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66 ここが良い
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スルジー男爵領はそれは小さなものだった…地図上でもよくよく探さなければ見落としてしまうほど小さな領土…
「これで良く死人が出なかったですよね?」
先日過ぎ去った大干魃と疫病から受けた人間の被害はないそうで…畑地も蓄えもそう多くはないであろうに、良くぞ持ち堪えたものである。
「ここ、愛されてるね。」
領地について直ぐにリレランは外を見るまでもなく、レギル王子にすり寄ってそう呟いた。
「愛されている?龍にか?」
土龍はカシュクール国を気に入っているそうで、中でもこの地は特別なのかとレギル王子は聞き返したのだ。
「土龍だけじゃないよ?この地の精霊に、ね。うん。ここが良いな……」
何やらリレランはここが気に入った様子。少しの畑地に幾つかの農村。小高い丘には何やらまだ芽吹いたばかりの新芽が揃う。リレランが言うにはこの地の精霊はここの人間が大好きなんだそうな。疫病から護られたのもそんな精霊達の仕業とか。
「精霊が加護を与えているのか?」
王家の他には聞いたことも無いのだが?
「違うよレギル…この地の人間が精霊を丁寧に扱っているんだ。そんな気持ちが彼らには居心地良くて、精霊の方もここを護りたかったんだろ…僕もここ好き……」
「ランもここに居たいのか?」
「居ていいんだったら居るかもね?でも、僕はレギルと一緒にいるよ。」
そう言うとリレランはチュウッとレギル王子の頬にキスをする。そんなリレランをレギル王子は愛しそうに見つめながら更に引き寄せた。
「ラン…どうせなら、ここに……」
人差し指を自分の唇に当ててレギル王子は嬉しそうに微笑んでくる。仕方ないな、と半ば呆れ顔でそれでもリレランはレギル王子の要望にしっかりと応えていく……
コンコンコン……
レギル王子とリレランが仲睦まじく寄り添っていても、時間は過ぎるし目的地には到着するのだ。護衛の騎士が到着の合図に馬車の扉を軽く叩く。
「着いた様だな…」
「もう少し、こうしてたい……」
「!?」
普段リレランが擦り寄ってくる様になったと言ってもこんな風に甘えてくることはなくて…レギル王子も一瞬固まってしまうほど驚いた。
「どうした?ラン?」
レギル王子だとて触れ合っていられるものならばこのままが良いが、ここには王命で来ている。仕事なのだからその責務は果たさなければならない…
レギル王子はそっとリレランの顔を覗き見る。いつになく、リレランの表情が恍惚としている気がする。
「ラン?」
「うん~~やっぱり、ここは気持ちいい……」
レギル王子に抱きついてはリレランはスリスリと頬ずりをしてくる。
「一体…?」
すっかり訳もわからず、レギル王子はやや混乱気味だ。
「ん~ここは、物凄い精気の流れが潤沢なの……それに、レギルもいるし…も、ねむ……」
「ラン…!?」
キュウッとレギル王子に抱きついては信じられない事にそのままコテンとリレランは眠りに入ってしまった……
「…殿下?レギル王子?如何されましたか?」
到着の合図を送っても、中からは返答も無い。もしや眠っておられるのかと、もう一度騎士が馬車の外から声をかけた。
「済まないが、寝台の準備をしてもらってくれ、ランが寝入ってしまっている。」
呼吸は平静…体温も常と変わらない…眠いと言っていたからこんな事は初めてだが本当に眠ってしまっただけの様だ。この地は龍とも相性が良いのだろうか?リレランの表情は何かに酔った者のようにうっとりとしていた。
「左様でございましたか。では、直ぐに領主に掛け合って参ります!」
騎士が急いで遠のく足音を聞きながら、レギル王子はリレランを抱え直す。少し微笑む様に寝入っているこんな所は初めて見るかもしれなかった。
思えばレギル王子は龍についてほとんどと言っていいほど確かな知識を持っていなかった。折々でリレランがレギル王子に伝えてくるものは理解出来ているが、リレランにとってはこの地は何なのだろうか?どうやら叔父上が選び出した次期王妃となられるであろう方の故郷ではあるのだろうが。今、レギル王子に分かっているのはこれくらいしか無い。
「私は、ランの事を殆ど知らぬな……」
寝ていても美しく整ったリレランの顔を自嘲気味に見つめつつ、レギル王子は屋敷の者の案内でリレランを寝台へと運ぶのだった。
「ラン…?」
暫く眠っていたリレランが身動ぐ……そっと声をかけたレギル王子に、リレランはニッコリと微笑んだ。
「大丈夫なのか?ラン?」
心配気なレギル王子の顔がリレランの上から覗き込んでいる。
「あぁ、僕、ここがいいなぁ……ずっと住むなら、レギルがいて…この地の精気に包まれて眠るの……もう、他に何も要らない……」
リレランの方からレギルに手を伸ばす…今なら古龍達が何で出てこなくなったのかよくわかる。彼らもきっとこんな気持ちなんだ。自分の求める物をちゃんと見つけられて、満足の中で眠っている。だったら彼らは物凄く幸せ者で他の事なんてどうでも良くなるのは当たり前だ。
今の、自分の様に………
「ねぇ、レギル…僕に触って……?」
好きなものに囲まれて巣を作ってリラックスできたなら、やる事は一つ………
「レギル………」
「これで良く死人が出なかったですよね?」
先日過ぎ去った大干魃と疫病から受けた人間の被害はないそうで…畑地も蓄えもそう多くはないであろうに、良くぞ持ち堪えたものである。
「ここ、愛されてるね。」
領地について直ぐにリレランは外を見るまでもなく、レギル王子にすり寄ってそう呟いた。
「愛されている?龍にか?」
土龍はカシュクール国を気に入っているそうで、中でもこの地は特別なのかとレギル王子は聞き返したのだ。
「土龍だけじゃないよ?この地の精霊に、ね。うん。ここが良いな……」
何やらリレランはここが気に入った様子。少しの畑地に幾つかの農村。小高い丘には何やらまだ芽吹いたばかりの新芽が揃う。リレランが言うにはこの地の精霊はここの人間が大好きなんだそうな。疫病から護られたのもそんな精霊達の仕業とか。
「精霊が加護を与えているのか?」
王家の他には聞いたことも無いのだが?
