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16 茶会

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「お兄様!!」

 1日ぶりのルウアだ。スロウルの姿を見るや
嬉しそうにこちらにくるではないか…


「ルウア様。スロウル、ですよ。王城ですから気を張ってください。誰が聞いているか分からないのですから。」

 走り飛び込んでくるルウアを難なく受け止めてスロウルは溜息一つ。
 嬉しそうに微笑んでいるルウアの姿を見てはこれ以上は怒れないのだが…



「フフ。本当に久しい事。スロウル。此方へいらっしゃい。」

 奥のカウチのクッションにゆったりと座っているのは紛れも無い王妃殿下。

 すぐ様ルウアを横へ移動させ挨拶をする。


 
 王妃は肯いて挨拶を受け、カウチから立ち上がって両手を広げる。


「さぁ。スロウル。伯母様にその顔をよく見せて頂戴?」

「お兄様今日は無礼講ですわ。護衛も限界まで下げさせて下さってますから。」


 戸惑うスロウルを他所に、ルウアは楽しそうにスロウルの手を引き王妃の前に引っ張ってくる。
 同じ席に王太子リュジオンも同席していた。

 王妃と同じく礼を取り挨拶をする。

 それが終われば、スロウルはフワリと王妃殿下に抱きしめられてしまった。スロウルの方が背が高いから、少し身をかがめる様な態勢だ。


「王妃殿下。お久しぶりに御座います。」

「嫌よ。伯母様と呼んで下さらなくては!もっと顔を見せて頂戴。」

 クイッと王妃の顔の方へ、両頬を手で挟まれて近づけさせられた。

 王妃は母よりももっと可愛らしくしたような、それでもやはり流石は姉妹で、良く似ている。
 フワリと香る花の香りが更に優しい雰囲気を出している様だ。


「あぁ、何年ぶりかしら?大きくなって。お母様は?ナリラは元気にしていて?あぁ…同じ国内にいてこんなにも会えないなんて思わなかったわ。」

 ぺたぺたとスロウルの頬を撫でながら懐かしそうに微笑む。

「あ、公爵の事を悪く言っているのではないのよ?あの方は恩人ですもの。」


「はい。母も元気にしております。先日は殿下が屋敷にいらして下さいました。」

「まぁ!リュジオンが?貴方ったらそんな事言っていなかったではないの?行くなら行くと仰って?言付けを頼むこともできたのに…」


 捕虜の様な形でエンドランに嫁いで来たのを否めない王妃と、テドルフ公爵第二夫人ナリラは手紙などで交流を取ってはいるが、直接もう何年も会ってはいないのだ。


「貴方に会えて良かったわ、スロウル。ずっとずっと心配していたから…大きく育っているし、顔色もいい。健康そのものね。」

 母と外見は非常に似ているが、王妃は元気なお母さんと言った印象が子供の時から拭えないでいる…


「お母様に、ナリラに今度は貴方もいらっしゃいと伝えてくださいな。数年に一度でもいいから顔が見たいのよ。」


「分かりました、伯母様。必ずお伝えいたします。」

 スロウルの返事に、王妃はやや涙目だ。
妹がこの国に嫁いだばかりに、いや、祖国があんな事になってしまったばかりに関係ない肉親の子供にも辛い思いをさせなくてはいけないなんて…素直に甘える事を禁じられてきたスロウルが王妃は本当に心配だった。
 母親譲りの美貌も、地位も仇となる様な生き方なんて悲しすぎる。


「母上。立ち話もスロウルとルウアに失礼でしょう?座ってお茶にしましょう。」



 リュジオンが勧めるまま自分も席についてお茶にありついた事をスロウルは直ぐに後悔する事になった………



 お茶を一杯頂いたところで王妃の側近からこの後の公務が差し迫っていると、申し訳なさそうに告げられた。

 この所立て続けに立ち動いていて、王妃であるのにゆっくり客人をもてなす事も出来ないと申し訳なさそうに謝られてしまう。

 挨拶をして王妃を見送った後にルウアも学園に帰らなければならない時間が迫って来た。



「まあ、そう急ぐな。この後特別な用など入っていないのだろう?」

「殿下は?お忙しいのでは?そう言えば侍従が、見えませんね?」

 自らスロウルがリュジオンの茶器に茶を注ごうと立ち回る。

「ん?今日はお前が来るからな。話す内容も疑わしいものなど到底無いが、漏れなければ漏れないだけいいだろう?」

 気の置ける側近であっても側から離す徹底ぶり。だが、警備の者の姿も見えないが?チラホラと庭園の方から感じる気配がそれであろうか?


 アクサードもついでに、とばかりに共に登城したが、勤務では無い為庭園の外で待機している。


「お気遣い感謝します。殿下。」

「ね、お兄様来て宜しかったでしょう?王妃様も凄く喜んでいてくださっていたし。」

 ルウアは上機嫌だ。ニコニコと無邪気な笑顔を振りまいていてくれる。
 こんなに喜んでるルウアの姿を見れたら、幼い頃の茶会の思い出も幸せなものへと書き換える事もできそうだ。

 自分にはこんな未来もあるかもしれないのか…フッと心が暖かくなり、スロウルの気が緩んだ………


キンっ!!


 突然庭園茂みの方からナイフが投げられる音でスロウルの体が反応した。咄嗟に腕に仕込んでいた暗器でナイフを弾き落とす!


「何者だ?!!」


 スロウルが叫び声を上げると同時に、3人の男達が繁みの中から飛び出してきた…!


 ガッシャャャャャンンンン!!


 テーブルの上の高級ティーセットが見事に崩れ、スロウルは男二人の顔面に目掛けて陶器を投げつけた。
   

「うっっッ」

「グウ!!」

 男達のくぐもった声で、男2人が怯んだのが分かった。


 ガタン!!


「ルウ!テーブルの下へ潜れ!!」


 テーブルに並べられていた彩りの良いお菓子も、いい香りのお茶も、高そうなカラトリーもほぼ全て蹴散らす勢いでスロウルがテーブルを飛び越えた。


「はい!」

 
 了解の返事のみし、兄の足手まといにならない為に、フワリとドレスを翻してルウアはテーブルの下に潜り込んだ。



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