ぐには会いたくないの?

「何か、言えない事情があるの?トランジェス……」

 呟く名前に胸が締め付けられる。

 其方に事情が有るのなら、こちらから押し掛ければいいことよ…!最初は貴方の方から散々寄って来たのだし。まだ時間はあるわ…シエラを囲う練られた魔力の濃度が上がる……

 もう、一欠片さえ見落とすものですか…。危機迫る程の気迫を持って、シエラはトランジェスの痕跡を辿り始めた。







「此方ですよ。」

 起爆物に心当たりがあると話していたトランジェスが持って来たものは、玩具のガラス玉より一回りか二回り大きな物だ。中央が黒く、ガラスの中に何か閉じ込められている様な作りになっている。

「其方は?」

「衝撃を与えると中に入っている魔法石が爆発する様になっています。」

「まあ、これが?」

 見れば見るほどガラスの中に小さな黒い石が入っているだけにしか見えない。 

「私達には魔力は無いのですが?」

「大丈夫です。衝撃を与える事で発動する様に組んでありますから。実際にお見せしましょうね。」

 サザーニャ他騎士を連れて屋敷の庭の一角へとトランジェスは誘導する。

 フワリと霧が舞い上がり前方に円形の空間を作った。
そこへ一つのガラス玉をシュッと投げ込めば、霧の空間の中でボン!!と弾け爆発した。
 一瞬凄まじい光が走り、物凄いスピードで円形の空間のなかで煙りが渦巻き流れている。

 閃光が走ると、ビクッと体を強張らせてしまった騎士達であるが、炎も、煙も、爆風さえも彼女達のところには届かなかった。


「凄い………。」

 誰もが唖然としているなか、トランジェスだけは飄々としている。開いた手を握り込めば、円形の空間共に消えて行った。


「凄まじい物ですのね……こんな事、初めてみましたわ。」

「ええ、少しの刺激では起爆しない様になっています。投げるときに対象を壊す様に念じてくださいね。それが起爆の引き金になります。」

「トランジェス様……凄い物をお作りになったのですね?その威力は分かりましたが、私達は貴方様にお支払いする対価を持ってはおりませんの。」

 無事に国に帰れば良いのだが、こんな不穏なことを企てようとしているのだ。無事に帰れる保障は無い。
 喉から手が出るほど欲しいが、サザーニャ達が失敗すれば、トランジェスは骨折り損になってしまうだろう。


「構いません。何かが欲しくて手を貸しているのでは無いのですよ?私には私の為になるように動いていますのでお気になさらず…
 強いて言うならば、以前にも申し上げたように、お嬢さん達の本懐が遂げられますよう心より祈っていますよ。」


 トランジェスが持ってきた起爆玉は優に数十個。泉の規模もわからない為無駄遣いは出来ない。後は現地に行かなくては判断も付かないだろう。

「明日、邂逅の神殿にご案内しましょうね。」

「え?入れるようになったのですか?」

 あんなに人々が溢れ返っていたのに?


「神殿側が随分と頑張ってくれた様ですよ?王の命も三日でとの事でしたから。」

「あの、祝福を受けられなかった方が出たら…その方は王のお側に上がることができなくなりますの?」

「いいえ、祝福を受けていることが妃候補の条件ではありませんよ。皆は少しでも可能性があるならばと縁起担ぎの様な物なのです。」

「そう、なのですか…」

 もしや、強制的に祝福を受けられない人が出てきた場合、今から自分たちが行おうとしていることを思うと胸が痛む。この機に意を決してここまで来た者も多いだろう。

「姫君。貴方が負担に思う事など何もありませんからね?此方の願うことはただ一つ、本懐を遂げられませ。」

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