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64.城の証人 4
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「仰せのままに。」
背後に回ってきた時と同じ様にヤリスは音も立てずにミルカから短剣を離す。
「こっえーな…」
対して怖がってもいない様なミルカの声。
「リリー、縛りますか?」
戦意は全くないだろうと思われるミルカに対してヤリスは殺意を収めるどころか隠す必要が無くなった分ミルカの一挙手一投足に敵意を丸出しにしてくる。幼く見えたイルンに対してのラークの館のやりようがヤリスにとっても随分と胸糞が悪いものだったから…
「ヤリス、縛らなくて良い…ミルカ…」
「……なんだ…」
「それ以上言いたくないのならばそれで良いが、捉えられている者達は無事だと言えるのか?」
「……ふ…さてね…なんてったってランクースだぞ?一般人だって平気でΩを嬲りやがる…」
「知っている。だから我らがいるんだ。」
「………ちっ…幸せかどうか聞かれたら補償はねぇがな?ま、生きる事はできるんじゃねえの?」
ガッ………!!
「ってぇ………!!」
背後にいたヤリスがミルカの腕を捻り上げた。
「犯罪者が…リリーになんて口の聞き方をする?リリーの恩情で生かされている様な虫ケラのくせに…!」
容赦なくギリギリとミルカの腕を締め上げるヤリスだがリリーもノルーもあえてこれを止めはしない。
「ではもう一つ聞く。メリアン・テグリスと言う者の行方を知らないか?」
「はぁ…?ここで聞くってぇとΩか…?と、いってぇな!……もし、そのΩに会った事があってもいちいち本物の身元なんて確かめねぇよ。」
なるほど確かにそうだ。Ωの人身売買する者達にとっては出身云々よりも本物のΩかどうかで価値が決まるのだから。
「赤目に濃い金髪だそうだ…」
「だから知らねぇって!もし会ってたら買い取るだろうし、Ωを輸送してた小隊の中には赤目は居なかった!」
「小隊?商人では無くて?」
「ちっ!……時々あるんだよ…どこの国でも軍やらなんやら…お偉方が噛んでる商品の横流しがさ。」
罰の悪そうなミルカはきっと嘘はついていない。
「なるほど…けどお前はイルンしか買わなかった?」
「だから、正規の手続きじゃ無いんだ!Ωの値なんてあっちの良い様に釣り上げられるに決まってるだろ?こっちの手持ちじゃ1人しか買えなかったのよ!」
それも貧相な身体つきをした不健康そうなΩ1人だ。それでもΩならばとミルカはイルンを買った……
「何人いた?」
「さぁね?全て見せてもらったわけじゃねぇ…が、少なくとも1人じゃない。」
「軍の護送車か…ランクースのだな?」
「………だろうさ…王子の身辺探れば分かるだろ……」
「…簡単に言ってくれる。」
王子の身辺、もしΩを囲っているとしたらランクース王城内部の最も警備の行き届く後宮か…
「ランクースに後宮はあったか?」
「はい。Ωの妃専用では無かったとは記憶しておりますが…」
ランクースではΩは差別の対象だからその妃を守る為に専用の後宮は無いのかも知れない。が、αやβの妃の為にはゼス国と同様に王や王子達は後宮を構えているという。
「どこに行っても攻撃の対象になりそうなものを…王族とは勝手な者だ…」
本当の番に会えたのならばまだしも、Ωの妃を自分の番として認めなければきっと守る事なんて出来ない環境だろうに…大勢のΩを集めて何をしようとしているのやらといくら考えたとしてもため息しか出てこない。
「それが王族なんだろ?どんな理不尽にだってこっちは文句も言えねぇ…」
「貴方の場合は少し事情が違いますでしょう?セロント殿…」
「そうかもな……なぁ、いい加減に離す様に言ってくんねぇ?」
今の今までヤリスはミルカの腕を捻り上げているのだ。
「お前が態度を改めるならば直ぐにでも離してやる。」
「マジかよ……」
「………」
「リリー?」
目の前のミルカの訴えを無視してリリーは考え込んでいる。流石に他国の後宮に至る問題ならばこちらとしても手は出せない。ヤリスを潜入させるにしても余りにも隙のないヤリスでは却って怪しまれるしもし嫌疑を掛けられたら助け出す事が出来なくなる。しかしこのまま見捨てることも……
「…ミルカ、Ω達はいつ襲われている?」
その手口はわからなくともランクース小隊と関わった時に何か聞いているかも知れない。
「今更かよ…夜だよ。目星をつけたΩの所に真夜中攫いに行くのさ。だから周囲に目撃者なんてほぼ居ないはずだ。」
何故かイルンを買う時に、値段交渉しながらランクースの兵士らしき者が自慢げに手口を披露してくれたっけ…こっちは誘拐までするつもりは無い為に聞き流してたが。
「そうか……ヤリス、このまま第1騎士団にこれを伝えろ。ノルーは私と一緒に来い。」
「あ?何するつもりだ、お坊ちゃん?他国のことだぞ?いらんちょっかい出すなよ…」
ダンッ……!!!
