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38 野営
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ひたすら西へ目指す、馬車と騎士団。
町や村に宿泊する時間も惜しいとばかりに、道沿いに宿場も無ければ野営を取る。
道から少し外れた開けた場所に天幕を張り、各自、体を休める場所を作る。
騎士団は慣れたものだ。手際良く全ての天幕をあっという間に張ってしまう。
途中、休憩も最小限に移動してきた為、身体のあちこちが痛む。
サウラは馬車から降りると、ん~~、と伸びをする。
流石にカリナも慣れたものだ。疲れも見せずに、天幕を張る準備に取り掛かっている。
カリナとて、サウラよりも体格が良いとしても婦女子である。疲れも知らぬ様にサクサクと仕事を熟す様は、驚きを通り越して、信じられないものがある。
サウラに対しては周りの人達が、腫れ物を扱う様に丁寧にしてくれているが、カリナに対しては一兵士に対する扱いである。
同じ女性であるのに、これではいけないとサウラは奮起した。辺りを見廻しては自分に出来る事を探そう。
火が起こされ、大鍋やら、調理器具を準備しているのが見える。なる程、馬車に食器類を積んでいたのは、こういう事があるからなのね、と納得だ。
調理担当の騎士が食材を並べ、炊事を始める。凍らせた鶏肉と野菜、パンに果物、食材は豊富そうだ。
どうやら今夜は鳥の煮込みだろう。
野外で大勢で食事をするなんて、村の宴以来だ。サウラはワクワクしながら近付いて行く。
作業台には所狭しと材料が並べられ、食材と、使用するであろう食器までギッチリと並べ出されている。
先ずは下ごしらえからだろうと思っていたが、炊事担当、給仕担当は分かれているのだろうか?
同時進行で準備が進んでいるのだが、野外では場所の確保が難しいだろうし、案の定、お互いに仕事が遣り難そうであった。
働かざる者食うべからず、のサウラである。
カリナは天幕を張りに行っているし、バートと、ガイは周囲の安全確保に出ている。陣の外には出ない様に言われているが、歩き回ってはダメとは言われていない。
それに、ここには騎士しかいない。
トコトコと近付いて行って、手伝いまーす、と一言声をかける。
開けっぱなしにされている食器が入っていた木箱に蓋をし、その上に一旦食器類を置き直す。
作業台を広く取って、下ごしらえどうぞ~と声を掛ければ、炊事担当が直ぐに下ごしらえに取り掛かる。料理内容は決められた物が有るだろうから手は出せないが、その他外周りの手伝いをして行く。
使われた調理道具を洗ったり、ゴミをまとめたり、作業台をいつも綺麗に整える事などサウラには苦にならない。
また食材を余らせてしまっては余計な獣を呼び寄せる為、余った鶏皮を鉄板でカリカリに焼いてみた。味付けは塩とピリッと刺激のあるスパイス。
野営では酒を出す事はないかも知れないが、男性はこう言うのは好きなんではないかと思い、作ってみたのだ。
程なくして良い匂いが漂って来た。カリナもサウラが働いている事に驚き駆けつけて来た。
「姫様を働かせるなど、王直属の近衛は何をしているのだ。」
カリナとて騎士である。それも女伊達らに男に負けず騎士となっている強者である。
その一喝には迫力があった。まして礼儀も風紀も実力にも厳しい、タンチラード領の騎士としてここにいるのだ。今にも剣を抜きそうな雰囲気さえある。
「わあ、カリナさん、私が勝手にやったんです!」
「申し訳ありません。カリナ様、姫様の手際が余りにも良いのでお言葉に甘えてしまいました!」
サウラが止めるのと、周りの騎士が謝るのとほぼ同時。
「相変わらず勇ましいな。カリナ嬢。」
その声に一同一斉に礼を取る。こう言う所は良く訓練された騎士だと思う。
いつからそこにいたのか、ルーシウスとダッフルである。
「陛下。申し訳ありませぬ。私が付いていながら姫様にまさか、労働をさせてしまうとは。」
カリナは深く頭を下げる。サウラに不便をかけさせぬ為に自分が居るのにカリナは不甲斐なさを感じた。
「構わぬ、サウラがやりたかったのだろう?向こうからでも立ち働いているのが見えたからな。」
朝チラリと会っただけのルーシウスだ。一緒に移動しているのに、夕方まで会わないとは、何とも変な感じではある。
「皆ご苦労だったな。良い匂いだ。早速食べて早く休もう。明日も早い。」
給仕が始まると、各々食事を受け取り、天幕や外で好きな場所で食べ始めている。
「姫様、こちらへ。」
カリナの案内でサウラはカリナと天幕へと戻ってくる。
ガイが入り口に控えていて、今日の夜間護衛前半担当は自分だと挨拶をする。
出発前に挨拶した時程ではないにしても、やはりどこと無くぶっきら棒に見えてしまう。それを不思議に思っても、今はどうすることも出来ないと思い、小さな溜息でやり過ごすサウラであった。
サウラとカリナは同じ天幕で休み、護衛が夜間交代で外に付く。
何故かカリナから、陛下の天幕は隣ですから、用がある時は呼ばれますよ、と言われるが、これまで呼ばれて訪れた事はなかったな、と思い巡らす。
