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2 王城召喚

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 閃光が走った…
 
 いや、正しくはサウラの足元から青白い光が湧き上がる。何やら足元に文字が見えるが、時折激しく光る光で何が書かれているのか判別できない。

「魔法陣!!」

 サウラの耳に聞こえたのは、ダンの声かゼスの声か。声の主を確かめることも振り返ることも、叫び声を上げる間も無くサウラと共に光は消え失せたのである。


 光に飲まれる前、一瞬にして結界を張った。助けを呼べず、何が起こったかも把握できず、「魔法陣」の一言に体が勝手に反応した。

 魔力持ちの村に生まれたサウラ自身も勿論魔力を持っている。魔力など一生使わずに知らずに過ごす者もいるが、サウラの村は魔力持ちが集まり数百年外部と閉ざされた村だ。当然魔力の扱いに長け、知識、技術も豊富で生活の一部として日々慣れ親しんできたものである。物心付くよりも前に幼い頃からしつけの一つとして魔力の、魔法の扱いの手ほどきを受けるのである。

 サウラの魔力は防御、癒しの属性を持つ。幼い頃から繰り返し練られたその結界を瞬時に張ったのである。けれども逆にこれしか出来なかったとも言えよう。

 魔法陣は複雑な紋を刻まなければならない。その構成により使われる魔力の属性も一つではない。魔法陣を完成させるには、紋を刻み構築し必要な属性の魔力を流し編み込んでいく、これでやっと発動の準備が整うのである。複雑な構築であればあるほど発動までの時間がかかるはず。

 そう、発動までの時間がかかるはずなのである。なのに、閃光と共に術完成までの時間が短すぎるのだ。振り返ることも出来なかった。数秒あっただろうか?自分の周囲に結界を張るのが精一杯だった。

 自分に教え込まれた知識が勝手にサウラの頭の中を駆け巡る。嫌な汗が額に、背中に出てくるのが分かるのに寒気も感じる。緊張で体が強張り、両手、両膝をついた状態で屈んでいた身を更に小さくする。ガンガンと自分の鼓動が頭の中でうるさく鳴り響く。ここにいるのだ。この魔法陣を張った者が。信じられないほどの魔法練度の使い手が。恐ろしくないはずがなかった。すぐに動ける態勢を取ろうとするのは本能なのだろうか?

「ああ、成功しましたね。」

 こちらの緊張を一切ものともしない、柔らかな声が響き渡る。柔らかいのに感情が読めない。その言葉は成功に対する喜びなのか、嫌悪なのかつかめない。全く緊張感がない声なのだ。

 術が成功とは、ここにサウラがいることは問題ないらしい。この後の処遇が一切わからない為、サウラ自身喜ぶことなど到底出来ないが、極度の緊張が落ち着いては来た為、急いで周りを見渡す余裕は出てきた。声は出さず素早く周りを見渡す。今までも目に入って来ていた景観は緊張のため自分の中に情報として入ってこなかったのだ。

 大きな部屋だ。部屋というより広間だ。今までこんな広いところに来たことも、入ったこともない。磨き上げられた石造りの壁に沿って、等間隔で帯剣した騎士が立ち並ぶ。胸には獅子と翼を模した印が刻まれた胸当てを付けている。
 所々大きな窓らしき物があるが、しっかり閉められている様で布まで下ろされている。真後ろには離れたところに大きな扉があるがこちらも閉ざされており両脇には騎士が立つ。
扉から毛足のしっかりとした深紅の絨毯が敷かれ、階段がある方へ続いている。自分はこの絨毯の上にいる。そして下には先程の魔法陣がぼんやりとした青白い光を微かに放ち、未だにその力はくすぶっているかの様だ。

 わずかに身動ぎをするサウラに合わせ、2人の騎士が後方に移動して来た。視界に入った騎士の動きに、再びサウラの身に緊張が走り、ビクッと肩が跳ね上がる。先ほどから握りしめている指先が冷たく、爪が食い込む。
 彼らは自分を切り払える位置にいる。もしや、こままま切られるのか?私は生贄の類なのだろうか?汗が頬を伝ってくる。歯が鳴らない様に食いしばった。結界を張っていること自体頭から忘れ去られていた。

 サウラの日常には切った張ったの出来事はまず起きなかったのだ。あったとしても見知った人同士、自分の身を守るための訓練の一つに過ぎない。帯剣をした本物の騎士に後ろを取られることなど生まれて初めての事。そもそも何故ここにいるのかも分からない。恐怖の方が先に立つのも仕方ない事だ。

「総員、帯剣解除。」

 優しげな声が広間に響く。先ほどの声の主だ。
帯剣解除、解除、切られる心配はないと言う事だろうか?
 
 声が響いたと同時に騎士が動く。金属音と共に剣帯から剣が外されていく。壁側に控えていた者は一歩前に出、自身前方の床に剣を横たえ一歩下がる。サウラの背後にいた騎士は一歩下がり自身の横に剣を横たえ一歩前に戻る。声と共に整然と流れる様に動く様は余程統制が取れているものと取れる。

 声は深紅の絨毯の前方、階段を登った先から聞こえて来た。乳白色の石材の階段に深紅の絨毯は続いて行く。上段には長身で細身の男性が立っていた。背の中程まである艶のある赤茶色の髪を後ろできっちりと結んでいる。クリーム色の上着に、紺のパンツ、すっきりとした装いだが、着ている布地は遠目にも高級な物とわかる。薄めの灰青色はいあおいろの瞳がじっとサウラを見つめている。
声に威圧の色はなく、視線からもこちらを伺う色が見えた。

「ここは、どこ?」

 ほっと一息吐き出して、乾いて張り付く喉からやっと声を出す。切られる心配がないのなら、自分の置かれた状況を把握したい。質問と同時に顔をしっかりと上段へ向ける。どうやらこの場を仕切る権限のある方は上におられる方らしい。

 視界を上へ広げれば上段の様子が見えてくる。声の主の隣には大きな金色の椅子がある。大柄な大人がゆったりと座れる程の大きさの椅子には背もたれ、肘掛に所狭しと細かく彫刻が施され金箔が貼られているのだろう金色に輝いている。座面、背もたれの張り布は深紅で金糸によって刺繍が施されているのが見えた。堂々たる風格だ。王座など夢でも見た事は無いが、この椅子のことを言うのではないか。ならばそこに座る人は王と言うことになる。
 
 しかし、王座と思わしき所に座している者はどう見ても、王と言うより今まさに命尽きようとしている一人の青年の姿にしか見えない。
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