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62 カザンシャルに向けて

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 サウラがカザンシャル行きを了承してより、城内が慌ただしくなる。

「サウラ様の御英断には誠に感謝いたします。」
 久しぶりにルーシウスの部屋で会ったシガレットからは垂直に体を折って頭を下げられてしまった。そのまま小走りで部屋から出て行ってしまい、その忙しさが忍ばれる。

 カザンシャル王国には番の立場での訪問である為、準備に余念がないのは当然だろう。  

「やっと、やっと!サウラ様を着飾らせられますね!もう、何方からも邪魔はさせませんよ!」
 1人異常なまでの熱意を持って励んでいるのはスザンナである。

 え、そんなに?と言うほどメモにはぎっしりと持ち物のリストが書かれている。
 暗部での遠征には1人精々大きめの皮袋1つくらい。
それに比べて並べられた荷物の多い事。王城にいる人達は旅行に行くのにこんなに荷物を持っていくもの?

「当たり前ですよ。なんと言っても国王陛下の番様ですよ?王妃様にもあたる方になるんですよ?町娘の様に軽装でなんて行ったらサウスバーゲン王国が笑われてしまいますわ。ねぇ、アミラ様?気合を入れてご準備しないと。」 

 アミラも肯きつつ続ける。
「マナーも今のままでも問題ないでしょう。お茶会や何やらは王がお止めになりましょうから。出られるとしたら公式の生誕祭の式典だけになると思われます。タンチラードの時と違って私供もお供いたしますので姫様は何も心配なさらず。ただ王家の見栄や格式と言うのも有りますので、公式の場のみお覚悟を。」

 さらり、と覚悟を求められた様だが、移動の時や彼方あちらに着いてからも周りにはいつもの使用人のみとなるとの事で、私服も自由にして良い様子。そっと男物の依頼もアミラが隅にしまっていたのを見ると申し訳なくなる。

 王族1人1人にこの対応では、それだけでも移動が大変だと思われるが、これに国外へ行く為に外交官、執務官、護衛騎士団、医師団の団体が加わればどれだけ大きな行列が出来上がるだろうか。
 町に出るのならば是非とも見学する方になりたいと密かにサウラは思うのであった。



 
「暗部のソウは王の密命を受けて長期遠征中よ。」
 約束のサタヤ村との通信の日でサウラはカザンシャルに行く前にシエラの所に来ている。
 そして暗部の仕事に戻れなくなっているサウラは今皆んな何をしているのかとシエラに聞いてみた。

「どこかに遠征、ですか?」
「そうよ。王がいいと言うまで、と言う事にしているけど、彼方に行き次第では声がかかるかもしれないから装備だけは用意しておいてね。」

 話を聞きながら今日サタヤ村に送ってもらいたい物をシエラに渡す。先月イルーシャが送ってくれた食器の中に花の種、手紙、子供用に王都のお菓子を入れ、そして朝ルーシウスからサウラの部屋に届けられた王妃が品種改良したと言うバラの花束も一緒にイルーシャの布に包んできたのだ。何色もの小ぶりの薔薇が色鮮やかに咲き乱れている。

「花束は大き過ぎませんか?送れます?」
 ルーシウスは両手で抱える程の花束にして届けてくれたのだが、大きさが気になってしまう。

「まあ、随分奮発したものね。どなたに届けるのかしら?」

「はい。両親の墓前にです。」

「ああ、そうか。だからなのね。挨拶にいく訳には行かないものね。」

「この花はどう言うものか聞いた?」
 
「はい。王妃様が改良したのだとか。」

「そうなのよ。薔薇が好きでね。サウラちゃんのご両親にも気に入って貰えると嬉しいわねぇ、リシェーナ。」

 シエラは懐かしそうに呟くとそっと魔法陣の中央へ荷物を乗せる。

 青白い光が爆ぜる。

 魔法陣の中央に置かれていたのは、手紙の束、そして木箱が1つ。
 木箱から懐かしい匂いがする。我が家にあった物で間違いない。

「母さんのだ。」

 懐かしい、我が家の匂い。もう離れてどれくらいになるだろう?数ヶ月しか経ってないのに色々と有り過ぎた様に思う。
 
「大切なもの?」
「はい。」
中を見てやはりそうだと思った。

「父さんが母さんに送った物なんだそうです。」
 木箱の中には、小さな黄色い石が花の形に組んである髪留めだ。山の洞窟の奥から昔石を採ってきたと聞いた事があった。お祝い事で良く母が着けていたのを思い出す。イルーシャが家の中から見つけてくれたのだと思う。もう帰れないかもしれないから家の中のものを好きに使ってくれと前回の手紙で伝えたから。

 パチン、早速髪に留めてみる。黄色く透明感のある石は黒髪に良く映える。

「素敵ね。どんな宝石よりも綺麗よ。」
シエラが心から褒めてくれる。

「ありがとうございますシエラさん。あの、ルーシウス様にお礼を言ってきますね。」

サウラはニコニコしながらシエラの部屋を後にする。

 これなら久しぶりにルーシウスもサウラの素の笑顔を見れるだろう。ルーシウスの嬉しそうな顔も目に浮かぶ。

 それにしても、いつの間にか名前で呼ぶ様になったのね。サウラの中の変化が、嬉しい物ならこれ以上の事はないと、シエラの目はいつになく優しい物だった。




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