多分、彼方に行っても、朝に自分から赴く事に成るだろう。
町や村に宿泊する時間も惜しいとばかりに、道沿いに宿場も無ければ野営を取る。
道から少し外れた開けた場所に天幕を張り、各自、体を休める場所を作る。
騎士団は慣れたものだ。手際良く全ての天幕をあっという間に張ってしまう。
途中、休憩も最小限に移動してきた為、身体のあちこちが痛む。
サウラは馬車から降りると、ん~~、と伸びをする。
流石にカリナも慣れたものだ。疲れも見せずに、天幕を張る準備に取り掛かっている。
カリナとて、サウラよりも体格が良いとしても婦女子である。疲れも知らぬ様にサクサクと仕事を熟す様は、驚きを通り越して、信じられないものがある。
サウラに対しては周りの人達が、腫れ物を扱う様に丁寧にしてくれているが、カリナに対しては一兵士に対する扱いである。
同じ女性であるのに、これではいけないとサウラは奮起した。辺りを見廻しては自分に出来る事を探そう。
火が起こされ、大鍋やら、調理器具を準備しているのが見える。なる程、馬車に食器類を積んでいたのは、こういう事があるからなのね、と納得だ。
調理担当の騎士が食材を並べ、炊事を始める。凍らせた鶏肉と野菜、パンに果物、食材は豊富そうだ。
どうやら今夜は鳥の煮込みだろう。
野外で大勢で食事をするなんて、村の宴以来だ。サウラはワクワクしながら近付いて行く。
作業台には所狭しと材料が並べられ、食材と、使用するであろう食器までギッチリと並べ出されている。
先ずは下ごしらえからだろうと思っていたが、炊事担当、給仕担当は分かれているのだろうか?
同時進行で準備が進んでいるのだが、野外では場所の確保が難しいだろうし、案の定、お互いに仕事が遣り難そうであった。
働かざる者食うべからず、のサウラである。
カリナは天幕を張りに行っているし、バートと、ガイは周囲の安全確保に出ている。陣の外には出ない様に言われているが、歩き回ってはダメとは言われていない。
それに、ここには騎士しかいない。
トコトコと近付いて行って、手伝いまーす、と一言声をかける。
開けっぱなしにされている食器が入っていた木箱に蓋をし、その上に一旦食器類を置き直す。
作業台を広く取って、下ごしらえどうぞ~と声を掛ければ、炊事担当が直ぐに下ごしらえに取り掛かる。料理内容は決められた物が有るだろうから手は出せないが、その他外周りの手伝いをして行く。
使われた調理道具を洗ったり、ゴミをまとめたり、作業台をいつも綺麗に整える事などサウラには苦にならない。
また食材を余らせてしまっては余計な獣を呼び寄せる為、余った鶏皮を鉄板でカリカリに焼いてみた。味付けは塩とピリッと刺激のあるスパイス。
野営では酒を出す事はないかも知れないが、男性はこう言うのは好きなんではないかと思い、作ってみたのだ。
程なくして良い匂いが漂って来た。カリナもサウラが働いている事に驚き駆けつけて来た。
「姫様を働かせるなど、王直属の近衛は何をしているのだ。」
カリナとて騎士である。それも女伊達らに男に負けず騎士となっている強者である。
その一喝には迫力があった。まして礼儀も風紀も実力にも厳しい、タンチラード領の騎士としてここにいるのだ。今にも剣を抜きそうな雰囲気さえある。
「わあ、カリナさん、私が勝手にやったんです!」
「申し訳ありません。カリナ様、姫様の手際が余りにも良いのでお言葉に甘えてしまいました!」
サウラが止めるのと、周りの騎士が謝るのとほぼ同時。
「相変わらず勇ましいな。カリナ嬢。」
その声に一同一斉に礼を取る。こう言う所は良く訓練された騎士だと思う。
いつからそこにいたのか、ルーシウスとダッフルである。
「陛下。申し訳ありませぬ。私が付いていながら姫様にまさか、労働をさせてしまうとは。」
カリナは深く頭を下げる。サウラに不便をかけさせぬ為に自分が居るのにカリナは不甲斐なさを感じた。
「構わぬ、サウラがやりたかったのだろう?向こうからでも立ち働いているのが見えたからな。」
朝チラリと会っただけのルーシウスだ。一緒に移動しているのに、夕方まで会わないとは、何とも変な感じではある。
「皆ご苦労だったな。良い匂いだ。早速食べて早く休もう。明日も早い。」
給仕が始まると、各々食事を受け取り、天幕や外で好きな場所で食べ始めている。
「姫様、こちらへ。」
カリナの案内でサウラはカリナと天幕へと戻ってくる。
ガイが入り口に控えていて、今日の夜間護衛前半担当は自分だと挨拶をする。
出発前に挨拶した時程ではないにしても、やはりどこと無くぶっきら棒に見えてしまう。それを不思議に思っても、今はどうすることも出来ないと思い、小さな溜息でやり過ごすサウラであった。
サウラとカリナは同じ天幕で休み、護衛が夜間交代で外に付く。
何故かカリナから、陛下の天幕は隣ですから、用がある時は呼ばれますよ、と言われるが、これまで呼ばれて訪れた事はなかったな、と思い巡らす。
多分、彼方に行っても、朝に自分から赴く事に成るだろう。
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