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5.Ωの誘惑2
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なんだ、さっきのフェロモンは……?
一気に辺りに広まった物の匂いからΩのフェロモンと言うのはわかった。嗅いだ瞬間にある程度防いだつもりでもあったのに、一向に身体から熱が引いていかない。
「大丈夫かい、君?」
先程聞いた声だ。
「……………」
「あぁ…そりゃ当てられるよなぁ…薬を持ってこさせよう。」
可哀想に、とエメラルドの眼差しがそう語っている。
「さっきのは…?」
誰だ?
「ん?意識があるのかい?」
「当たり前だろう?さっきのは一体何だ!?」
「驚いたな……」
「団長!抑制剤をお持ちしました。」
「ああ、済まない。が、どうやら必要無さそうだ。」
「え?でも彼もαでしょう?」
「そのはずだが、どうやら適性がありそうだね?」
「へぇ?珍しいですね、こんな所で拾うなんて…」
「だから!何がどうなってるんだ!」
必死に煽られた身体を沈めようとしている横で呑気に騎士同士のお喋りなんかごめん被る。用がないなら一人にさせてくれ!
「あぁ、悪い。君が余りにも余裕そうだからこっちも驚いているんだよ?自己紹介がまだだった。私はゼス国国王直下対魔法騎士団第3騎士団団長のヨルマー・ノベンという。こっちにいるのは副官のレビーだ。勿論αだね。で、君薬は要るかい?」
レビーは薄い茶髪に金の瞳をしていてヨルマーよりもまだ若そうな男に見える。その手に一本の小瓶を持っていた。青年がΩフェロモンに当てられて本能のままに行動しそうになるのを防ぐために持って来てくれたのだ。しかし本来の青年ならば抑制剤は要らない。幼い頃からΩの側で育って来ていた青年はフェロモンに対する耐性があるからだった。
「いら、ない……」
だからしばらく休んだら落ち着くはずなのだ。
「そうかい…まぁ、君が要らないなら良いんだが。で、君の名前は?どうしてこんな辺鄙な所で彼らと鉢合わせしたのかな?」
「人を…探してる…Ωの女の子で……」
「…身内か?」
「…妹だ。」
「そうか…君も何処かで奴らの情報を仕入れていた口なんだろう?我らも主にそれが仕事でね?君からも事情を聴取したいのだが?」
「あぁ…アーキン・テグリスだ。」
「よし、アーキン自分で立てるか?」
「何とかね……」
実際はしんどかった。母も妹もΩだった為フェロモンの匂いには慣れているし、今まで一度もΩの発情に巻き込まれたことが無いと自負もしていたのに…
今回はやばかった………
「Ωを探しているのならゼス国王都に来い。Ωの保護施設がある。お前の探し人もいるかもしれんぞ?」
騎士達の後ろからかかった柔らかい声の主はフードを頭からすっぽりと被った小柄な人物だった。やっと落ち着いて来た身体の熱が先程とは違う熱さで再燃して行く。
「甘い……?」
ただ身の内を焼く様な激しい情動ではなくてじわじわと満たして行く、喜び上がるような感覚にポツリとそう口から溢れた。
「何がだ?奴らに対する報復がか?奴らはこれから尋問される。何しろ貴重なΩ狩りをして来た者達だ。お前が甘いなんて言っていられない様な未来が待ってるだろうさ?で、お前は来るの?来るならば即、うちで拾ってやる。」
「リリー!他の団長はまだ認めておられませんよ!?」
「何で?人事権は私にある。ジーンもグレイルも文句なんて言わないだろうし、貴重な発掘人材だぞ?手放せるか?」
「いえ…そう言われてしまうと無理がありますね……」
「そういう事だ。興味があるなら来なさい、少年。」
それだけ言うとくるりと踵を返してさっさとその場から離れていってしまった。
「え~~と。アーキン君?君、騎士団に興味なんてあるかな?あの人言い出したら聞かないし、少なくとも君にはその適性があるんだ。」
副官レビーは未だに立てないでいるアーキンの側に膝を着いて話を続ける。
アーキンは対魔法騎士団入団の適性を持っているためにぜひに騎士団へと勧誘したい事。Ωの探し人がいるのならば大国であるゼス国王都に行けば入ってくる情報も数多に昇るという事。また今回の様に保護した者のうちに探し人がいるかもしれない事。
「適性って………」
「一人でも勇敢にΩを守る為に奴らに立ち向かっていった事。後、君の魔力コントロールかな?それはすごいね。訓練も受けてないだろうにちゃんと遮断する方に動いていた。」
後半は何の事かさっぱりだった。が、Ωを守ろうとするのならば話はよく分かる。
「当たり前だろう?あんな小さな子供捕まえて何をしようってんだよ?止めるだろ?普通。」
止める手段と方法がわかっているのならば誰だって手を貸しただろうと思うのだが。
「それでもだ。アーキン。中にはそれさえも難しく、奴らの様な人の道を踏み外す奴も多いんだよ。で、どうする?」
騎士団長ヨルマーはアーキンに再度問う。
「行く………」
王都に行けばΩの保護施設があり情報も集まる。もしかしたら、そこにいるかもしれないと言う一縷の望みもあった。だが、それだけじゃ無い…これを感じたからには……
「アーキン!悪いがこの子と一緒に居てやってくれないか?」
呼ばれて目を挙げてみれば、馬車の荷台から顔を少しだけ出して目に一杯に涙を溜めた幼子がじっとアーキンを見つめていた。
一気に辺りに広まった物の匂いからΩのフェロモンと言うのはわかった。嗅いだ瞬間にある程度防いだつもりでもあったのに、一向に身体から熱が引いていかない。
「大丈夫かい、君?」
先程聞いた声だ。
「……………」
「あぁ…そりゃ当てられるよなぁ…薬を持ってこさせよう。」
可哀想に、とエメラルドの眼差しがそう語っている。
「さっきのは…?」
誰だ?
