71 / 72
71 王の決意 2
しおりを挟む
龍は本来一人で生きるもの。世界中に意識を向けられ理を掴めるから親の庇護は要らない。
が、今レギルとリレランと子龍がいる場所は、元スルジー男爵領を王家が買い取り王家の私有地とした所で、周囲にレギル一家以外の人間がいないから自由に暮らせているのだ。リレランが龍である事は、王家の人間とそれに関わってきた者達しかまだ知らない事で、他の人間の目に留まって騒ぎにならない様にとカシュクール国王が決断したものだった。そして今この場所にリレランは薄く結界らしき物を張り巡らしている。間違って人間が領地に入ってこない様にするためのもので、入ろうとすれば恐ろしい畏怖に襲われる、位の軽いものだそうだ。しかしこれが子龍に少し影響を及ぼしていて、リレラン自身が張っている結界が子龍の目をも塞いでしまっているのだそうだ。だからノエルは蝶の谷でリレランがそうしていた様に外部から情報を取れず、卵から孵った後に両親からの教育を受けて一から育てあげられている。
「どうも、甘え癖がつくみたいだな?」
このままでは持てる力のコントロールにも時間がかかってしまいそう…そもそも甘えっ子の龍なんて聞いた事がない。全生物の頂点に立っているのに威厳も何も無いのでは、龍として生きるよりも前に他の動物にでも狩られてしまう……リレランはそんな心配をしている。この地は精気に満ちて物凄く好きで落ち着くけれど、子供がダメになる事は防がなくては……
「レギル…この子蝶の谷に預けよう…!」
レギルに関わる人間が生を全うするまでは人間の土地で生きて行こうと決めていた。レギルに与えられた仕事もあるし、まだまだこの地で暮らすつもりではあるがいずれは離れなければならなくなる。龍の卵もずっと人間の世界では生きてはいけないだろう。龍には龍の理りがある。リレランが学んだ様にある程度自分で吸収しなくては…
「ノエルは?」
リレランの腕の中で撫で撫でされる事にうっとりと目を細めているノエル。もうすっかりこちらも甘えっ子で龍としての威厳はない…………レギルも腕の中で大事そうに卵を抱え直した。
「う~ん…この子は置いてきたらじっとはしていないだろうからな…」
「ここから通わせるか?」
レギルはカシュクール国王から頂いている仕事がある。全領土を巡って、精霊使いになれそうな者を教育し、城へと送るのだ。両親が健在であるうちはカシュクール国の為にこの仕事を続けていくつもりだ。なので、ノエルの監視のために一緒に蝶の谷へと籠もってしまう事はできないが、通いならば送り迎えするだけでいいのだから楽である。通わせる手間はあるが、龍として子供達が自立できなくなることの方がレギルにも問題だと思った。人間の教育はレギルでも施せるが、龍の場合は全くのお手上げだからだ。
「そうだね?僕が飛んでもいいし、レギルが送ってもいいし。うん、行けるね?」
「あぁ…人間の礼儀は私が教える。だからお前は龍の理を学んで早く卵から出ておいで?父様も母様も待っているからね?」
「もう!レギル!甘い!そんなに甘やかさなくたって生きていけるんだよ?むしろ強くなきゃ生きられないのが龍なの!」
二児の父となり、すっかり子煩悩な姿に変わってしまっているレギルにリレランは釘を刺す。
「レギルは、自分の仕事をしてて良いよ。まだ精霊使いの力も安定してないんだろ?」
過去に出した候補者何名かは既にいくつかの小さな精霊と契約を結ぶまでにはなっているようなのだが、基本的な教育はクリアしたもののなんとも経験が足りないと言う問題が浮かび上がってきてしまっている。国内に熟練した精霊使いが増えてくれる事は大いに喜ばしい事なのだ。この国に次なる天災が起こった時にはきっとリレランの助けなくても乗り越えていけるだろう。その為に精霊使いの熟練度を上げる事が必須で…レギルは今その手助けもしている。
「そうだな……」
少しだけ、レギルにも精霊を操る術が分かってきている。リレランの力に繋げられているからか、精霊を統べる龍の理りがうっすらと見えてもくる。いずれ、自分も人間とは言い難く…この地では生きていられなくなるだろう…そんな事を実感しながら、幼い卵のためにレギルは精霊門を開くのだった……
懐かしい、迷い森の蝶の谷……かつてリレランの卵があった所にレギルは腕に抱いていた卵を下ろす。きっとリレランをここに置きにきた母龍もこんな気持ちだったのかも知れないなんて少し思いながら。
「良く学び、卵から出てからお家に戻っておいで?」
龍達が、それも古の龍までもが心地良いと感じるあの家に…それまでしばしお別れだ…
幼い卵を一撫でして周りの精霊達に卵をお願いしてからレギルはその場を離れた…
