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56 暗部の仕事

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 暗部の仕事は実に地味だ。ゴアラに関する事の殆どを受け持っているらしい。
 ソウが新たに入った為に、仕事の総ざらいを命じられ、今は城下に降りている。

「ゴアラの目的は?」

「魔力持ちの人間を捕まえ屠る事。」

「その目的は?」

「心の臓の回収、魔力の抽出。」

「それはどこで行われている?」

「ゴアラの地、拠点は常に動いていて未だ掴めていない。」 

「我らの目的は?」

「拠点の探索と、国内の警邏けいら。」

「ピンポーン、という訳で行くぞ。」
 宿から市中に出る前のバートとの遣り取り。
バートは案外軽いノリだ。実力ではどちらが上か分からないが、仕事中ならばガイの方が真摯に取り組んでいる所がある。

 数日前より、警邏目的で北東の結界領に来ている。
国の境界には結界が張り巡らされているが、これが弱まり乱れが現れると西の結界領で魔物が入ってきた時と同様に国民に敵意ある者の侵入を許してしまう。
 現在の敵認定は魔物とゴアラ人(魔力を持つ者に殺意を持っている者限定)だが、まれにそれらを手引しようとする内通者も現れる。
 主に魔力を持っていない国民が主だが、ゴアラの甘言にだまされて、結界が弱まり張り直される隙をついて国内に入り込む手引きをする者が出てくるのだ。

 先日も他の地域でゴアラ人を数名捕獲したばかり。今日は廃墟を虱潰しらみつぶしに回り残党狩りが目的だ。

 


 カリッ左耳に付けられた黒曜石のピアスをソウは弄る。

 あの後十数軒の強行突破で空き家、廃墟を巡り残党の痕跡を洗い出そうとしたが目ぼしい物は見つからず、本日の業務は終了と宿屋に帰還して来ている。
 今回は2チームづつ合同で国内各地に派遣されている。
  
 宿屋でも3名一室が原則の中、入浴もとうに終えた寛ぎタイムにガイは居ない。

「お、何だお前そこに付けられたのか?」

 ソウのいじっているピアスを目ざとく見つけ、バートが聞いてくる。バートはチョーカーの如く、革紐でガッチリ首に固定されている自分の黒曜石を指差す。
 暗部一人一人にはシエラ特性魔法石が配られている。これには魔力を極力外に漏らさない為魔力隠匿の作用がある。ゴアラ人は敏感に魔力を察知し襲撃してくる。ほぼ全員魔力持ちの暗部が格好の餌になってしまわない為の防御対策だ。

「まぁ、全員絶対にやられない自信はあるんだけどな。」
 と、皆自信満々なのだが、要らぬ戦闘は避けるが吉、なのだそうだ。

 しかし、ソウのこの石は別物だ。実際はルーシウスに直に繋がっている。数日ソウが離れていても回復魔法を直接送り込める様になっているのだ。
 シエラがタンチラード遠征前にこれを仕上げられていたならば、サウラはソウにはならなかったかもしれないと城で何度も悔やんだそうな。
 勿論ルーシウスも事情は把握済みだ。快諾した訳では無いが、サウラの思う通りにが心情であった為、シエラの説得もあり了承せざるを得なかったのだ。石を別の色にしたかったとか何とかボヤいていたともシエラから聞いた。

「ガイは?」

 自分とルーシウスが繋がっていると言う事が思い出されて照れ臭くなり話を変える。

「あー、あいつは別件で外出中だ。」
 昨日捕まった捕虜の元にガイはおもむいている。拠点の場所と今回の残党の確認の情報を取る為だ。
 人には言えぬ方法で情報を聞き出すこともあるのだが、ガイは進んでやるそうな。その理由をソウは知らない。

「人には言えないアレコレは誰でも持ってるからなぁ。出来るなら見て見ぬふりをしておいてくれ。」
 バートは何か知っていそうだが、必要であればガイ本人が話すだろう。今はガイの仕事の成果を祈ろう。



 心の臓、全身の血液が一度に集まる場所に魔力は留まる。ある時ゴアラ人の捕虜が言った言葉だ。留まった魔力をどの様に抽出し、何に使うのか?未だに分からない事の方が多い。
 その為にはゴアラへの潜入が必要不可欠になるだろう。争いたくは無いな、出来れば人を殺したくも無い。
避けては通れぬ道かもしれないが…

「おい、ボーッとしてないでさっさと寝るぞ?明日も早いからな。」
 ポンとバートに頭を撫でられ我に帰る。


 宿屋は本日盛況だ。客足はいいし、何だか食堂には屈強そうな男の集団。がらは悪くなく紳士的な面もある。ああ言う客がいる時は要らぬクレームやトラブルが少なくて働く方はすごく助かるのだ。

「ねえ、かっこいい人多くない?」
「なんと言っても可愛い子もいるの。」
「黒髪のちょっと大人しそうな子よね?」
「若いのに何か有りそうな所が良いのよね。」
「私体格のいい人がいいわ。」
「私はあっち、ほら、金髪の。キャッ」

 急に帰ってきた本人を前に短く悲鳴を上げて、奥に引っ込んでいく従業員が一人。

 何やら楽しんでいる所を邪魔してしまったかと少し罪悪感に駆られるガイ。控えめな笑顔で持ってお礼を言い、一人分の夕食を手に持ち部屋へ上がる。

「やっぱり、かっこ良いのよねぇ。」

 宿屋に泊まる度にどうやらファンは確実に増えている様である。



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