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89.国境の村 3
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「どこも似た様なものでしたね?」
ランクース国に入ってから1日かけて幾つかの村を周り切ったがどこの村も対して変わらない反応だった。Ωがいなくなっても誰も気にしない。それどころか厄介払いができたと嬉しそうに話す者までいる始末。
「先輩、顔酷い事になってますよ?」
今回もう一度ランクース国境付近の村の調査に参加しているのは騎士団でも7年目になるベテランのザイリス率いる3名だ。
対魔法第2騎士団から応援に来ているシジュール含む第1騎士団の潜伏班は既に中央の村々に向かっているものと思われる。
「ああ、悪い…」
過去の記憶が鮮明に思い出されてはその度にギュッと眉を顰めていたザイリスの顔は極めて険しく猛々しく見えている事だろう。
「さ、早いとこ情報を本部に伝えるぞ?」
もうここでは新しい収穫はなさそうだ。消えてしまったΩ達…まだ見ぬ彼らの中にも騎士団のαの番となる者もいるのだろう。願わくば全員五体満足で救出される事を心から願う……
国境に近い林の中に1人フードを被った怪しい人物がウロウロとその先を窺っていた。ここは元々旅人が来る様な舗装された道ではない。そしてその者の姿はどうしても訳あって秘密裏に国境を越えようとする者が機会を窺っている様にさえ見えた。
「なーあれ何やってると思う?」
いかにも怪しい人物をこれまたいかにも怪しい人物が木の上から見つめていた。
フードを被っている旅人と思われる者は明らかに旅には慣れていないだろう。少ない手荷物も良く整えられた物の様には見えないし明らかに挙動不審…その道の玄人が見たら一発で良いカモにされてしまいかねない。
「……………」
「まだダンマリか?ま、良いけどな~でも良いのか?あれはゼス国の国民だろう?このまま国境を超える様な事になれば不法入国になるぞ?」
それもそのいく先は件のランクースだ。正規のルートで国境を越えようとすれば今は何故か王宮の騎士団が国境付近に常駐しているところを通らなければならない。そこを避けてこんな森の奥まで入ってくるという事はそれだけの理由があるのだろう。
木の上にいる人物が既に怪しい者以外の何者でもないのだが…ここを選んだこの人物もまた正規の手続きをして国境を越えるつもりはなさそうである。そして慣れていない風のその人物をどうしても放っておけない性分らしい。
「さてさて、どんなかわい子ちゃんなのかな?」
鼻歌を歌いつつガザっとわざと音を立てて木から降りた。身体に覚えのある者ならばそれだけで警戒体制に入るはずだ。が、怪しい人物は音のする方を少し観察しただけで対して身を隠すこともせずにさらに奥へと進んでいった。
「あらら…警戒心ゼロ…?不用心すぎないかね、あれは……」
手に持っている物はきっと地図か何かだろう。時折確かめながら進んでいる。
「この先に行けば中央に続く街道に出る。」
上手く国境を超えたそのフードを被った人物は何とまあ上手く道を抜けた物である。その後をついて行く木から降りた男とその男を尾行する者が獣やらを裏で狩っていたからに他ならないのだが。
「どういうつもりかね?そろそろ突き止めようか?」
木から降りた男は更に自分の上の木の枝を見る。そこには誰もいない様にしか見えないのだが確かにしっかりと誰かを見つめていた。
しばらく尾行してわかった事はどうやらフードの人物はΩらしいという事だ。匂いは強くないし、きっと番のいるΩだ。αの元から離れるなんてΩにしてみれば信じられない様な行動だがどうにも嗅いだ事がある香りがするのだ。
「おじょ~さん?」
ビックゥッ!!
本当にビックリしたのだろう。声をかけた瞬間両肩が跳ね上がったから。
「や、悪い悪い!そんなにビックリするとは思わなくてな?こんな所に一人で歩いているから気になってしかたなくて。で?どこまで行くんだ?」
ヒョイッとどうやらゼス国から不法侵入をしたΩであろう人物を覗き込む。
「あ……ぁ…!申し訳ございません!」
覗き込んだ瞬間大きな翠の瞳が飛び込んできた。
「ありゃ、男のΩか?」
「そ、そうでございます!」
そのΩはその場にガバッと跪く。
「何で国境なんて超えたのさ?あんたみたいな弱いΩは一人じゃ危ないだろう?番は?」
これも違う………
「いえ、ここには居りません!」
「見たらわかるよ。ゼス国に置いてきたのか?」
「いえ…それが………」
「あ?まさか、番から逃げてきたのか?」
ゼス国はΩに優しい国と聞く。貴族家ではΩであっても正妻にもなれるし手厚く保護してもらえるそうな。そんな国の番ならばきっとΩでも大事にしてもらえるだろうに……他国のΩならばいざ知らず…
「まさか、不義密通?」
番がいても本当に好きなのは違うとか?
