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2.ゼス国国境2
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「同僚?」
背の高い赤い瞳をした青年。人攫いの一味から言われた言葉が非常に気に食わないらしい。一目見てわかるほど眉根を顰めて整った表情を歪めている。
「だって、そうだろう?こんな辺鄙な所に兄さんみたいなαが来るか?ここは王都の騎士団じゃないんだぜ?俺だってαだ。兄さんの事は匂いでわかるさ。こんな所で隠れてコソコソしてる奴らは大抵何かやらかした、いわく付きのはぐれもんだろ?」
「………」
「で?仕事探しか何かか?兄さん、腕が立ちそうだな?用心棒にでも雇ってやろうか?」
馬車に詰められた幼子は、言葉もなくフルフルと震えている。もしこの背の高い青年も人攫いの仲間になってしまったらきっと一生誰も助けてくれないだろう事を直感で感じ取ってるのか、青年の言動を必死に縋り付く様に見守っている。
「仕事を探しているわけじゃない。人探し。」
「んじゃ、簡単だ。俺らと一緒に王都に行けばいい。ゼス国でもいいし隣のサリーシュ国でもいい。こいつを売るんだからな、足を伸ばしても一つ向こうに行ってもいいか…」
然も妙案だとばかりにうんうんと頷いている男に青年は近付いて行く。
「よう、兄弟!一緒に行くなら歓迎するぜぇ?何しろ腕の立つ奴は大歓迎さ、な!皆んなもそれで良いか!?」
どうやら先ほどからベラベラと話している赤毛の大柄なこの男がこのならず者共のリーダー格らしい。
「俺は人を探している。俺の妹で、少し前に攫われたΩだ!」
赤毛の男に近付いた青年は背中に背負っていた大振りの剣を引き抜き、一気に真横へと薙ぎ払った。
「うお!」
「何しやがる!」
「あっぶねぇ!」
腐ってもαを含む一団だ。青年が薙ぎ払った剣をギリギリで躱して一気に体勢を整えてみせた。
「何々?俺らとやろうってか?」
カシャン……
赤毛の男の後ろでは馬車の幌が断ち切られて地面に落ちた。
「あ~ぁ。好戦的だな?兄ちゃん?」
その場に居なかった者達も姿を表す。総勢6名。その内αは3名……
この世に産まれ落ちた者達はそれぞれ大なり小なりの魔力を持つ。身体的能力の高いαの性を持つ者はその魔力量も高くなることが通常だ。だからだろうか。この青年は目の前のαに勝つ自信があるから手を出したのか、また若気の至りでそれをしたのか…見える所だけでは判断に迷うものだ。
「魔力量は十分、か…」
「の、様ですね?どうします?」
今正に戦闘秒読みの場面を眼下に見つつ冷静に状況を判断している人影が崖の上にあった。
「ノルー、下に何人か飛ばせ。腐った連中だがαはα。彼一人じゃ荷が重いだろう?手が付けられないほど暴れるなら私が出る。」
崖の上から見下ろしているのはフードをスッポリと被った小柄な人物。その者の隣にはノルーと呼ばれた中肉中背の黒髪黒瞳の男が一人居た。
「全員遮断しておく様に伝えておけ。」
「は、了解致しました。」
ノルーは直ぐに行動に出た。崖の上にはゼス国王室の紋章を胸に刻んだ隊服を着た騎士達が控えている。ゼス国国王直属下対魔法騎士団第3騎士団団長ヨルマー・ノベンが率いる騎士団一行だ。少数精鋭を常とするこの対魔法騎士団は団員の騎士全てが選び抜かれたαからなっている。それぞれ皆剣技と魔法に長けた者達で3つの騎士団からなる対魔法騎士団はゼス国筆頭となる騎士団でもある。ノルーはフードを被った人物からの連絡役の様な者だ。返事と共にノルーはその場から一瞬で消え去った。
「あ~ぁ~若いねぇ、兄ちゃん。」
ジリジリと青年との距離を縮めながら赤毛の男は余裕の笑みだ。
「見た所、お前流れの剣士か?あ、人探しって言ってたか?どっちでもいいか。ま、誰も連れずにこんな所に一人で来るって事は、騎士か何かに付いてても失敗でもしたのかね~?」
周りの男達からも揶揄う様な言動が飛んでくる。が、青年は剣を構えたままその言葉に煽られもしない。
「ぼうず、頭を伏せておけ。」
それどころか男達を完全に無視してまだ馬車の中にいるΩの幼子に向かって身を屈める様に注意を促している。
「はっ兄ちゃん!今どんな状況か分かってんのか?はたまた頭が弱いのか?お前、結構な手練れに囲まれてんだぜ?こっちにゃαが3人いる。これがどう言う意味かよく分かってんだろ?」
αの特性。産まれながらにして人の上に立つべき能力を持っている者達。知力、体力、精神力、勿論魔力量どれを取っても平均と言われているβやそれよりも弱い存在と思われているΩに劣る所などない圧倒的な強者だ。戦闘においても申し分ない程にその能力を発揮する為、各国αの騎士、兵士を獲得する為に水面下ではかなり際どい攻防戦が繰り返されているとか言う話が後を絶たない程だ。
「どっかのゴロツキどもに、Ωの子供が攫われそうになっている。俺の妹もそうだったかもしれないと思ったら普通は助けるだろう?」
「ほ~ん?正義感の強いことで?一応仲間になって情報を手に入れるってな方法もあるんだがな?兄ちゃんは正面突破するタイプな?」
「勝てればだけどな?」
ゲラゲラゲラと、一斉に男達が笑い出す。
「負けたら、兄ちゃんも売り飛ばすぜ?」
赤毛の男の周囲が歪む。時空がねじれる様にグニャリと曲がったかと思えば、一気に青年目掛けて暴風が襲い掛かった。
背の高い赤い瞳をした青年。人攫いの一味から言われた言葉が非常に気に食わないらしい。一目見てわかるほど眉根を顰めて整った表情を歪めている。
「だって、そうだろう?こんな辺鄙な所に兄さんみたいなαが来るか?ここは王都の騎士団じゃないんだぜ?俺だってαだ。兄さんの事は匂いでわかるさ。こんな所で隠れてコソコソしてる奴らは大抵何かやらかした、いわく付きのはぐれもんだろ?」
「………」
「で?仕事探しか何かか?兄さん、腕が立ちそうだな?用心棒にでも雇ってやろうか?」
馬車に詰められた幼子は、言葉もなくフルフルと震えている。もしこの背の高い青年も人攫いの仲間になってしまったらきっと一生誰も助けてくれないだろう事を直感で感じ取ってるのか、青年の言動を必死に縋り付く様に見守っている。
「仕事を探しているわけじゃない。人探し。」
「んじゃ、簡単だ。俺らと一緒に王都に行けばいい。ゼス国でもいいし隣のサリーシュ国でもいい。こいつを売るんだからな、足を伸ばしても一つ向こうに行ってもいいか…」
然も妙案だとばかりにうんうんと頷いている男に青年は近付いて行く。
「よう、兄弟!一緒に行くなら歓迎するぜぇ?何しろ腕の立つ奴は大歓迎さ、な!皆んなもそれで良いか!?」
どうやら先ほどからベラベラと話している赤毛の大柄なこの男がこのならず者共のリーダー格らしい。
「俺は人を探している。俺の妹で、少し前に攫われたΩだ!」
赤毛の男に近付いた青年は背中に背負っていた大振りの剣を引き抜き、一気に真横へと薙ぎ払った。
「うお!」
「何しやがる!」
「あっぶねぇ!」
腐ってもαを含む一団だ。青年が薙ぎ払った剣をギリギリで躱して一気に体勢を整えてみせた。