「違うよレギル…この地の人間が精霊を丁寧に扱っているんだ。そんな気持ちが彼らには居心地良くて、精霊の方もここを護りたかったんだろ…僕もここ好き……」
「ランもここに居たいのか?」
「居ていいんだったら居るかもね?でも、僕はレギルと一緒にいるよ。」
そう言うとリレランはチュウッとレギル王子の頬にキスをする。そんなリレランをレギル王子は愛しそうに見つめながら更に引き寄せた。
「ラン…どうせなら、ここに……」
人差し指を自分の唇に当ててレギル王子は嬉しそうに微笑んでくる。仕方ないな、と半ば呆れ顔でそれでもリレランはレギル王子の要望にしっかりと応えていく……
コンコンコン……
レギル王子とリレランが仲睦まじく寄り添っていても、時間は過ぎるし目的地には到着するのだ。護衛の騎士が到着の合図に馬車の扉を軽く叩く。
「着いた様だな…」
「もう少し、こうしてたい……」
「!?」
普段リレランが擦り寄ってくる様になったと言ってもこんな風に甘えてくることはなくて…レギル王子も一瞬固まってしまうほど驚いた。
「どうした?ラン?」
レギル王子だとて触れ合っていられるものならばこのままが良いが、ここには王命で来ている。仕事なのだからその責務は果たさなければならない…
レギル王子はそっとリレランの顔を覗き見る。いつになく、リレランの表情が恍惚としている気がする。
「ラン?」
「うん~~やっぱり、ここは気持ちいい……」
レギル王子に抱きついてはリレランはスリスリと頬ずりをしてくる。
「一体…?」
すっかり訳もわからず、レギル王子はやや混乱気味だ。
「ん~ここは、物凄い精気の流れが潤沢なの……それに、レギルもいるし…も、ねむ……」
「ラン…!?」
キュウッとレギル王子に抱きついては信じられない事にそのままコテンとリレランは眠りに入ってしまった……
「…殿下?レギル王子?如何されましたか?」
到着の合図を送っても、中からは返答も無い。もしや眠っておられるのかと、もう一度騎士が馬車の外から声をかけた。
「済まないが、寝台の準備をしてもらってくれ、ランが寝入ってしまっている。」
呼吸は平静…体温も常と変わらない…眠いと言っていたからこんな事は初めてだが本当に眠ってしまっただけの様だ。この地は龍とも相性が良いのだろうか?リレランの表情は何かに酔った者のようにうっとりとしていた。
「左様でございましたか。では、直ぐに領主に掛け合って参ります!」
騎士が急いで遠のく足音を聞きながら、レギル王子はリレランを抱え直す。少し微笑む様に寝入っているこんな所は初めて見るかもしれなかった。
思えばレギル王子は龍についてほとんどと言っていいほど確かな知識を持っていなかった。折々でリレランがレギル王子に伝えてくるものは理解出来ているが、リレランにとってはこの地は何なのだろうか?どうやら叔父上が選び出した次期王妃となられるであろう方の故郷ではあるのだろうが。今、レギル王子に分かっているのはこれくらいしか無い。
「私は、ランの事を殆ど知らぬな……」
寝ていても美しく整ったリレランの顔を自嘲気味に見つめつつ、レギル王子は屋敷の者の案内でリレランを寝台へと運ぶのだった。
「ラン…?」
暫く眠っていたリレランが身動ぐ……そっと声をかけたレギル王子に、リレランはニッコリと微笑んだ。
「大丈夫なのか?ラン?」
心配気なレギル王子の顔がリレランの上から覗き込んでいる。
「あぁ、僕、ここがいいなぁ……ずっと住むなら、レギルがいて…この地の精気に包まれて眠るの……もう、他に何も要らない……」
リレランの方からレギルに手を伸ばす…今なら古龍達が何で出てこなくなったのかよくわかる。彼らもきっとこんな気持ちなんだ。自分の求める物をちゃんと見つけられて、満足の中で眠っている。だったら彼らは物凄く幸せ者で他の事なんてどうでも良くなるのは当たり前だ。
今の、自分の様に………
「ねぇ、レギル…僕に触って……?」
好きなものに囲まれて巣を作ってリラックスできたなら、やる事は一つ………
「レギル………」
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