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20.潜入捜査1 *

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「ノルーが心配していましたよ?」

 やっと落ち着こうかという息を掠め取る様に口付けていた温かな唇が離れていく。

「あれは心配症だから。気にするな…」

 離れて行こうとする者を両手を絡めて捕まえて、また引き戻す。

「まだ足りませんか?」

「ん…もう一度……」

「珍しいですね?リリー?」

 その疑問に答える声はなかった。引き戻した腕に力を込めて自分からキスをねだる。熱いキスに疼く身体がちっともその火照りを鎮めてはくれないから…

「ん……なか…な、かが…い、い…」

「リリー、それは駄目ですよ…足りないならいくらでもしてあげましょう。」

 長い指が濡れている後ろに回る。

「あ…っ…や…ぁ」

 何の抵抗も無く指は中へと滑り込んだ。

「どうしたんです?今日はやけに甘えますね?」

「な、か……ほし……」

 紫金色の涙に濡れた瞳は宝石の様な輝きを放って切なそうに見上げてくる。

「リリーでは番にはなれないんですよ…だから中はいけません。」

 そう言われても疼いて治らないものは仕方がないのだ。そして発情期が来る前にこうして定期的に鎮めてもらわなければリリーは地獄の様な熱に身を焼かれる事になる…

「あぅ…ぁっ…んぁっあ!」

 長い指と熱い舌で何度も触れて慰めてもらって、やっと熱が引いて来た。

「大丈夫ですか?」

 既にガウンを着て一息ついていたグレイル・バンシルーが長い灰色の髪をかき上げながら息を整えながら枕に沈むリリーを覗き込む。

「……報告……」

 熱が冷めてしまえば沸騰しそうだった頭も落ち着いてくるのだ。思考回路も通常に戻ってくる。

「えぇ、致しますよ。でもまずリリー飲み物をどうぞ?」

 グレイルの手には冷やされていたのだろう水滴がついたガラスのコップがあった。

「あぁ………」

 この時間はいつもながら虚しい……身体の熱が下がる様に気分も落ちるのだから。ゆっくりと起き上がれば薄暗い中にリリーの白い肌が浮き上がって見えてくるような気さえする。

 パチンッ…と指を鳴らせば部屋中の魔法灯がつく。リリーはグレイルからコップを受け取り一気に飲み干した。その間にグレイルはリリーのガウンを取り肩にかけてくれる。グレイルは常に冷静沈着な性格とその見た目から一見冷たい印象がある。しかし自分の番やこうして心を開いた相手には細やかな優しさを示す男でもある。

「北に居るシジェールから上がって来ています。店に立つかもしれないと。」

「そうか。思っていたよりも遅いくらいだな。」

「えぇ。ほぼ予定通りでもありますけどね。」

 いつの間にかグレイルの手に報告書なる書類を広げ持っていた。リリーはそれを受け取りざっと目を通す。シジェールというのは隠密行動が得意なグレイル配下の騎士だ。現在北方にある領にリリー直属の補佐官であるヤリス・エリンタ共に花街に潜入調査中である。ヤリスはβでありながらも非常に見目麗しく一見Ωにも見間違われやすい外見をしているまだ16才の少年だ。その才能を活かし今回Ωが違法に囲われていると思われる娼館にその外見を利用して潜入しているわけだった。

「ヤリスは?」

「勿論無事ですよ。ま、あの子の事なんで無理矢理にでも閨に引き込もうとされたら問答無用で返り討ちにでもするでしょうけどね。」

 ふふ…グレイルから乾いた笑いが漏れる。ヤリスはハガイ・エリンタの一人息子でハガイからは非常に可愛がられて育てられた。βでありながらも騎士団の一戦で活躍していたハガイの事、息子にもしっかりとその技術を叩き込んでいたわけでヤリスは歳若くても暗器の使い手だ。ごろつき共ぐらいの腕前では全く歯がただないだろう。

「ふ…だろうね。で、Ωの子は見つかった?」

 報告書にはまだその疑いありとある。

「なかなか尻尾を掴めませんね?」

 Ωを使った不法な商売。どこぞで連れ去られたΩが届出も無く売り物にされる。Ωはその貴重性からも値が高くつきやすい。またどうしてもΩの伴侶を得たいと値を吊り上げて買い取ろうとするαもいて人身売買をする者達からしたら絶好の売り物となるのだ。今回の潜入捜査では花街に違法に隠されているΩを探し出す事だった。定期的な報告書からはどうやら表には出していないことがわかる。しかし今更ながらに性を偽りΩを売りにして花を売らせる店の多い事は事実で、時に多額の金が動いている事もつかんでいる。中々に本物のΩと出会う事もできないでいるのは巧妙に彼らが隠されているという事なのだろう。

「ヤリスは店に出されますかね?」

「そうなったらシジェールに金を積ませて暫く買ってもらっておけ。なに、シジェールとてαだ。どこぞの商家のボンボンとでも言えば怪しまれないだろ?」

「承知しました。」

「でもそんな事になったらハガイがうるさい。ハガイが出る前にこちらが出るぞ?奴なら店に乗り込んで破壊し尽くさないとも言い切れないから……」

 そんな事になれば面倒臭い事この上ない。花町の娼館を潰したとあっては裏にいる者達も黙ってはいないだろう。彼らとの全面抗争を望んでいるわけでは無いので避けられる争いは避けた方が吉である。

「あ、それは面倒です。」

 ハガイの親バカっぷりは上層部ではかなり有名なのだが今は大人しくしていて欲しいものであった。





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