「ん?意識があるのかい?」
「当たり前だろう?さっきのは一体何だ!?」
「驚いたな……」
「団長!抑制剤をお持ちしました。」
「ああ、済まない。が、どうやら必要無さそうだ。」
「え?でも彼もαでしょう?」
「そのはずだが、どうやら適性がありそうだね?」
「へぇ?珍しいですね、こんな所で拾うなんて…」
「だから!何がどうなってるんだ!」
必死に煽られた身体を沈めようとしている横で呑気に騎士同士のお喋りなんかごめん被る。用がないなら一人にさせてくれ!
「あぁ、悪い。君が余りにも余裕そうだからこっちも驚いているんだよ?自己紹介がまだだった。私はゼス国国王直下対魔法騎士団第3騎士団団長のヨルマー・ノベンという。こっちにいるのは副官のレビーだ。勿論αだね。で、君薬は要るかい?」
レビーは薄い茶髪に金の瞳をしていてヨルマーよりもまだ若そうな男に見える。その手に一本の小瓶を持っていた。青年がΩフェロモンに当てられて本能のままに行動しそうになるのを防ぐために持って来てくれたのだ。しかし本来の青年ならば抑制剤は要らない。幼い頃からΩの側で育って来ていた青年はフェロモンに対する耐性があるからだった。
「いら、ない……」
だからしばらく休んだら落ち着くはずなのだ。
「そうかい…まぁ、君が要らないなら良いんだが。で、君の名前は?どうしてこんな辺鄙な所で彼らと鉢合わせしたのかな?」
「人を…探してる…Ωの女の子で……」
「…身内か?」
「…妹だ。」
「そうか…君も何処かで奴らの情報を仕入れていた口なんだろう?我らも主にそれが仕事でね?君からも事情を聴取したいのだが?」
「あぁ…アーキン・テグリスだ。」
「よし、アーキン自分で立てるか?」
「何とかね……」
実際はしんどかった。母も妹もΩだった為フェロモンの匂いには慣れているし、今まで一度もΩの発情に巻き込まれたことが無いと自負もしていたのに…
今回はやばかった………
「Ωを探しているのならゼス国王都に来い。Ωの保護施設がある。お前の探し人もいるかもしれんぞ?」
騎士達の後ろからかかった柔らかい声の主はフードを頭からすっぽりと被った小柄な人物だった。やっと落ち着いて来た身体の熱が先程とは違う熱さで再燃して行く。
「甘い……?」
ただ身の内を焼く様な激しい情動ではなくてじわじわと満たして行く、喜び上がるような感覚にポツリとそう口から溢れた。
「何がだ?奴らに対する報復がか?奴らはこれから尋問される。何しろ貴重なΩ狩りをして来た者達だ。お前が甘いなんて言っていられない様な未来が待ってるだろうさ?で、お前は来るの?来るならば即、うちで拾ってやる。」
「リリー!他の団長はまだ認めておられませんよ!?」
「何で?人事権は私にある。ジーンもグレイルも文句なんて言わないだろうし、貴重な発掘人材だぞ?手放せるか?」
「いえ…そう言われてしまうと無理がありますね……」
「そういう事だ。興味があるなら来なさい、少年。」
それだけ言うとくるりと踵を返してさっさとその場から離れていってしまった。
「え~~と。アーキン君?君、騎士団に興味なんてあるかな?あの人言い出したら聞かないし、少なくとも君にはその適性があるんだ。」
副官レビーは未だに立てないでいるアーキンの側に膝を着いて話を続ける。
アーキンは対魔法騎士団入団の適性を持っているためにぜひに騎士団へと勧誘したい事。Ωの探し人がいるのならば大国であるゼス国王都に行けば入ってくる情報も数多に昇るという事。また今回の様に保護した者のうちに探し人がいるかもしれない事。
「適性って………」
「一人でも勇敢にΩを守る為に奴らに立ち向かっていった事。後、君の魔力コントロールかな?それはすごいね。訓練も受けてないだろうにちゃんと遮断する方に動いていた。」
後半は何の事かさっぱりだった。が、Ωを守ろうとするのならば話はよく分かる。
「当たり前だろう?あんな小さな子供捕まえて何をしようってんだよ?止めるだろ?普通。」
止める手段と方法がわかっているのならば誰だって手を貸しただろうと思うのだが。
「それでもだ。アーキン。中にはそれさえも難しく、奴らの様な人の道を踏み外す奴も多いんだよ。で、どうする?」
騎士団長ヨルマーはアーキンに再度問う。
「行く………」
王都に行けばΩの保護施設があり情報も集まる。もしかしたら、そこにいるかもしれないと言う一縷の望みもあった。だが、それだけじゃ無い…これを感じたからには……
「アーキン!悪いがこの子と一緒に居てやってくれないか?」
呼ばれて目を挙げてみれば、馬車の荷台から顔を少しだけ出して目に一杯に涙を溜めた幼子がじっとアーキンを見つめていた。
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