が、今レギルとリレランと子龍がいる場所は、元スルジー男爵領を王家が買い取り王家の私有地とした所で、周囲にレギル一家以外の人間がいないから自由に暮らせているのだ。リレランが龍である事は、王家の人間とそれに関わってきた者達しかまだ知らない事で、他の人間の目に留まって騒ぎにならない様にとカシュクール国王が決断したものだった。そして今この場所にリレランは薄く結界らしき物を張り巡らしている。間違って人間が領地に入ってこない様にするためのもので、入ろうとすれば恐ろしい畏怖に襲われる、位の軽いものだそうだ。しかしこれが子龍に少し影響を及ぼしていて、リレラン自身が張っている結界が子龍の目をも塞いでしまっているのだそうだ。だからノエルは蝶の谷でリレランがそうしていた様に外部から情報を取れず、卵から孵った後に両親からの教育を受けて一から育てあげられている。
「どうも、甘え癖がつくみたいだな?」
このままでは持てる力のコントロールにも時間がかかってしまいそう…そもそも甘えっ子の龍なんて聞いた事がない。全生物の頂点に立っているのに威厳も何も無いのでは、龍として生きるよりも前に他の動物にでも狩られてしまう……リレランはそんな心配をしている。この地は精気に満ちて物凄く好きで落ち着くけれど、子供がダメになる事は防がなくては……
「レギル…この子蝶の谷に預けよう…!」
レギルに関わる人間が生を全うするまでは人間の土地で生きて行こうと決めていた。レギルに与えられた仕事もあるし、まだまだこの地で暮らすつもりではあるがいずれは離れなければならなくなる。龍の卵もずっと人間の世界では生きてはいけないだろう。龍には龍の理りがある。リレランが学んだ様にある程度自分で吸収しなくては…
「ノエルは?」
リレランの腕の中で撫で撫でされる事にうっとりと目を細めているノエル。もうすっかりこちらも甘えっ子で龍としての威厳はない…………レギルも腕の中で大事そうに卵を抱え直した。
「う~ん…この子は置いてきたらじっとはしていないだろうからな…」
「ここから通わせるか?」
レギルはカシュクール国王から頂いている仕事がある。全領土を巡って、精霊使いになれそうな者を教育し、城へと送るのだ。両親が健在であるうちはカシュクール国の為にこの仕事を続けていくつもりだ。なので、ノエルの監視のために一緒に蝶の谷へと籠もってしまう事はできないが、通いならば送り迎えするだけでいいのだから楽である。通わせる手間はあるが、龍として子供達が自立できなくなることの方がレギルにも問題だと思った。人間の教育はレギルでも施せるが、龍の場合は全くのお手上げだからだ。
「そうだね?僕が飛んでもいいし、レギルが送ってもいいし。うん、行けるね?」
「あぁ…人間の礼儀は私が教える。だからお前は龍の理を学んで早く卵から出ておいで?父様も母様も待っているからね?」
「もう!レギル!甘い!そんなに甘やかさなくたって生きていけるんだよ?むしろ強くなきゃ生きられないのが龍なの!」
二児の父となり、すっかり子煩悩な姿に変わってしまっているレギルにリレランは釘を刺す。
「レギルは、自分の仕事をしてて良いよ。まだ精霊使いの力も安定してないんだろ?」
過去に出した候補者何名かは既にいくつかの小さな精霊と契約を結ぶまでにはなっているようなのだが、基本的な教育はクリアしたもののなんとも経験が足りないと言う問題が浮かび上がってきてしまっている。国内に熟練した精霊使いが増えてくれる事は大いに喜ばしい事なのだ。この国に次なる天災が起こった時にはきっとリレランの助けなくても乗り越えていけるだろう。その為に精霊使いの熟練度を上げる事が必須で…レギルは今その手助けもしている。
「そうだな……」
少しだけ、レギルにも精霊を操る術が分かってきている。リレランの力に繋げられているからか、精霊を統べる龍の理りがうっすらと見えてもくる。いずれ、自分も人間とは言い難く…この地では生きていられなくなるだろう…そんな事を実感しながら、幼い卵のためにレギルは精霊門を開くのだった……
懐かしい、迷い森の蝶の谷……かつてリレランの卵があった所にレギルは腕に抱いていた卵を下ろす。きっとリレランをここに置きにきた母龍もこんな気持ちだったのかも知れないなんて少し思いながら。
「良く学び、卵から出てからお家に戻っておいで?」
龍達が、それも古の龍までもが心地良いと感じるあの家に…それまでしばしお別れだ…
幼い卵を一撫でして周りの精霊達に卵をお願いしてからレギルはその場を離れた…
0
お気に入りに追加
158
あなたにおすすめの小説
エロゲ世界のモブに転生したオレの一生のお願い!
たまむし
BL
大学受験に失敗して引きこもりニートになっていた湯島秋央は、二階の自室から転落して死んだ……はずが、直前までプレイしていたR18ゲームの世界に転移してしまった!
