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127.消えた小さな花 3
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「どう言う事です?」
国王の言葉は耳に入って来ている。が、その内容に理解が追いつかない。
「メリアン嬢の姿が後宮のどこにも見当たらない。警備も結界も万全であったのにも拘らずだ。誰かの侵入でも外からの干渉も見られなかった…」
淡々とリリーはノルーにそう補足した。後宮にいた者達はいつもの様に過ごし、メリアン嬢が入眠するのを確認した後寝室から退出している。変わった所は一切なく後宮に来た者達といったら昼間に来訪したメリアンの家族とリリーのみである。そして興味本位で後宮から一人だけ抜け出す様な事は不可能に近いのだ。
「では、誰かが手引きしたと?」
「手っ取り早く考えればそうだな?」
「その容疑としてリリーが疑われているのですか!?」
全くもって不服である。メリアン嬢はリリーの番とも言える者の妹御だ。それであるのに拐かす意味がわからないでは無いか。
「私の部屋は捜索済みだろう。白の邸宅にも入室許可を出した。城内にいる対魔法騎士団団員達はその場で全員待機、城内であっても行動を制限させている。」
ノルーに比べるとリリーは冷静そのものである。Ωを護る騎士団の総司令であるリリーであるからΩを隠す事など他愛無いものとでも思われても致し方ないものとして王側から言われたことは全て飲むらしい。
「陛下!!リーシュレイト様ではありません!」
メリアン嬢との謁見後騎士団の訓練所と執務室にしか居なかったのだ。身柄を抑えられたのが寝室なのならばノルーが離れた後はゆっくりと休んでいたに違いないのに。
「それを決めるのは其方では無い。」
いつもの国王陛下の声が今日ばかりは冷たく響く。
「殿下…王太子殿下は!?」
メリアン嬢の唯一の番である王太子もリリーを疑っているのか?
「そこに居る。」
王太子は確かに国王の側にいた。しかしその姿は見る影もない程に様変わりしていた。顔色は悪く、瞳には生気がない…たった数時間前にリリー達が会っていた王太子とは思えないほどのやつれぶりで、頭を抱える様にしてグッタリと椅子に腰掛けていた。
「リーシュレイト様に…どうして疑いが……」
本気でリリーを疑っているのではないのだろう。それならば直ぐにでも貴族牢に収監されるはずだ。
「其方が知っている事をもう一度申せ…」
目を瞑り、何かを考えながらゼス国王はリリーに命じる。
「先ほども申し上げましたが、私が王太子殿下の番殿、メリアン嬢に面会した際に怪しげな音を聞きましてございます。」
「音とは?」
「鈴の音の様な、小さな物がかちあう様な音です。」
王の問いにリリーは答える。
「お前はそれを私にも聞いたな?」
「はい。王太子殿下にもお伝えしましたが、あの時は私の思い違いかと……」
「その音が何か関係があるのか?」
「はっきり因果があるとは申せません。が、あの時に感じた異変はそれだけでございました。」
淡々と受け答えするリリーの表情はいつもの物と変わらない。そんなリリーの表情を見て、ノルーも少し落ち着いて来た。
「うむ………何か意見がある者はいるか?」
「……陛下、恐れながら…」
「申してみよ。」
一歩前に進み出で国王と王太子に礼をとったのは頑なにランクース王国の第4王子とリリーの婚約を推し進めようとしたムーブラン侯爵であった。
「は…此度の番殿の前兆はそもそもリーシュレイト様のみが気付かれたとか。」
「左様だ。」
「そこからして、おかしな事ではありませんか?」
「貴殿は何が言いたいのだ?」
「ここは恐れ多くもゼス国王城にございますぞ?国王陛下と王太子殿下の護られている所です。その様な所に外からの侵入者など入りようがないのです。ならばご本人の意思か、内部の者の所業にございましょう。しかし、噂によりますと、王太子殿下と番殿は良い関係を作られているとか、そして先ほどは番殿の願いであられたご家族との再会をしておられるではありませんか。ならば自分から出ていこうなどとは思いますまい。」
「両親に会ったからこそ里心が出たやも知れぬぞ?」
「陛下…そうであってもです。番殿の魔力は陛下、王太子殿下に遠く及ばないものと理解しております。その様な方がここを一人ででれるはずがありませぬ。」
実際いなくなったのはメリアン一人だけだ。直近の侍女達は全て後宮にいたのである。居なくなったのはたった一人、メリアンだけであったのだ。
「それで?」
「不思議な音を聞いたのはリーシュレイト様のみならばそう言う事なのでございましょう。」
「それは王太子にも異変はないか確かめておるのだぞ?」
「その方が都合が宜しかったのでは?」
呆れて物が言えないとはこの事ではないのか?ついこの間までリリーの婚約相手ができて喜ばしいと仕切りに言っていたのに
、今では拐かしの犯人はまるでリリーだとでもいいたそうな口振りだ。
