1 / 54
1 カーリーの苛立ち 1
しおりを挟む
「ねぇ………一体何をやっているの?」
物凄く良く知っている呆れ声が、クリスの頭上から降ってくる。
それもそうだろう。きっと朝も早い時間から川の中に入っているだろうクリスの金の髪からは水が滴り、全身ずぶ濡れなのだから。
ずぶ濡れのクリスに声をかけてきたのは、クリス達の村の外に陣営を張っている傭兵団の一人カーリーだ。カーリーは小麦の肌に短めの金髪が美しい女の傭兵で、澄んだ緑の瞳は今は侮蔑の色さえ湛えてクリスを見下ろしている。
居心地悪そうにクリスは照れ笑いを浮かべて手に持つザルを動かし作業を続けていた。その様子から随分と長い時間川に入っていたんだろう事が窺えるのが、更にカーリーの冷たい視線へと繋がっているらしい。
「えっと……ライザの大切な指輪が落ちてしまったらしくて……」
ライザ……腐れ縁とも言えそうなクリスの女の幼馴染だ。燃える様な赤い髪と澄んだ宝石の様な赤い目を持つ魅力的な女性。ライザの名前を聞くと、ピクリ、とカーリーの眉が上がる。
「………何を落としたって?」
またなの?と言いそうなところをグッと堪えてカーリーが聞く。
「指輪を……」
その指輪はライザの先日の誕生日の時にクリスが買った物だろう。ライザの燃えるような赤い髪と瞳に合わせて、赤い石を必死に探して作ってもらった物だ。そんな大切なものを落とす方も落とす方だと思うのだが………何も疑うことのなさそうなクリスは、ライザに泣きつかれるままに今は川の中、と………
「一つ、聞きたいんだけど?クリス、これは何?」
川に掛かった橋の縁に座り、長い足を惜しげもなく晒しながら下を眺めているカーリーの手元に赤く光る石が見える。それは紛れもない赤い石がついた指輪で、クリスが探していた物だ。
「ライザの指輪だね?」
「そうね、見つかっているわよね?」
なのに、何でまだ川に入っているのよ?
呆れてこの質問を口にするのも億劫という様に、カーリーは視線だけでクリスに疑問を投げかけている。
「そうなんだよ。やっとの事でさっき見つけてさ。結構かかっちゃったな…ライザ、怒ってないといいけど……」
「さっき、ね…?」
カーリーが手に持つ指輪は川の中にあったと言うのだろうに、もう濡れてはいなかった。随分前に水から上げた証拠だ……
ここ、ブランカ村から正面に臨む所に金鉱山がある。村の男達は大抵この鉱山の坑夫として仕事を貰いに働きに行くのだ。この山から流れてくる川が村の中を通っていて、今クリスが入っている細く澄んだ川となる。
先程からこの川の中でクリスはザルを動かして何かを探しているのだ……
「で、何で指輪を見つけたあんたは、まだ砂金なんか採ろうとしているわけ?」
「う……」
バレた事があまりにもバツが悪そうに、クリスは言葉に詰まっている。
「そ、それは…」
クリスの愛想笑いも引き攣ってきた。
「大方、ライザにでも指輪のついでに砂金も頂戴、なんておねだりでもされたんでしょ?」
「カ、カーリー……」
「図星ね、呆れた……」
カーリーはクリスとライザと同じ歳で今年18歳になる。同年代で仲良くなれるかと思いきや、カーリーはライザを毛嫌いしている節があった。
それは偶然にも、カーリーがクリスとのいる所に出くわした所為だろう。ライザの行動は余りにも我儘でクリスを振り回すものだったから、普段ならば人間関係に口を出さないカーリーでさえクリスに大丈夫なのかと確認を取ったくらいだったのだ。
「でもさ、ライザにも必要な物なんだってさ…!今は俺しか手が空いていないから…」
それはそうだろう。ブランカ村の男達は皆んなこぞって金鉱山だ。クリスは父が騎士であった所為か物凄く剣の腕が立つ。クリスは長身だが筋肉は中位でやや痩せ型の体型をしているのに、傭兵団のトップクラス程の腕前だ。これを見込まれて坑夫の手が足りている時には村の用心棒としての仕事をしている。
今日も今日とて村の警備の仕事があるだろうに、朝早くからライザに捕まってしまったのだろう……
物凄く良く知っている呆れ声が、クリスの頭上から降ってくる。
それもそうだろう。きっと朝も早い時間から川の中に入っているだろうクリスの金の髪からは水が滴り、全身ずぶ濡れなのだから。
ずぶ濡れのクリスに声をかけてきたのは、クリス達の村の外に陣営を張っている傭兵団の一人カーリーだ。カーリーは小麦の肌に短めの金髪が美しい女の傭兵で、澄んだ緑の瞳は今は侮蔑の色さえ湛えてクリスを見下ろしている。
居心地悪そうにクリスは照れ笑いを浮かべて手に持つザルを動かし作業を続けていた。その様子から随分と長い時間川に入っていたんだろう事が窺えるのが、更にカーリーの冷たい視線へと繋がっているらしい。
「えっと……ライザの大切な指輪が落ちてしまったらしくて……」
ライザ……腐れ縁とも言えそうなクリスの女の幼馴染だ。燃える様な赤い髪と澄んだ宝石の様な赤い目を持つ魅力的な女性。ライザの名前を聞くと、ピクリ、とカーリーの眉が上がる。
「………何を落としたって?」
