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23 決意
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「決めた事がある!」
農村部視察の帰り道、やけに清々しい声でレギル王子はヨシットに言った。
「何を?」
お互いに馬を走らせての事、声の張り合いみたいになって馬上で怒鳴り合う二人。
「国を出る!!」
「はぁああああああ!???」
今世紀最大の馬鹿発言をいま目の前の自分の敬愛する王子であり、友であるレギルが口にした……それは本当に愚かな内容で、臣下らしからぬ悲鳴にも近い声で聞き返しても誰も咎めはしないと思う。
「何を!?」
「国を!出る!!」
まさか聴き間違えかと思ってもう一度聞いてみたところでレギル王子からの返事は同じだった。
「なっ……な!」
馬を疾走させながら何か言いたいのだが、言いあぐねているうちに自身の舌を噛みそうでそれ以上の言葉がヨシットからは出ない……
「国へと、戻る前から!もう、決めていたんだ!」
この馬鹿王子は、そんな大事な事を胸にしまってたった一人で結論付けだとでも言うのか?そんな事を言って、誰が納得して許してくれると思うのか……!
「ヨシットには本当のことを言いたくて…」
レギル王子は殊勝にも友と思っていてくれていたらしいが、こんな決断を下す前にヨシットは相談して欲しかったと思った…馬を休ませている間に、レギル王子とヨシットは川辺に座り込む。
レギル王子は曲がりなりにもこのカシュクール国第一王子。次期国王だ…やっと国が落ち着いて、これからレギル王子の伴侶選びが急ぎ執り行われて、後継を作って国を発展させる。その役目を幼い時から担ってきて十分に理解している上での行動を取ってきたはずだ。なのに、なぜ?
「行いには、対価がいる……」
疑問を顔に貼り付けたままのヨシットに向かってふふ、と笑いながらレギル王子は話し出す。
「カシュクールの天変地異を納めたのは間違いなく、迷い森で出会った龍だ。」
ゴクリ、とヨシットの喉が鳴った。あのまま迷い森にいたならば本物の龍をこの目で見る事が出来たと言う現実に今更ながらに震えが来る。
「先程、シェルツェインにも確認を取った。」
「それで…?」
「まだ、私達は対価を払っていないんだ。」
「………その、対価は何になる?」
レギル王子は国を、出るとまで言った?国にある物で払えるのならばそこまでする必要はない。何を、払うつもりなんだ?ヨシットの脳裏に嫌な考えが浮かぶ。いや、まさかと否定したくても、穏やかに笑っているレギル王子を見たらあながち間違えていない事がわかってしまう。
「分からん…!」
「はぁ?」
本日二回目の間の抜けた声を出すヨシット…
「本当に、分からん!…迷い森ではこちらは命を差し出すつもりだと龍に示したのが…」
「だが……?」
「キッパリと断られた。」
もう、カシュクールにそれ以上の宝は無い。王子一人の命で足りないならば後何人?レギル王子は自分以外の者を求められても差し出すつもりはなかったのだが…人の命以外に求められても今のカシュクールの国力では払い切れるのか…それほどにカシュクールの国力はまだ弱い…
「何も、求められなかったのだ……」
龍リレランはいらん、と言った。けれど謝意だけで済むものでは無いことも確か。人と龍は対等では無い。対価を払わない力の提供はいつかこの関係に破綻をきたす……それはシェルツェインからもよく習い知っていた。リレランの好意?に甘えてこれからの精霊との関係を崩したくは無い。少しの歪みが後に修復の効かない状態になるのがレギル王子には恐ろしい。
「だから、押し掛けることにした。」
「はい?」
「こちらからまた、向こうに出向こうと思っている。」
「レギル!それがどう言うことか、分かっているのか?」
国を出る………レギルはそう言った。もしかしたら、レギル王子の命を龍に恋われたら、そのまま差し出すと言うことだろう?
「国は…どうするんだ…?」
「……うん………」
現国王には妃が一人。そしてその子供はレギル王子のみ……精霊との遺恨を残さないのも重要だが、次期後継はどうするつもりなのか…?
「父上に…話してみようと思う…」
「そうなるだろうな………なぁ…」
二人の座る所には心地良いとしか思えない風が優しく吹き過ぎて行く。
「ん…?」
「最初から自分を差し出すつもりで、迷い森に行ったのか?」
「………必要であれば……そうした……」
「馬鹿だなぁ…お前…!」
ガシッ!!とヨシットはレギル王子の肩に逞しい腕を回す。
「なんで、先に相談してくれねぇのかなぁ……?」
「他の者を巻き込まないためと……私が…あの龍に魅せられてしまったからかな……もう一度…会ってみたい…」
「本当に…お前馬鹿だ!……もっと早くに言ってくれていれば、カシュクールに戻る前に…追い出してやったのに……!」
ヨシットが見ているレギル王子は、今までヨシットが見た事ない顔をしていた。何かを諦める覚悟を、追い求める決意をした者の眼だ…ヨシットも名のある騎士。覚悟を決めた者のこの目付きには覚えがある…。ならばなんの未練もなく、行かせてやりたいと思うのも友としては間違ってはいないだろう?