「グゥ…………ッ」
今度こそ容赦なくヤリスがミルカを牢の冷たい床に叩きつける。
「良く聞くんだなミルカ。それを誰もやらなかったら、お前の番の様な存在を増やすだけなんだ。まさかまた見たいのか?違うだろう?頭を冷やせ…」
そのまま床に蹲ったまま起き上がらないミルカを残して牢への来訪者達の足音は遠く去って行く…
背後に回ってきた時と同じ様にヤリスは音も立てずにミルカから短剣を離す。
「こっえーな…」
対して怖がってもいない様なミルカの声。
「リリー、縛りますか?」
戦意は全くないだろうと思われるミルカに対してヤリスは殺意を収めるどころか隠す必要が無くなった分ミルカの一挙手一投足に敵意を丸出しにしてくる。幼く見えたイルンに対してのラークの館のやりようがヤリスにとっても随分と胸糞が悪いものだったから…
「ヤリス、縛らなくて良い…ミルカ…」
「……なんだ…」
「それ以上言いたくないのならばそれで良いが、捉えられている者達は無事だと言えるのか?」
「……ふ…さてね…なんてったってランクースだぞ?一般人だって平気でΩを嬲りやがる…」
「知っている。だから我らがいるんだ。」
「………ちっ…幸せかどうか聞かれたら補償はねぇがな?ま、生きる事はできるんじゃねえの?」
ガッ………!!
「ってぇ………!!」
背後にいたヤリスがミルカの腕を捻り上げた。
「犯罪者が…リリーになんて口の聞き方をする?リリーの恩情で生かされている様な虫ケラのくせに…!」
容赦なくギリギリとミルカの腕を締め上げるヤリスだがリリーもノルーもあえてこれを止めはしない。
「ではもう一つ聞く。メリアン・テグリスと言う者の行方を知らないか?」
「はぁ…?ここで聞くってぇとΩか…?と、いってぇな!……もし、そのΩに会った事があってもいちいち本物の身元なんて確かめねぇよ。」
なるほど確かにそうだ。Ωの人身売買する者達にとっては出身云々よりも本物のΩかどうかで価値が決まるのだから。
「赤目に濃い金髪だそうだ…」
「だから知らねぇって!もし会ってたら買い取るだろうし、Ωを輸送してた小隊の中には赤目は居なかった!」
「小隊?商人では無くて?」
「ちっ!……時々あるんだよ…どこの国でも軍やらなんやら…お偉方が噛んでる商品の横流しがさ。」
罰の悪そうなミルカはきっと嘘はついていない。
「なるほど…けどお前はイルンしか買わなかった?」
「だから、正規の手続きじゃ無いんだ!Ωの値なんてあっちの良い様に釣り上げられるに決まってるだろ?こっちの手持ちじゃ1人しか買えなかったのよ!」
それも貧相な身体つきをした不健康そうなΩ1人だ。それでもΩならばとミルカはイルンを買った……
「何人いた?」
「さぁね?全て見せてもらったわけじゃねぇ…が、少なくとも1人じゃない。」
「軍の護送車か…ランクースのだな?」
「………だろうさ…王子の身辺探れば分かるだろ……」
「…簡単に言ってくれる。」
王子の身辺、もしΩを囲っているとしたらランクース王城内部の最も警備の行き届く後宮か…
「ランクースに後宮はあったか?」
「はい。Ωの妃専用では無かったとは記憶しておりますが…」
ランクースではΩは差別の対象だからその妃を守る為に専用の後宮は無いのかも知れない。が、αやβの妃の為にはゼス国と同様に王や王子達は後宮を構えているという。
「どこに行っても攻撃の対象になりそうなものを…王族とは勝手な者だ…」
本当の番に会えたのならばまだしも、Ωの妃を自分の番として認めなければきっと守る事なんて出来ない環境だろうに…大勢のΩを集めて何をしようとしているのやらといくら考えたとしてもため息しか出てこない。
「それが王族なんだろ?どんな理不尽にだってこっちは文句も言えねぇ…」
「貴方の場合は少し事情が違いますでしょう?セロント殿…」
「そうかもな……なぁ、いい加減に離す様に言ってくんねぇ?」
今の今までヤリスはミルカの腕を捻り上げているのだ。
「お前が態度を改めるならば直ぐにでも離してやる。」
「マジかよ……」
「………」
「リリー?」
目の前のミルカの訴えを無視してリリーは考え込んでいる。流石に他国の後宮に至る問題ならばこちらとしても手は出せない。ヤリスを潜入させるにしても余りにも隙のないヤリスでは却って怪しまれるしもし嫌疑を掛けられたら助け出す事が出来なくなる。しかしこのまま見捨てることも……
「…ミルカ、Ω達はいつ襲われている?」
その手口はわからなくともランクース小隊と関わった時に何か聞いているかも知れない。
「今更かよ…夜だよ。目星をつけたΩの所に真夜中攫いに行くのさ。だから周囲に目撃者なんてほぼ居ないはずだ。」
何故かイルンを買う時に、値段交渉しながらランクースの兵士らしき者が自慢げに手口を披露してくれたっけ…こっちは誘拐までするつもりは無い為に聞き流してたが。
「そうか……ヤリス、このまま第1騎士団にこれを伝えろ。ノルーは私と一緒に来い。」
「あ?何するつもりだ、お坊ちゃん?他国のことだぞ?いらんちょっかい出すなよ…」
ダンッ……!!!
「グゥ…………ッ」
今度こそ容赦なくヤリスがミルカを牢の冷たい床に叩きつける。
「良く聞くんだなミルカ。それを誰もやらなかったら、お前の番の様な存在を増やすだけなんだ。まさかまた見たいのか?違うだろう?頭を冷やせ…」
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