「良く、口が回るな…?」
ムーブラン侯爵の発言にざわめき出した謁見室に暗く沈んだ声が響く。
国王の言葉は耳に入って来ている。が、その内容に理解が追いつかない。
「メリアン嬢の姿が後宮のどこにも見当たらない。警備も結界も万全であったのにも拘らずだ。誰かの侵入でも外からの干渉も見られなかった…」
淡々とリリーはノルーにそう補足した。後宮にいた者達はいつもの様に過ごし、メリアン嬢が入眠するのを確認した後寝室から退出している。変わった所は一切なく後宮に来た者達といったら昼間に来訪したメリアンの家族とリリーのみである。そして興味本位で後宮から一人だけ抜け出す様な事は不可能に近いのだ。
「では、誰かが手引きしたと?」
「手っ取り早く考えればそうだな?」
「その容疑としてリリーが疑われているのですか!?」
全くもって不服である。メリアン嬢はリリーの番とも言える者の妹御だ。それであるのに拐かす意味がわからないでは無いか。
「私の部屋は捜索済みだろう。白の邸宅にも入室許可を出した。城内にいる対魔法騎士団団員達はその場で全員待機、城内であっても行動を制限させている。」
ノルーに比べるとリリーは冷静そのものである。Ωを護る騎士団の総司令であるリリーであるからΩを隠す事など他愛無いものとでも思われても致し方ないものとして王側から言われたことは全て飲むらしい。
「陛下!!リーシュレイト様ではありません!」
メリアン嬢との謁見後騎士団の訓練所と執務室にしか居なかったのだ。身柄を抑えられたのが寝室なのならばノルーが離れた後はゆっくりと休んでいたに違いないのに。
「それを決めるのは其方では無い。」
いつもの国王陛下の声が今日ばかりは冷たく響く。
「殿下…王太子殿下は!?」
メリアン嬢の唯一の番である王太子もリリーを疑っているのか?
「そこに居る。」
王太子は確かに国王の側にいた。しかしその姿は見る影もない程に様変わりしていた。顔色は悪く、瞳には生気がない…たった数時間前にリリー達が会っていた王太子とは思えないほどのやつれぶりで、頭を抱える様にしてグッタリと椅子に腰掛けていた。
「リーシュレイト様に…どうして疑いが……」
本気でリリーを疑っているのではないのだろう。それならば直ぐにでも貴族牢に収監されるはずだ。
「其方が知っている事をもう一度申せ…」
目を瞑り、何かを考えながらゼス国王はリリーに命じる。
「先ほども申し上げましたが、私が王太子殿下の番殿、メリアン嬢に面会した際に怪しげな音を聞きましてございます。」
「音とは?」
「鈴の音の様な、小さな物がかちあう様な音です。」
王の問いにリリーは答える。
「お前はそれを私にも聞いたな?」
「はい。王太子殿下にもお伝えしましたが、あの時は私の思い違いかと……」
「その音が何か関係があるのか?」
「はっきり因果があるとは申せません。が、あの時に感じた異変はそれだけでございました。」
淡々と受け答えするリリーの表情はいつもの物と変わらない。そんなリリーの表情を見て、ノルーも少し落ち着いて来た。
「うむ………何か意見がある者はいるか?」
「……陛下、恐れながら…」
「申してみよ。」
一歩前に進み出で国王と王太子に礼をとったのは頑なにランクース王国の第4王子とリリーの婚約を推し進めようとしたムーブラン侯爵であった。
「は…此度の番殿の前兆はそもそもリーシュレイト様のみが気付かれたとか。」
「左様だ。」
「そこからして、おかしな事ではありませんか?」
「貴殿は何が言いたいのだ?」
「ここは恐れ多くもゼス国王城にございますぞ?国王陛下と王太子殿下の護られている所です。その様な所に外からの侵入者など入りようがないのです。ならばご本人の意思か、内部の者の所業にございましょう。しかし、噂によりますと、王太子殿下と番殿は良い関係を作られているとか、そして先ほどは番殿の願いであられたご家族との再会をしておられるではありませんか。ならば自分から出ていこうなどとは思いますまい。」
「両親に会ったからこそ里心が出たやも知れぬぞ?」
「陛下…そうであってもです。番殿の魔力は陛下、王太子殿下に遠く及ばないものと理解しております。その様な方がここを一人ででれるはずがありませぬ。」
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「それで?」
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「それは王太子にも異変はないか確かめておるのだぞ?」
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呆れて物が言えないとはこの事ではないのか?ついこの間までリリーの婚約相手ができて喜ばしいと仕切りに言っていたのに
、今では拐かしの犯人はまるでリリーだとでもいいたそうな口振りだ。
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