またなの?と言いそうなところをグッと堪えてカーリーが聞く。
「指輪を……」
その指輪はライザの先日の誕生日の時にクリスが買った物だろう。ライザの燃えるような赤い髪と瞳に合わせて、赤い石を必死に探して作ってもらった物だ。そんな大切なものを落とす方も落とす方だと思うのだが………何も疑うことのなさそうなクリスは、ライザに泣きつかれるままに今は川の中、と………
「一つ、聞きたいんだけど?クリス、これは何?」
川に掛かった橋の縁に座り、長い足を惜しげもなく晒しながら下を眺めているカーリーの手元に赤く光る石が見える。それは紛れもない赤い石がついた指輪で、クリスが探していた物だ。
「ライザの指輪だね?」
「そうね、見つかっているわよね?」
なのに、何でまだ川に入っているのよ?
呆れてこの質問を口にするのも億劫という様に、カーリーは視線だけでクリスに疑問を投げかけている。
「そうなんだよ。やっとの事でさっき見つけてさ。結構かかっちゃったな…ライザ、怒ってないといいけど……」
「さっき、ね…?」
カーリーが手に持つ指輪は川の中にあったと言うのだろうに、もう濡れてはいなかった。随分前に水から上げた証拠だ……
ここ、ブランカ村から正面に臨む所に金鉱山がある。村の男達は大抵この鉱山の坑夫として仕事を貰いに働きに行くのだ。この山から流れてくる川が村の中を通っていて、今クリスが入っている細く澄んだ川となる。
先程からこの川の中でクリスはザルを動かして何かを探しているのだ……
「で、何で指輪を見つけたあんたは、まだ砂金なんか採ろうとしているわけ?」
「う……」
バレた事があまりにもバツが悪そうに、クリスは言葉に詰まっている。
「そ、それは…」
クリスの愛想笑いも引き攣ってきた。
「大方、ライザにでも指輪のついでに砂金も頂戴、なんておねだりでもされたんでしょ?」
「カ、カーリー……」
「図星ね、呆れた……」
カーリーはクリスとライザと同じ歳で今年18歳になる。同年代で仲良くなれるかと思いきや、カーリーはライザを毛嫌いしている節があった。
それは偶然にも、カーリーがクリスとのいる所に出くわした所為だろう。ライザの行動は余りにも我儘でクリスを振り回すものだったから、普段ならば人間関係に口を出さないカーリーでさえクリスに大丈夫なのかと確認を取ったくらいだったのだ。
「でもさ、ライザにも必要な物なんだってさ…!今は俺しか手が空いていないから…」
それはそうだろう。ブランカ村の男達は皆んなこぞって金鉱山だ。クリスは父が騎士であった所為か物凄く剣の腕が立つ。クリスは長身だが筋肉は中位でやや痩せ型の体型をしているのに、傭兵団のトップクラス程の腕前だ。これを見込まれて坑夫の手が足りている時には村の用心棒としての仕事をしている。
今日も今日とて村の警備の仕事があるだろうに、朝早くからライザに捕まってしまったのだろう……
1
お気に入りに追加
31
あなたにおすすめの小説
美しい公爵様の、凄まじい独占欲と溺れるほどの愛
らがまふぃん
恋愛
こちらは以前投稿いたしました、 美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛 の続編となっております。前作よりマイルドな作品に仕上がっておりますが、内面のダークさが前作よりはあるのではなかろうかと。こちらのみでも楽しめるとは思いますが、わかりづらいかもしれません。よろしかったら前作をお読みいただいた方が、より楽しんでいただけるかと思いますので、お時間の都合のつく方は、是非。時々予告なく残酷な表現が入りますので、苦手な方はお控えください。 *早速のお気に入り登録、しおり、エールをありがとうございます。とても励みになります。前作もお読みくださっている方々にも、多大なる感謝を! ※R5.7/23本編完結いたしました。たくさんの方々に支えられ、ここまで続けることが出来ました。本当にありがとうございます。ばんがいへんを数話投稿いたしますので、引き続きお付き合いくださるとありがたいです。この作品の前作が、お気に入り登録をしてくださった方が、ありがたいことに200を超えておりました。感謝を込めて、前作の方に一話、近日中にお届けいたします。よろしかったらお付き合いください。 ※R5.8/6ばんがいへん終了いたしました。長い間お付き合いくださり、また、たくさんのお気に入り登録、しおり、エールを、本当にありがとうございました。 ※R5.9/3お気に入り登録200になっていました。本当にありがとうございます(泣)。嬉しかったので、一話書いてみました。 ※R5.10/30らがまふぃん活動一周年記念として、一話お届けいたします。 ※R6.1/27美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛(前作) と、こちらの作品の間のお話し 美しく冷酷な公爵令息様の、狂おしい熱情に彩られた愛 始めました。お時間の都合のつく方は、是非ご一読くださると嬉しいです。