農村部視察の帰り道、やけに清々しい声でレギル王子はヨシットに言った。
「何を?」
お互いに馬を走らせての事、声の張り合いみたいになって馬上で怒鳴り合う二人。
「国を出る!!」
「はぁああああああ!???」
今世紀最大の馬鹿発言をいま目の前の自分の敬愛する王子であり、友であるレギルが口にした……それは本当に愚かな内容で、臣下らしからぬ悲鳴にも近い声で聞き返しても誰も咎めはしないと思う。
「何を!?」
「国を!出る!!」
まさか聴き間違えかと思ってもう一度聞いてみたところでレギル王子からの返事は同じだった。
「なっ……な!」
馬を疾走させながら何か言いたいのだが、言いあぐねているうちに自身の舌を噛みそうでそれ以上の言葉がヨシットからは出ない……
「国へと、戻る前から!もう、決めていたんだ!」
この馬鹿王子は、そんな大事な事を胸にしまってたった一人で結論付けだとでも言うのか?そんな事を言って、誰が納得して許してくれると思うのか……!
「ヨシットには本当のことを言いたくて…」
レギル王子は殊勝にも友と思っていてくれていたらしいが、こんな決断を下す前にヨシットは相談して欲しかったと思った…馬を休ませている間に、レギル王子とヨシットは川辺に座り込む。
レギル王子は曲がりなりにもこのカシュクール国第一王子。次期国王だ…やっと国が落ち着いて、これからレギル王子の伴侶選びが急ぎ執り行われて、後継を作って国を発展させる。その役目を幼い時から担ってきて十分に理解している上での行動を取ってきたはずだ。なのに、なぜ?
「行いには、対価がいる……」
疑問を顔に貼り付けたままのヨシットに向かってふふ、と笑いながらレギル王子は話し出す。
「カシュクールの天変地異を納めたのは間違いなく、迷い森で出会った龍だ。」
ゴクリ、とヨシットの喉が鳴った。あのまま迷い森にいたならば本物の龍をこの目で見る事が出来たと言う現実に今更ながらに震えが来る。
「先程、シェルツェインにも確認を取った。」
「それで…?」
「まだ、私達は対価を払っていないんだ。」
「………その、対価は何になる?」
レギル王子は国を、出るとまで言った?国にある物で払えるのならばそこまでする必要はない。何を、払うつもりなんだ?ヨシットの脳裏に嫌な考えが浮かぶ。いや、まさかと否定したくても、穏やかに笑っているレギル王子を見たらあながち間違えていない事がわかってしまう。
「分からん…!」
「はぁ?」
本日二回目の間の抜けた声を出すヨシット…
「本当に、分からん!…迷い森ではこちらは命を差し出すつもりだと龍に示したのが…」
「だが……?」
「キッパリと断られた。」
もう、カシュクールにそれ以上の宝は無い。王子一人の命で足りないならば後何人?レギル王子は自分以外の者を求められても差し出すつもりはなかったのだが…人の命以外に求められても今のカシュクールの国力では払い切れるのか…それほどにカシュクールの国力はまだ弱い…
「何も、求められなかったのだ……」
龍リレランはいらん、と言った。けれど謝意だけで済むものでは無いことも確か。人と龍は対等では無い。対価を払わない力の提供はいつかこの関係に破綻をきたす……それはシェルツェインからもよく習い知っていた。リレランの好意?に甘えてこれからの精霊との関係を崩したくは無い。少しの歪みが後に修復の効かない状態になるのがレギル王子には恐ろしい。
「だから、押し掛けることにした。」
「はい?」
「こちらからまた、向こうに出向こうと思っている。」
「レギル!それがどう言うことか、分かっているのか?」
国を出る………レギルはそう言った。もしかしたら、レギル王子の命を龍に恋われたら、そのまま差し出すと言うことだろう?
「国は…どうするんだ…?」
「……うん………」
現国王には妃が一人。そしてその子供はレギル王子のみ……精霊との遺恨を残さないのも重要だが、次期後継はどうするつもりなのか…?
「父上に…話してみようと思う…」
「そうなるだろうな………なぁ…」
二人の座る所には心地良いとしか思えない風が優しく吹き過ぎて行く。
「ん…?」
「最初から自分を差し出すつもりで、迷い森に行ったのか?」
「………必要であれば……そうした……」
「馬鹿だなぁ…お前…!」
ガシッ!!とヨシットはレギル王子の肩に逞しい腕を回す。
「なんで、先に相談してくれねぇのかなぁ……?」
「他の者を巻き込まないためと……私が…あの龍に魅せられてしまったからかな……もう一度…会ってみたい…」
「本当に…お前馬鹿だ!……もっと早くに言ってくれていれば、カシュクールに戻る前に…追い出してやったのに……!」
ヨシットが見ているレギル王子は、今までヨシットが見た事ない顔をしていた。何かを諦める覚悟を、追い求める決意をした者の眼だ…ヨシットも名のある騎士。覚悟を決めた者のこの目付きには覚えがある…。ならばなんの未練もなく、行かせてやりたいと思うのも友としては間違ってはいないだろう?
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