上 下
111 / 143

111 ゴアラへ

しおりを挟む

「陛下…陛下。」
 執務中何度かこの難しい表情で固まっているルーシウス。頭の中はサウラの事では有るまい。 
 
 目を開けてはいるがジッと考えに没頭していてシガレットの声も入ってこないのだ。

「アレーネ嬢の事は良い様になりそうで宜しゅうございました。陛下、そろそろゴアラへ暗部を戻さねばなりませんでしょう。」

 アレーネはオーレン家へ。シガレットの父は諸手を挙げて受け入れてくれた。
 そしてカザンシャルとの約束事が遅延しているのだ。シガレットの言う事は正しい。

 しかし、ルーシウスはソウからの報告のフードの男が何者なのか頭から離れない。


 シエラは言ったのだ、その男の子孫は俺だ、と。


 シエラと共に行動し、サウスバーゲンを切り開いて来た者ならば該当者は一人だ。

 ならばなぜ帰って来ない?番であるシエラがここにいるのに、帰らずに平気などとは思えない。番がいるのだ、例え自分が殺されようとも番の側にいる事を止められようはずはないのに…

 こうなると本当に考えている人物であるかも疑わしくなる。


「シグ、暗部をゴアラへ。少し気になる事がある故、人員を増やすぞ。」


 前回より東側に入っていた1組に加え、商人に扮したストランス組はゴアラ中央南から北へ移動する為直ぐに出発。キエリヤ山岳西から北へ更に1組、連絡調整担当補助にそれぞれ数組流動して動く様にする。これでもゴアラ国内は広大だ。まだまだ時間も必要だろう。


 シエラはあの日以来研究室でもある仕事部屋に篭りがちだ。あの日多くは語らなかったが、もしその人だったら、生きていればシエラだって会いたいだろうに…

 任務で離れて行くサウラが自分の事をその様に思ってくれる事を願って、そう思っていて欲しい。
 つい、自分にも重ねてしまった…




「まっった泉探索か?観光地巡りもいいが味気ねぇな。」

 観光地巡り、ただそれだけならばどんなに良いか。
バートの言う味気とは?魔物とか?凄腕の敵剣士とか?パザンで会った魔法が効かない少年の話題で一時騒然とした暗部の中で、バートは楽しそうにニヤニヤ笑っていたのを良く覚えている…




 今回のバート、ガイ、ソウ組はゴアラ国内で流動的に動き、他の組のサポートと泉探しだ。前衛に切り込む事だけはルーシウスがどうしても許してくれなかったらしい。 

 先のパザンでの事件の際、サウスバーゲン、パザン間の移動にルーシウスはサウラを離さず自分の馬に乗せて走破して来た。国王という手前、非公式に少数の護衛のみで動くのもどうかと思うし、シガレットにも散々小言を言われたのだが、今回ばかりは頑としてルーシウスは自分の考えを変えなかった。

 唯でさえ好きな時に会えないのだ。チャンスが有れば
共に居たいと思うのは当然だぞ?

 と至極真面目な顔でサウラは押し切られてしまったのだが、ルーシウス本人は幸せそうにしている。
そうかな?側にいる事が当然だって思ってもいいのか…

 それにパザンでは皇太子夫妻の仲睦まじやかな姿を見たからか、静かに唯そこにいるだけで満足する様な相手に巡り合う事の何と羨ましい事だろう、と思えて来たサウラは自分自身の心の変化を不思議と感じるのだった。

 



 サウスバーゲン国内の泉サンプルはもうほぼカザンシャルに提出済みだ。ゴアラのサンプルも数十を超えた様でゴアラ国内で動いていた1組の奮闘には暗部の皆感謝している。
 以前浴場の爺様に聞いていた有難い様な成就の泉も極あり触れた小さな泉であったとか何とか…


 ゴアラは北国であるにも関わらず、意外と肥沃な地だ。冬はそれなりに寒くなる様だが冬季も作物の収穫量は多い。国的にはとても豊かだ。

 キエリヤ山岳を越えゴアラの地を踏んだのはこれで2回目。タギラントの街もそうだが、物が豊富で活気が溢れている。人当たりが良い人が多いし、旅行者には商売柄か愛想が良い。
 