*らがまふぃん活動二周年記念として、R6.11/4に一話お届けいたします。少しでも楽しんでいただけますように。
夫の不倫劇・危ぶまれる正妻の地位
岡暁舟
恋愛
とある公爵家の嫡男チャールズと正妻アンナの物語。チャールズの愛を受けながらも、夜の営みが段々減っていくアンナは悶々としていた。そんなアンナの前に名も知らぬ女が現れて…?
愛のゆくえ【完結】
春の小径
恋愛
私、あなたが好きでした
ですが、告白した私にあなたは言いました
「妹にしか思えない」
私は幼馴染みと婚約しました
それなのに、あなたはなぜ今になって私にプロポーズするのですか?
☆12時30分より1時間更新
(6月1日0時30分 完結)
こう言う話はサクッと完結してから読みたいですよね?
……違う?
とりあえず13日後ではなく13時間で完結させてみました。
他社でも公開
この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。
鶯埜 餡
恋愛
ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。
しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが
【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。
五月ふう
恋愛
リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。
「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」
今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。
「そう……。」
マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。
明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。
リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。
「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」
ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。
「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」
「ちっ……」
ポールは顔をしかめて舌打ちをした。
「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」
ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。
だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。
二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。
「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」
王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!
gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ?
王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。
国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから!
12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。
【完結】消された第二王女は隣国の王妃に熱望される
風子
恋愛
ブルボマーナ国の第二王女アリアンは絶世の美女だった。
しかし側妃の娘だと嫌われて、正妃とその娘の第一王女から虐げられていた。
そんな時、隣国から王太子がやって来た。
王太子ヴィルドルフは、アリアンの美しさに一目惚れをしてしまう。
すぐに婚約を結び、結婚の準備を進める為に帰国したヴィルドルフに、突然の婚約解消の連絡が入る。
アリアンが王宮を追放され、修道院に送られたと知らされた。
そして、新しい婚約者に第一王女のローズが決まったと聞かされるのである。
アリアンを諦めきれないヴィルドルフは、お忍びでアリアンを探しにブルボマーナに乗り込んだ。
そしてある夜、2人は運命の再会を果たすのである。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる