27 / 143
27 城下町4
しおりを挟む
店主から受け取った串焼きを、これまた器用に開くとルーシウスが1本サウラに差し出す。
「護衛の人の分が足りなくないですか?」
串を受け取ってから、護衛は4人、串焼きは4本、自分達も入れたら足りないことに気づく。
「あれらは仕事だからな、食べるとしたら交代で食事を取るだろう。彼方の分は気にしなくていい。」
護衛を振り返れば、一様にコクコクと皆肯き返してくる。
ならば少し気は引けるが頂こうとすると、護衛がすっと側によりルーシウスに耳打ちする。
「陛下、毒味をさせてくださいませ。」
成る程、毒が入っていては大変である。
しかしサウラは、いただきます!と言うと"パク"と串焼きにかぶり付いていた。
「姫様!」
驚いた護衛の声を、サウラは気にも留めずにモグモグと食べ、飲み込んでからびっくりした様な顔で告げる。
「柔らかくて、すごく美味しい…。」
ほんのり塩と何かのスパイスの香り、噛めば歯応えというより、肉の旨味が溢れ出してくる。
牛肉の味は覚えていないけど、こんなに美味しかったかしら?こんなに美味しかったら覚えていそうなものなのに。
呆気にとられる護衛を他所に、ルーシウスは甚く満足げである。深いエメラルドグリーンの瞳が嬉しそうに細められ、ニコニコしながらサウラを見ている。
「毒が入っていても、私には多分効きませんので。」
サウラは申し訳なさそうに護衛に告げる。
この世最強の猛毒なる物は試した事がないのだが、1本でも大型猛獣を死なせてしまう、猛毒キノコ"スグコロリ"を昔食べたことがある。
けれど今も問題なく過ごせているのだから、大抵のものは大丈夫だろうと思う。
「そうだろう。ここのは絶品でな。」
ルーシウスも串を取ってはかぶり付く。流石に、男性の方が食べるのが早い様だ。
あっという間に1本平らげてしまった。
さて、フルーツ串なる物はいかがか?
フルーツが温かいままに出てくるとは思わなんだ。焼いてあり、何か振りかけられてはいるが、何味なのか想像も付かない。
食べるのに一時逡巡していると、牛串を食べ終わったサウラが、毒味しましょうか?と聞いてくる。
「味の想像がつかん。」
毒味を待っていた訳ではないと、サウラにフルーツ串を1本渡す。
サウラはなんの躊躇もなくパクリ、と食べ出す。
しっかりとした歯応えと中から溢れる甘みはフルーツそのもの。
けれど、周りに塩?先程の肉に使っていたスパイスだろうか?
甘さと塩っぱさが意外にマッチしていて、甘い果物が苦手な人でも、スパイスの風味でサッパリと食べられそうだ。
意外に食べやすい。
ルーシウスは、何も言わずに黙々と食べているサウラを、繁々と見つめたまま、手を付けない。
初めて食べる物には警戒する人かしら?
それともフルーツが苦手?でも朝食に出る物は食べていたし。
食べながらサウラは小首を傾げてルーシウスを見つめる。
「食べないんですか?」
ただ見つめ続けるルーシウスに、声をかける。
「いや、昔城下で、兄が何でもかんでも手を付けて食べる物だから、腹を壊してな。それでも、屋台の食べ物全部制覇すると言っていたのを思い出していた。そう言えば、まだ行っていない店も沢山あるな。」
自分の体調も悪かった為、兄を忍んで城下に降りることも無くなっていた。
また、来ることが出来るな、とポツリと呟く。
「サウラ、また一緒に来てくれるか?」
フルーツ串を取りつつ、ルーシウスが聞く。
流石に今日だけでは、城下町等周りきれない。サウラは、ただただお城で篭っているより、人が生活している雰囲気の方が落ち着くし、好きだ。
サウラもまたここに来たいと思う。
「また、来てもいいんですか?」
「1人でと言うわけにはいかんが、出来れば一緒に来たいものだ。其方と一緒だと、俺が楽しい。」
どうして1人で来てはいけないのか分からないが、また来てもいいと言ってくれた。それはとても嬉しいことだし、ルーシウスと一緒も嫌ではない。
嫌いではない相手に一緒にいて楽しいと言われれば、嫌な気持ちなどしないものだ。
「では、また連れて来て下さいね。今度はちゃんとお金の勉強をして来ます。」
「そうか、では、今度は其方に買い物をしてもらおう。」
ルーシウスは優しく微笑むと、意外と美味いな、と言いつつフルーツ串を食べ切った。
屋台街がある道は緩やかな下り坂になっている。
道の両側にポツポツと店が作られて、近所の住民や観光客が、あちこち覗きながら銘銘好きな物を買い、食べて楽しんでいる。
観光で来ている人々の服装も様々で、国中、若しくは国外から、多様な民族が来ていることが分かり、道行く人々を見ているだけでも楽しいものがある。
サウラは暫く、周りを見ながら、ゆっくりとルーシウスに連れられて行く。
ルーシウスは馴染みのある店や、新しく出来た店を、ちょこちょこ覗いては飲み物を買ったり、冷やかしたりしている。
一国の王であろうに、その風格は今はない。
ここにいる間のルーシウスは、この街に住む1人の男性に見える。
王も民も同じ1人の人間なんだと思うと、不思議な感じすらするものだ。
「護衛の人の分が足りなくないですか?」
串を受け取ってから、護衛は4人、串焼きは4本、自分達も入れたら足りないことに気づく。
「あれらは仕事だからな、食べるとしたら交代で食事を取るだろう。彼方の分は気にしなくていい。」
護衛を振り返れば、一様にコクコクと皆肯き返してくる。
ならば少し気は引けるが頂こうとすると、護衛がすっと側によりルーシウスに耳打ちする。
「陛下、毒味をさせてくださいませ。」
成る程、毒が入っていては大変である。
しかしサウラは、いただきます!と言うと"パク"と串焼きにかぶり付いていた。
「姫様!」
驚いた護衛の声を、サウラは気にも留めずにモグモグと食べ、飲み込んでからびっくりした様な顔で告げる。
「柔らかくて、すごく美味しい…。」
ほんのり塩と何かのスパイスの香り、噛めば歯応えというより、肉の旨味が溢れ出してくる。
牛肉の味は覚えていないけど、こんなに美味しかったかしら?こんなに美味しかったら覚えていそうなものなのに。
呆気にとられる護衛を他所に、ルーシウスは甚く満足げである。深いエメラルドグリーンの瞳が嬉しそうに細められ、ニコニコしながらサウラを見ている。
「毒が入っていても、私には多分効きませんので。」
サウラは申し訳なさそうに護衛に告げる。
この世最強の猛毒なる物は試した事がないのだが、1本でも大型猛獣を死なせてしまう、猛毒キノコ"スグコロリ"を昔食べたことがある。
けれど今も問題なく過ごせているのだから、大抵のものは大丈夫だろうと思う。
「そうだろう。ここのは絶品でな。」
ルーシウスも串を取ってはかぶり付く。流石に、男性の方が食べるのが早い様だ。
あっという間に1本平らげてしまった。
さて、フルーツ串なる物はいかがか?
フルーツが温かいままに出てくるとは思わなんだ。焼いてあり、何か振りかけられてはいるが、何味なのか想像も付かない。
食べるのに一時逡巡していると、牛串を食べ終わったサウラが、毒味しましょうか?と聞いてくる。
「味の想像がつかん。」
毒味を待っていた訳ではないと、サウラにフルーツ串を1本渡す。
サウラはなんの躊躇もなくパクリ、と食べ出す。
しっかりとした歯応えと中から溢れる甘みはフルーツそのもの。
けれど、周りに塩?先程の肉に使っていたスパイスだろうか?
甘さと塩っぱさが意外にマッチしていて、甘い果物が苦手な人でも、スパイスの風味でサッパリと食べられそうだ。
意外に食べやすい。
ルーシウスは、何も言わずに黙々と食べているサウラを、繁々と見つめたまま、手を付けない。
初めて食べる物には警戒する人かしら?
