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22 全結界防御2

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「姫様、こちらの見立てですけど、全結界防御が使えますよ。」

 バートの告白により、心中一時騒然とする執務室のメンバーである。

 魔力に相性の良い属性があるのと同様に、結界師であっても、全てのものを結界で遮断する事は出来ないのである。

 攻撃される特性により魔力の構成が変わって来るのだ。闘いながら魔法陣も使わずに、瞬時に全ての攻撃に対する結界を張るとなると、無理、と言わざるを得ない。

 バートの報告が真実であれば、サウラの結界能力は非常に稀有なものとなる。

「全結界防御だが、どこまで確認が取れた?」

 ルーシウスはふう、と溜息一つ付きバートに向き直る。

「直接攻撃と、少し魔法も剣に被せてみましたが、此方こちらも効いてませんね。」

 バートは雷撃系の魔法を得意とする。
 サウラとの手合わせ中に、静電気並みに小さいものから始めて、触れれば軽い火傷をする強度の雷撃にまで上げてみたが、此方も無傷である。そればかりか、もっと思い切りやって良いとまで言われてしまった程だ。

 流石に毒物、精神影響の出る様な術も薬も使えない為、そちらはまだ未確認だ。後ほど本人に確認を取るより他ないだろう。

 しかし、サウラの結界魔法の威力が判明したとしても、王の伴侶に対して護衛なしには出来ない。
 
 護衛要員は後程報告に来るであろう近衛騎士団団長を交え候補を挙げれば良い。

 全く、サウラに会ってからと言うもの嬉しい方の誤算続きである。自分の身を守れる様ならばそれに越した事はない。何かあっても、また巻き込まれても生き残れると言う事だ。両親の時の様に不慮の事故に巻き込まれ一瞬の内に儚くなる事はないだろう。

「我が番殿には、驚かされる事ばかりだな。」

 ルーシウスからは、ニヤリと笑みが出て来る。

「まだ、サウラ様は番と成られる事に了承されていませんよ。お惚気になる前に仲を深める事にいそしんで下さいませ。」

 手痛いシガレットの一言である。

「分かっている。その為の先ずは護衛選抜か。」
 
 騎士団長の来室前までに候補を挙げておくつもりである。

「訪問される場所の候補をいくつか挙げましょう。」

 シガレットは城下町の地図を出してルーシウスに差し出す。

 先程よりも室内の空気が柔らかくなった事を感じたバートは、どうやら首は繋がった様だと安堵する。
   
 しばらくすると近衛騎士団長ダッフル・カービンが訪室する。アラファルト直下の騎士団長である。

 ダッフルは30代後半、濃茶の瞳、柔らかいブロンドの髪はキッチリと整えられている。中肉中背の体格だが、団員の中で俊敏さにかけては彼の右に出るものはいない程、状況判断能力に優れた者だ。

 青いスタンドカラーのシャツとパンツにブーツ、騎士団の紋様が刻まれた胸当てをしている。同様の紋が鞘に刻印されている剣は入室時に入り口の近衛に預けてある。

「おはようございます、陛下、シガレット様。」
 入室してより、バートがいる事に気が付き目を向ける。バートは一礼してダッフルに前を譲る。

「バートが先に呼ばれていたのですか?」

「ああ、済まない。定時報告を待てば良かったのだが、先にこちらの気が焦ってな。別件で呼んでおいたのだ。」
 
「昨日の件についてではなくてですか?」
 定期報告書をシガレットに渡しつつ、首を傾げる。

「その件についてもバートから聞いている。こちらの件は3日後サウラと城下に出る。暗部に護衛について貰うつもり故、その場にいたバートを呼んだ。」

「ならば陛下、このバートと暗部もう一人、暗部の見習いを2人付けさせては貰えませんか?見習いは昨日の鍛錬場に居た者の中から選びます故。暗部候補生なので実力には何ら問題はありません。」

 バートの他に口の硬い者を1人上げておくとしよう。

「姫様の結界能力については報告書に挙げた通りです。報告を受けたまでの内容からですが、全結界を駆使されていたと考えられます。余りにも珍しい魔力にて騎士団では箝口令かんこうれいを引かせていただきましたが、よろしいでしょうか?」

「ああ、頼む。余計な面倒ごとに巻き込まれても面白く無い。」

「承知いたしました。後程選出した者達に伺わせます。」

 急に入れた日程故に、騎士団長には護衛の人員確保、城下町の安全確認と余計な仕事を増やしてしまった。

 申し訳なくも思うが、やはり楽しみの方が勝っているルーシウスは晴れやかな笑顔で、退出していく騎士団長とバートを見送った。

 お楽しみの前には幾つか片付けなければいけない事がある。

 執務机の左前方に、小さな台座に置かれたツルッとした黒い小石がある。ルーシウスが手を伸ばしそれに触れる。

「朝から何かしら?こちらは子供達を育てるのに根を詰めてて、忙しいのよ?」
 
 前振りもなくシエラの声が室内に響く。

「すまないが、サウラについて確認したい事が出来た。少し良いか?」

 黒い小石はシエラが開発した魔法石の一つで、執務室とシエラ自身を直結して結んであり、小石に魔力を流す事で連絡が取れる物だ。術者本人のみとしか結べないのが難点ではあるが、急用の際には至極便利である。

 そして、シエラが育てているのがこの魔法石類であって、サウラ召喚時に大量に減ってしまった物をまた一より作り補填ほてんしているのである。

 シエラの子供を育てている発言をすんなりと受け流している両名は流石と言えよう。


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