「まさか!そんな裏切り出来るはずもありません!!」
おどおど、ビクビクしていたΩはこちらが驚くほど大きな声で全否定してきた。
「分かった分かった…!変なこと聞いて悪かった。けど、なんかこの国に用があるんだろう?見た所一人で来ている様だし…あんたの番は知ってるのか?」
「…………いいえ………」
「おいおいおい…バレたらまずいだろうが…?」
番は自分の半身で自分の命…もしこの場でこのΩに何かあったりしたらこの者の番は発狂してしまうに違いない。
「……………」
さっきの威勢はどうしたものか…目の前のΩは一気にシュンと肩を落としてしまった…
ランクース国に入ってから1日かけて幾つかの村を周り切ったがどこの村も対して変わらない反応だった。Ωがいなくなっても誰も気にしない。それどころか厄介払いができたと嬉しそうに話す者までいる始末。
「先輩、顔酷い事になってますよ?」
今回もう一度ランクース国境付近の村の調査に参加しているのは騎士団でも7年目になるベテランのザイリス率いる3名だ。
対魔法第2騎士団から応援に来ているシジュール含む第1騎士団の潜伏班は既に中央の村々に向かっているものと思われる。
「ああ、悪い…」
過去の記憶が鮮明に思い出されてはその度にギュッと眉を顰めていたザイリスの顔は極めて険しく猛々しく見えている事だろう。
「さ、早いとこ情報を本部に伝えるぞ?」
もうここでは新しい収穫はなさそうだ。消えてしまったΩ達…まだ見ぬ彼らの中にも騎士団のαの番となる者もいるのだろう。願わくば全員五体満足で救出される事を心から願う……
国境に近い林の中に1人フードを被った怪しい人物がウロウロとその先を窺っていた。ここは元々旅人が来る様な舗装された道ではない。そしてその者の姿はどうしても訳あって秘密裏に国境を越えようとする者が機会を窺っている様にさえ見えた。
「なーあれ何やってると思う?」
いかにも怪しい人物をこれまたいかにも怪しい人物が木の上から見つめていた。
フードを被っている旅人と思われる者は明らかに旅には慣れていないだろう。少ない手荷物も良く整えられた物の様には見えないし明らかに挙動不審…その道の玄人が見たら一発で良いカモにされてしまいかねない。
「……………」
「まだダンマリか?ま、良いけどな~でも良いのか?あれはゼス国の国民だろう?このまま国境を超える様な事になれば不法入国になるぞ?」
それもそのいく先は件のランクースだ。正規のルートで国境を越えようとすれば今は何故か王宮の騎士団が国境付近に常駐しているところを通らなければならない。そこを避けてこんな森の奥まで入ってくるという事はそれだけの理由があるのだろう。
木の上にいる人物が既に怪しい者以外の何者でもないのだが…ここを選んだこの人物もまた正規の手続きをして国境を越えるつもりはなさそうである。そして慣れていない風のその人物をどうしても放っておけない性分らしい。
「さてさて、どんなかわい子ちゃんなのかな?」
鼻歌を歌いつつガザっとわざと音を立てて木から降りた。身体に覚えのある者ならばそれだけで警戒体制に入るはずだ。が、怪しい人物は音のする方を少し観察しただけで対して身を隠すこともせずにさらに奥へと進んでいった。
「あらら…警戒心ゼロ…?不用心すぎないかね、あれは……」
手に持っている物はきっと地図か何かだろう。時折確かめながら進んでいる。
「この先に行けば中央に続く街道に出る。」
上手く国境を超えたそのフードを被った人物は何とまあ上手く道を抜けた物である。その後をついて行く木から降りた男とその男を尾行する者が獣やらを裏で狩っていたからに他ならないのだが。
「どういうつもりかね?そろそろ突き止めようか?」
木から降りた男は更に自分の上の木の枝を見る。そこには誰もいない様にしか見えないのだが確かにしっかりと誰かを見つめていた。
しばらく尾行してわかった事はどうやらフードの人物はΩらしいという事だ。匂いは強くないし、きっと番のいるΩだ。αの元から離れるなんてΩにしてみれば信じられない様な行動だがどうにも嗅いだ事がある香りがするのだ。
「おじょ~さん?」
ビックゥッ!!
本当にビックリしたのだろう。声をかけた瞬間両肩が跳ね上がったから。
「や、悪い悪い!そんなにビックリするとは思わなくてな?こんな所に一人で歩いているから気になってしかたなくて。で?どこまで行くんだ?」
ヒョイッとどうやらゼス国から不法侵入をしたΩであろう人物を覗き込む。
「あ……ぁ…!申し訳ございません!」
覗き込んだ瞬間大きな翠の瞳が飛び込んできた。
「ありゃ、男のΩか?」
「そ、そうでございます!」
そのΩはその場にガバッと跪く。
「何で国境なんて超えたのさ?あんたみたいな弱いΩは一人じゃ危ないだろう?番は?」
これも違う………
「いえ、ここには居りません!」
「見たらわかるよ。ゼス国に置いてきたのか?」
「いえ…それが………」
「あ?まさか、番から逃げてきたのか?」
ゼス国はΩに優しい国と聞く。貴族家ではΩであっても正妻にもなれるし手厚く保護してもらえるそうな。そんな国の番ならばきっとΩでも大事にしてもらえるだろうに……他国のΩならばいざ知らず…
「まさか、不義密通?」
番がいても本当に好きなのは違うとか?
「まさか!そんな裏切り出来るはずもありません!!」
おどおど、ビクビクしていたΩはこちらが驚くほど大きな声で全否定してきた。
「分かった分かった…!変なこと聞いて悪かった。けど、なんかこの国に用があるんだろう?見た所一人で来ている様だし…あんたの番は知ってるのか?」
「…………いいえ………」
「おいおいおい…バレたらまずいだろうが…?」
番は自分の半身で自分の命…もしこの場でこのΩに何かあったりしたらこの者の番は発狂してしまうに違いない。
「……………」
さっきの威勢はどうしたものか…目の前のΩは一気にシュンと肩を落としてしまった…
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