せっかくの異世界なのに、アキオは主人公のイケメン騎士でもヒロインでもなく、ゲーム序盤で退場するモブになっていて、いきなり投獄されてしまう。
失意の中、アキオは自分の身体から大事なもの(ち●ちん)がなくなっていることに気付く。
「オレは大事なものを取り戻して、エロゲの世界で女の子とエッチなことをする!」
アキオは固い決意を胸に、獄中で知り合った男と協力して牢を抜け出し、冒険の旅に出る。
でも、なぜかお色気イベントは全部男相手に発生するし、モブのはずが世界の命運を変えるアイテムを手にしてしまう。
ちん●んと世界、男と女、どっちを選ぶ? どうする、アキオ!?
完結済み番外編、連載中続編があります。「ファタリタ物語」でタグ検索していただければ出てきますので、そちらもどうぞ!
※同一内容をムーンライトノベルズにも投稿しています※
pixivリクエストボックスでイメージイラストを依頼して描いていただきました。
https://www.pixiv.net/artworks/105819552
【完結】両性を持つ魔性の王が唯一手に入れられないのは、千年族の男の心
たかつじ楓
BL
【美形の王×異種族の青年の、主従・寿命差・執着愛】ハーディス王国の王ナギリは、両性を持ち、魔性の銀の瞳と中性的な美貌で人々を魅了し、大勢の側室を囲っている王であった。
幼い頃、家臣から謀反を起こされ命の危機にさらされた時、救ってくれた「千年族」。その名も”青銅の蝋燭立て”という名の黒髪の男に十年ぶりに再会する。
人間の十分の一の速さでゆっくりと心臓が鼓動するため、十倍長生きをする千年族。感情表現はほとんどなく、動きや言葉が緩慢で、不思議な雰囲気を纏っている。
彼から剣を学び、傍にいるうちに、幼いナギリは次第に彼に惹かれていき、城が再建し自分が王になった時に傍にいてくれと頼む。
しかし、それを断り青銅の蝋燭立ては去って行ってしまった。
命の恩人である彼と久々に過ごし、生まれて初めて心からの恋をするが―――。
一世一代の告白にも、王の想いには応えられないと、去っていってしまう青銅の蝋燭立て。
拒絶された悲しさに打ちひしがれるが、愛しの彼の本心を知った時、王の取る行動とは……。
王国を守り、子孫を残さねばならない王としての使命と、種族の違う彼への恋心に揺れる、両性具有の魔性の王×ミステリアスな異種族の青年のせつない恋愛ファンタジー。
手切れ金
のらねことすていぬ
BL
貧乏貴族の息子、ジゼルはある日恋人であるアルバートに振られてしまう。手切れ金を渡されて完全に捨てられたと思っていたが、なぜかアルバートは彼のもとを再び訪れてきて……。
貴族×貧乏貴族
転生するにしても、これは無いだろ! ~死ぬ間際に読んでいた小説の悪役に転生しましたが、自分を殺すはずの最強主人公が逃がしてくれません~
槿 資紀
BL
駅のホームでネット小説を読んでいたところ、不慮の事故で電車に撥ねられ、死んでしまった平凡な男子高校生。しかし、二度と目覚めるはずのなかった彼は、死ぬ直前まで読んでいた小説に登場する悪役として再び目覚める。このままでは、自分のことを憎む最強主人公に殺されてしまうため、何とか逃げ出そうとするのだが、当の最強主人公の態度は、小説とはどこか違って――――。
最強スパダリ主人公×薄幸悪役転生者
R‐18展開は今のところ予定しておりません。ご了承ください。
純情将軍は第八王子を所望します
七瀬京
BL
隣国との戦で活躍した将軍・アーセールは、戦功の報償として(手違いで)第八王子・ルーウェを所望した。
かつて、アーセールはルーウェの言葉で救われており、ずっと、ルーウェの言葉を護符のようにして過ごしてきた。
一度、話がしたかっただけ……。
けれど、虐げられて育ったルーウェは、アーセールのことなど覚えて居らず、婚礼の夜、酷く怯えて居た……。
純情将軍×虐げられ王子の癒し愛
祝福という名の厄介なモノがあるんですけど
野犬 猫兄
BL
魔導研究員のディルカには悩みがあった。
愛し愛される二人の証しとして、同じ場所に同じアザが発現するという『花祝紋』が独り身のディルカの身体にいつの間にか現れていたのだ。
それは女神の祝福とまでいわれるアザで、そんな大層なもの誰にも見せられるわけがない。
ディルカは、そんなアザがあるものだから、誰とも恋愛できずにいた。
イチャイチャ……イチャイチャしたいんですけど?!
□■
少しでも楽しんでいただけたら嬉しいです!
完結しました。
応援していただきありがとうございます!
□■
第11回BL大賞では、ポイントを入れてくださった皆様、またお読みくださった皆様、どうもありがとうございましたm(__)m
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる