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72 義姉と義妹

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 カザンシャルはサウスバーゲンと違い魔法中心の国家では無い。人命に関わる医療面において回復魔法を取り入れている節もあるが、基本はほとんど魔法を使わないのである。と言うより、魔力の強い者や自覚のある者は殆どと言っていいほど過去にサウスバーゲンへ移住してしまっている。中立国として門戸を開けてはいるが、その実ほとんど魔力を持たない者達が移住している為、魔力との関わりは深くは無い。ゴアラの人々も住むこの地はやはり魔力持ちの人々には縁遠い様である。
  
 そのような訳で城の夜の雰囲気もサウスバーゲンとは違う体であるが、ボウシュ皇太子の生誕祭もそれは盛大に祝われた。

 カザンシャルではランプで灯りを取る。ランプ台には光を吸収し落ち着いた色光を発光する鉱石が使用されていて、丸く掘られた鉱石の中にランプを入れると淡い光が優しく広がっていく。
 天井に吊るされたシャンデリアもその鉱石で作られており、こちらは白く明るい色を放つ。

 ホール窓には滑らかな艶のある絹が豊かなドレープを作って張り巡らされており所々に生花があしらわれている。
 ランプ台とランプ台の間には大振りの生け花、軽食、飲み物が用意され、招待客はそれぞれ自由に楽しんでいるようだ。

 この鉱石のお陰で、ホール内はサウスバーゲンよりは薄暗いものの異国情緒たっぷりと大人の雰囲気が醸し出されていてこのホールにいる人々が全てに置いて洗練されているように見えるから不思議である。

 なる程これでは子供の出る幕はないとボウシュ皇太子のエスコートを受けながら、セーランは納得した。

 本日のボウシュ皇太子の上着は光沢のあるエレラルドグリーンのモーニングにベスト、白いレースのジャボに白のスラックス。セーランはハイウエストのドレス、胸元から足元まで中心部が薄紫の光沢のある生地で外側に向けて上半身は淡いピンク色に変わり肩はふわりとしたシフォン生地で覆われ、足元は薄絹を重ね中心の紫から外側に薄ピンクへと色が変わるデザインとなっている。

 ボウシュ皇太子はゆっくりとセーランの歩調に合わせて歩いてくれる優しい紳士だ。互いの瞳の色を纏った2人はホール入り口からボウシュ皇太子のエスコートにより中央を進んで行く。セーランはまだまだ子供だが堂々としているその様は流石は未来の王妃、と周囲の貴族達を唸らせた。
 
 
 ホール会場より正面階段上に王族の控える間が設けられており、カザンシャル国王夫妻、ルーシウスとサウラはそこで待機となる。
 控えの間には深紅のカーテンが閉められているが、祝会開始には開かれ王族の御目見となった。

 若き皇太子が婚約者をエスコートしホール中央を進んで来る。

「この素晴らしい皇太子の生誕の祝いの席に、未来の皇太子妃、サウスバーゲン国王とその番殿を迎え我が王室、我が国の末長い安泰を見た事を皆共に祝おうぞ!」
 王の言葉を持って曲が奏でられ祝会の開始である。

 皇太子、セーランはその後階段を上がって国王夫妻、ルーシウス、サウラに挨拶をし、それぞれが祝辞を述べた所で、セーラン、サウラは退席となる。



「サウスバーゲンとまた違いましたわ。」

 光林宮に帰って来た、サウラ、セーランはセーランの居室でゆっくりと晩餐に付いている。せっかくのドレスアップ、このままでいただきましょう?とセーランのお誘いにより現在やや緊張状態のサウラである。
 
「お義姉様はサウスバーゲンの舞踏会にお出ましになった事はあります?」
 小首を傾げて問うセーランにいいえ、としか答えられないサウラ。

「ごめんなさい。私は山育ちなので全くそう言うのは苦手なのです。」

「まぁ、自然の中は良いですね。自由に走り回っても怒られないでしょうから。」

「お城では怒られるのですか?」

「いいえ。お母様が市井の出でしたから、マナーを重視する場合でなければ大丈夫だったと思います。」

「でもマナーの先生は厳しかった様な気がしますけど。特にアミラは厳しくて有名でした。」

「私実は余りお勉強が好きではありませんの。体を動かすことの方が好きで、剣を持ちたいと思った事もあるんです。けれどもそれはだめだと叱られました。」
 お兄様には内緒ですよ?コロコロと茶目っ気たっぷりの笑顔で話すセーランは皇女と言うより年相応の女の子だ。

「けれど皇太子妃に決まってしまって、後4年は猶予が有りますけど頑張らなくてはと今日また思わされましたわ。」

「お兄様達を見てたら甘えていてはいけないとカトレアーナお姉様とも良く話すのです。」

 サウラよりも小さいのに…いつから覚悟を決めていたんだろう。

「お義姉様も何か怖い事ってあります?こんな事はお兄様達に言えなくて…」

「もちろん。私にも恐れている事は有ります。人には言えない事も…」
 静かだけれど、はっきりと頷いてセーランの目を見てサウラは言う。

「ですよね。お義姉様は王族でも貴族でも無かった方でしょう?国の為に突然に重荷を負わせてしまったとお兄様が話していたのを聞いてしまったことがあって、申し訳なくも有り難いとも思っていたのです。」

「お兄様を助けて下さってありがとうございました。」
 ペコリ、と頭を下げて言う少女は王族では無い。一人の兄を思う優しい妹だ。

「わたしは何もしていないのに?」
 サウラが目を見張る。

「サウスバーゲンに残る決意をしてくださいましたでしょう?それだけでも大きいですし、勇気を貰いましたわ。私も、カトレアーナお姉様も安心して嫁げますもの。」
 何て優しい子だろうか。サウラは兄妹の情を知る事はできない。けれどこの姉妹ともっと心を寄せて話してみたいと心から思う。
 誰かの為に何かをしているのはルーシウスを始め王族の人々も同じなのに…

「セーラン様、私は出来る事は何でもしようと思っています。ですからいつか必ず、私の生まれ故郷にも皆様と一緒にいらして下さいね。」

 いつか、必ず…もう一度…


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