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37 拘束 2
しおりを挟む「司令官殿!!何を、申されます!この方が居られましたから、我らは市民の安全を優先する事ができたのです。猛獣による被害者は1人もおりませんぞ!」
「それを決めるのは部隊長タリム、そなたではない!この様な怪しげな術を使うだけでも、十分に詮議される理由になろう!どうか!」
レギル王子は黙って剣帯から愛刀を外し側に集まって来ていた1人の騎士に剣を預けた。
「誓って!このレギルはこの町を侵略するつもりなど毛頭ない!」
「そこの者はどうか!!」
そこ、と言われた所に目をやると、リレランが静かに立っている。
「ラン………」
驚いた様にレギル王子の目が開かれる。猛獣達と共に今もなお霧の中にいると思っていたからだ。
「知った顔の様だな…フードを取れ。」
司令官の命令にリレランは従わずただジッとレギル王子を見つめているだけだ。
「聞こえぬか!」
司令官が業を煮やす前に側に居た騎士の1人がバッとリレランのフードを下げた…
その騎士の無体にバッとレギル王子が動こうとするが、動くな!と別の騎士に止められてしまう。
「ほぅ………これは…これは、またとない美貌ではないか…」
「おぉ…!」
「凄い……」
司令官が感嘆の声をあげれば、あちこちからため息の様な声が聞こえて来た。
ギリッ………レギル王子は手をきつく握りしめて耐える。
自分だとてまるで壊れ物の様に、リレランに直接触れない様に細心の注意を払ってフードに触れたのに……!!この騎士達は何の躊躇いもなくリレランに触った!
「人間の王子?どうしたい?」
「ほう?お前もこの男を王子などと言うのか!それならば、同罪とみなすぞ?」
「……!」
「僕なら、この場を切れるけど?」
「ほう?なんとすると?生意気な者め。」
騎士の1人はリレランを捕まえようと手を伸ばした。無理やりにでも跪かせたいのだろう。
「この者は関係ない。手出しはしないで頂こう!」
レギル王子はその騎士の手をハシッと掴んで阻んだ。
「捕えよ…!」
「司令官殿!!」
「煩いぞ!タリム!これ以上邪魔するならば、貴様も同罪とする!」
「う……」
司令官の命令と共にレギル王子とリレランの元に数名の騎士が向かう。レギル王子はリレランの前に立ちはだかろうとするが1人の騎士に剣の柄で腹を一撃され蹲った。
「うっ………」
「人間の王子…どうしたい?」
リレランの力ならばこの場は容易く切り抜けられるのはわかり切っていた。最強の龍なんだから……
"猛獣を森へ、返すのだろう?人を傷つけてはならないと君が命じたんだ。君もそれを守らなければ……"
リレランに頼めばきっと彼は動く…レギル王子を沈めると共にリレランにも襲いかかる騎士を見つめるリレランの目が、ゾクリとする程冷たいものだったから。
だからレギル王子は言ったのだ、騎士達に群がって押さえつけられ、地に倒されながら…猛獣をその地に返すように、と…
レギル王子はリレランに対価を払うためにここまで来た。リレランに守ってもらう為じゃない…!
"分かったよ、王子"
その答えと共に、リレランは騎士を掻い潜り黒い霧の中に消えていった。
「あの者も逃すな!捕らえよ!」
「は、しかし…!!」
命令を遂行しようとする騎士達はたじろぐ…誰一人として黒い霧の中に入っていこうとする者はいないらしい…
「どうした?追わぬか!!」
「は!!!」
司令官の檄に恐れをなしたのか、意を決して数名の騎士は霧の中へと消えていった。
猛獣達は大丈夫だろう…暫くはこの霧を消さなければ……ゆっくりと森の方へ霧を流し移動させる様にするとランに伝えておけば上手く誘導してくれるはずだ。
"ラン…猛獣を頼んだ"
引きずられるように縛り上げられながらレギル王子はリレランに伝える。やっとここまで追いついて、この手で触れられると思ったレギル王子はリレランとまたもや離される。口惜しい事この上無いが、レギル王子が何を追っていたのかを公にする訳にはいかないために、こうなるより他はない。
ここにもし自分の友である騎士ヨシットがいたら、ヨシット自身がが刻まれて死んでも抵抗していただろう…つくづく、一人で国を出て良かったと思う。たった一人でも無駄な犠牲を出さないように。リレランに対する対価を払う事もレギル王子が決めての事だったから。自分の我儘に付き合わせなくて良かったと心からレギル王子は思うのだった。
衆人環視が見守る中、レギル王子は王族にしては有り得ない様な様で引きずられていく。セラもその様を不安そうに見つめていた一人で、また部隊長タリムも唇を噛みしめながら、レギル王子達の後を追った。
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