「あぁ、裏路地には入るなよ?旅行者は平気かも知れんが保守派支持者達が勧誘活動しているからあんまり見ていって欲しく無いんだよ。」
 
 タギラントより北側に向かったヒラヤという町である商店の店主から声をかけられた。

「勧誘活動?」
 バートが尋ねる、以前ストランスが話していた保守派の話ならある程度は分かるが。
 
「そうなんだよ。若くて強そうなのがいると保守派の活動家に誘われるんだ。この頃あちこちで声をかけ回っているそうだからね。遭遇しても良い気持ちにはならんよきっと。」

 なんの活動家までは聞かずもがな。お礼を言い本日収集予定の泉へ向かう。ゴアラ潜伏中、街に寄るのは観光の為ではない。必要な情報収集と食料の買い出しなどだ。人目を避ける事を常とするので普段は近隣の森などでの野営も多い。

 必要な物が揃えば野営は決して辛くはない。森には食料が豊富だし、狩りの経験ならソウも豊富だ。

 ゴアラの地形は周囲3方を山に囲まれた様になっており、山の恵みが溢れている。国土だけを見れば素晴らしい国だと思うのに、未だになぜ魔力持ちに執着するのか
心底疑問だった…
 






 





しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

冷宮の人形姫

りーさん
ファンタジー
冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。 幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。 ※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。 ※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので) そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。

わがまま姉のせいで8歳で大聖女になってしまいました

ぺきぺき
ファンタジー
ルロワ公爵家の三女として生まれたクリスローズは聖女の素質を持ち、6歳で教会で聖女の修行を始めた。幼いながらも修行に励み、周りに応援されながら頑張っていたある日突然、大聖女をしていた10歳上の姉が『妊娠したから大聖女をやめて結婚するわ』と宣言した。 大聖女資格があったのは、その時まだ8歳だったクリスローズだけで…。 ー--- 全5章、最終話まで執筆済み。 第1章 6歳の聖女 第2章 8歳の大聖女 第3章 12歳の公爵令嬢 第4章 15歳の辺境聖女 第5章 17歳の愛し子 権力のあるわがまま女に振り回されながらも健気にがんばる女の子の話を書いた…はず。 おまけの後日談投稿します(6/26)。 番外編投稿します(12/30-1/1)。 作者の別作品『人たらしヒロインは無自覚で魔法学園を改革しています』の隣の国の昔のお話です。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

虐げられた令嬢、ペネロペの場合

キムラましゅろう
ファンタジー
ペネロペは世に言う虐げられた令嬢だ。 幼い頃に母を亡くし、突然やってきた継母とその後生まれた異母妹にこき使われる毎日。 父は無関心。洋服は使用人と同じくお仕着せしか持っていない。 まぁ元々婚約者はいないから異母妹に横取りされる事はないけれど。 可哀想なペネロペ。でもきっといつか、彼女にもここから救い出してくれる運命の王子様が……なんて現れるわけないし、現れなくてもいいとペネロペは思っていた。何故なら彼女はちっとも困っていなかったから。 1話完結のショートショートです。 虐げられた令嬢達も裏でちゃっかり仕返しをしていて欲しい…… という願望から生まれたお話です。 ゆるゆる設定なのでゆるゆるとお読みいただければ幸いです。 R15は念のため。

【完結】言いたいことがあるなら言ってみろ、と言われたので遠慮なく言ってみた

杜野秋人
ファンタジー
社交シーズン最後の大晩餐会と舞踏会。そのさなか、第三王子が突然、婚約者である伯爵家令嬢に婚約破棄を突き付けた。 なんでも、伯爵家令嬢が婚約者の地位を笠に着て、第三王子の寵愛する子爵家令嬢を虐めていたというのだ。 婚約者は否定するも、他にも次々と証言や証人が出てきて黙り込み俯いてしまう。 勝ち誇った王子は、最後にこう宣言した。 「そなたにも言い分はあろう。私は寛大だから弁明の機会をくれてやる。言いたいことがあるなら言ってみろ」 その一言が、自らの破滅を呼ぶことになるなど、この時彼はまだ気付いていなかった⸺! ◆例によって設定ナシの即興作品です。なので主人公の伯爵家令嬢以外に固有名詞はありません。頭カラッポにしてゆるっとお楽しみ下さい。 婚約破棄ものですが恋愛はありません。もちろん元サヤもナシです。 ◆全6話、約15000字程度でサラッと読めます。1日1話ずつ更新。 ◆この物語はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。 ◆9/29、HOTランキング入り!お読み頂きありがとうございます! 10/1、HOTランキング最高6位、人気ランキング11位、ファンタジーランキング1位!24h.pt瞬間最大11万4000pt!いずれも自己ベスト!ありがとうございます!

私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?

新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。 ※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

処理中です...