「何々?俺らとやろうってか?」
カシャン……
赤毛の男の後ろでは馬車の幌が断ち切られて地面に落ちた。
「あ~ぁ。好戦的だな?兄ちゃん?」
その場に居なかった者達も姿を表す。総勢6名。その内αは3名……
この世に産まれ落ちた者達はそれぞれ大なり小なりの魔力を持つ。身体的能力の高いαの性を持つ者はその魔力量も高くなることが通常だ。だからだろうか。この青年は目の前のαに勝つ自信があるから手を出したのか、また若気の至りでそれをしたのか…見える所だけでは判断に迷うものだ。
「魔力量は十分、か…」
「の、様ですね?どうします?」
今正に戦闘秒読みの場面を眼下に見つつ冷静に状況を判断している人影が崖の上にあった。
「ノルー、下に何人か飛ばせ。腐った連中だがαはα。彼一人じゃ荷が重いだろう?手が付けられないほど暴れるなら私が出る。」
崖の上から見下ろしているのはフードをスッポリと被った小柄な人物。その者の隣にはノルーと呼ばれた中肉中背の黒髪黒瞳の男が一人居た。
「全員遮断しておく様に伝えておけ。」
「は、了解致しました。」
ノルーは直ぐに行動に出た。崖の上にはゼス国王室の紋章を胸に刻んだ隊服を着た騎士達が控えている。ゼス国国王直属下対魔法騎士団第3騎士団団長ヨルマー・ノベンが率いる騎士団一行だ。少数精鋭を常とするこの対魔法騎士団は団員の騎士全てが選び抜かれたαからなっている。それぞれ皆剣技と魔法に長けた者達で3つの騎士団からなる対魔法騎士団はゼス国筆頭となる騎士団でもある。ノルーはフードを被った人物からの連絡役の様な者だ。返事と共にノルーはその場から一瞬で消え去った。
「あ~ぁ~若いねぇ、兄ちゃん。」
ジリジリと青年との距離を縮めながら赤毛の男は余裕の笑みだ。
「見た所、お前流れの剣士か?あ、人探しって言ってたか?どっちでもいいか。ま、誰も連れずにこんな所に一人で来るって事は、騎士か何かに付いてても失敗でもしたのかね~?」
周りの男達からも揶揄う様な言動が飛んでくる。が、青年は剣を構えたままその言葉に煽られもしない。
「ぼうず、頭を伏せておけ。」
それどころか男達を完全に無視してまだ馬車の中にいるΩの幼子に向かって身を屈める様に注意を促している。
「はっ兄ちゃん!今どんな状況か分かってんのか?はたまた頭が弱いのか?お前、結構な手練れに囲まれてんだぜ?こっちにゃαが3人いる。これがどう言う意味かよく分かってんだろ?」
αの特性。産まれながらにして人の上に立つべき能力を持っている者達。知力、体力、精神力、勿論魔力量どれを取っても平均と言われているβやそれよりも弱い存在と思われているΩに劣る所などない圧倒的な強者だ。戦闘においても申し分ない程にその能力を発揮する為、各国αの騎士、兵士を獲得する為に水面下ではかなり際どい攻防戦が繰り返されているとか言う話が後を絶たない程だ。
「どっかのゴロツキどもに、Ωの子供が攫われそうになっている。俺の妹もそうだったかもしれないと思ったら普通は助けるだろう?」
「ほ~ん?正義感の強いことで?一応仲間になって情報を手に入れるってな方法もあるんだがな?兄ちゃんは正面突破するタイプな?」
「勝てればだけどな?」
ゲラゲラゲラと、一斉に男達が笑い出す。
「負けたら、兄ちゃんも売り飛ばすぜ?」
赤毛の男の周囲が歪む。時空がねじれる様にグニャリと曲がったかと思えば、一気に青年目掛けて暴風が襲い掛かった。
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