それともフルーツが苦手?でも朝食に出る物は食べていたし。
食べながらサウラは小首を傾げてルーシウスを見つめる。
「食べないんですか?」
ただ見つめ続けるルーシウスに、声をかける。
「いや、昔城下で、兄が何でもかんでも手を付けて食べる物だから、腹を壊してな。それでも、屋台の食べ物全部制覇すると言っていたのを思い出していた。そう言えば、まだ行っていない店も沢山あるな。」
自分の体調も悪かった為、兄を忍んで城下に降りることも無くなっていた。
また、来ることが出来るな、とポツリと呟く。
「サウラ、また一緒に来てくれるか?」
フルーツ串を取りつつ、ルーシウスが聞く。
流石に今日だけでは、城下町等周りきれない。サウラは、ただただお城で篭っているより、人が生活している雰囲気の方が落ち着くし、好きだ。
サウラもまたここに来たいと思う。
「また、来てもいいんですか?」
「1人でと言うわけにはいかんが、出来れば一緒に来たいものだ。其方と一緒だと、俺が楽しい。」
どうして1人で来てはいけないのか分からないが、また来てもいいと言ってくれた。それはとても嬉しいことだし、ルーシウスと一緒も嫌ではない。
嫌いではない相手に一緒にいて楽しいと言われれば、嫌な気持ちなどしないものだ。
「では、また連れて来て下さいね。今度はちゃんとお金の勉強をして来ます。」
「そうか、では、今度は其方に買い物をしてもらおう。」
ルーシウスは優しく微笑むと、意外と美味いな、と言いつつフルーツ串を食べ切った。
屋台街がある道は緩やかな下り坂になっている。
道の両側にポツポツと店が作られて、近所の住民や観光客が、あちこち覗きながら銘銘好きな物を買い、食べて楽しんでいる。
観光で来ている人々の服装も様々で、国中、若しくは国外から、多様な民族が来ていることが分かり、道行く人々を見ているだけでも楽しいものがある。
サウラは暫く、周りを見ながら、ゆっくりとルーシウスに連れられて行く。
ルーシウスは馴染みのある店や、新しく出来た店を、ちょこちょこ覗いては飲み物を買ったり、冷やかしたりしている。
一国の王であろうに、その風格は今はない。
ここにいる間のルーシウスは、この街に住む1人の男性に見える。
王も民も同じ1人の人間なんだと思うと、不思議な感じすらするものだ。
0
お気に入りに追加
25
あなたにおすすめの小説
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
冷宮の人形姫
りーさん
ファンタジー
冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。
幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。
※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。
※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので)
そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。
わがまま姉のせいで8歳で大聖女になってしまいました
ぺきぺき
ファンタジー
ルロワ公爵家の三女として生まれたクリスローズは聖女の素質を持ち、6歳で教会で聖女の修行を始めた。幼いながらも修行に励み、周りに応援されながら頑張っていたある日突然、大聖女をしていた10歳上の姉が『妊娠したから大聖女をやめて結婚するわ』と宣言した。
大聖女資格があったのは、その時まだ8歳だったクリスローズだけで…。
ー---
全5章、最終話まで執筆済み。
第1章 6歳の聖女
第2章 8歳の大聖女
第3章 12歳の公爵令嬢
第4章 15歳の辺境聖女
第5章 17歳の愛し子
権力のあるわがまま女に振り回されながらも健気にがんばる女の子の話を書いた…はず。
おまけの後日談投稿します(6/26)。
番外編投稿します(12/30-1/1)。
作者の別作品『人たらしヒロインは無自覚で魔法学園を改革しています』の隣の国の昔のお話です。
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
虐げられた令嬢、ペネロペの場合
キムラましゅろう
ファンタジー
ペネロペは世に言う虐げられた令嬢だ。
幼い頃に母を亡くし、突然やってきた継母とその後生まれた異母妹にこき使われる毎日。
父は無関心。洋服は使用人と同じくお仕着せしか持っていない。
まぁ元々婚約者はいないから異母妹に横取りされる事はないけれど。
可哀想なペネロペ。でもきっといつか、彼女にもここから救い出してくれる運命の王子様が……なんて現れるわけないし、現れなくてもいいとペネロペは思っていた。何故なら彼女はちっとも困っていなかったから。
1話完結のショートショートです。
虐げられた令嬢達も裏でちゃっかり仕返しをしていて欲しい……
という願望から生まれたお話です。
ゆるゆる設定なのでゆるゆるとお読みいただければ幸いです。
R15は念のため。
【完結】言いたいことがあるなら言ってみろ、と言われたので遠慮なく言ってみた
杜野秋人
ファンタジー
社交シーズン最後の大晩餐会と舞踏会。そのさなか、第三王子が突然、婚約者である伯爵家令嬢に婚約破棄を突き付けた。
なんでも、伯爵家令嬢が婚約者の地位を笠に着て、第三王子の寵愛する子爵家令嬢を虐めていたというのだ。
婚約者は否定するも、他にも次々と証言や証人が出てきて黙り込み俯いてしまう。
勝ち誇った王子は、最後にこう宣言した。
「そなたにも言い分はあろう。私は寛大だから弁明の機会をくれてやる。言いたいことがあるなら言ってみろ」
その一言が、自らの破滅を呼ぶことになるなど、この時彼はまだ気付いていなかった⸺!
◆例によって設定ナシの即興作品です。なので主人公の伯爵家令嬢以外に固有名詞はありません。頭カラッポにしてゆるっとお楽しみ下さい。
婚約破棄ものですが恋愛はありません。もちろん元サヤもナシです。
◆全6話、約15000字程度でサラッと読めます。1日1話ずつ更新。
◆この物語はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。
◆9/29、HOTランキング入り!お読み頂きありがとうございます!
10/1、HOTランキング最高6位、人気ランキング11位、ファンタジーランキング1位!24h.pt瞬間最大11万4000pt!いずれも自己ベスト!ありがとうございます!
私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?
新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。
※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる