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19 どの地へ向かって?
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高く高く、産まれてから初めて自分の翼でこんなに高くまで登り詰めた…!なんと言う自由!開放感!若き龍リレランは何処までも行ける事に非常に喜びを感じていた。
思えば卵として産まれてから、ずっと蝶の谷で育ち何十年も、もしかしたら百年以上も出会った者は蝶達だけ…仲間の龍の姿さえ未だにこの目で見た事もない。
さて、そんな自分は今はこんなにも自由だ!さぁ、何処に行こう…きっとあの人間は国に帰る。思い煩う事がないのであればそのまま国で自分の役目を果たすだろう…だったら離れれば良い…彼から離れる…見つかりにくい所…
龍リレランはしばし空中に止まって気配を伺う…
蝶の谷まで来る人間が居るんだ。どんなに精霊が護る所に籠ろうともきっとあの人間には見つかりそうだ。だったら雑多な所に敢えて紛れてしまえばいい。木を隠すなら森。リレランは森でも木でもないが、またあの人間に合わないように見つかりにくい所にしばし身を置く事にした。
初めての外の世界にリレランはやや興奮している。見たいと思う所の状況を把握することは出来るが、実際の色や匂い音はまだ聞いた事もない。上空に舞い上がった時の風の音でさえ、卵から出たてのリレランにとっては興奮を誘う。
このまま世界を渡り歩くのも悪くないかもしれない。
雑多な人間の中にまみれて日々忙しく動き回るのもいいかもしれない…リレランは決めた。カシュクールから真反対の国に行く事を。そこにも人々が活発に動く所がある。もしどんな偶然にかあの人間がやって来ても、紛れて仕舞えばいいんだ。逃げて、さらに何処か深くにでも潜ってもう一度卵にでもなればいい。もう、あの輝きを見ないように、あの瞳を見ないように………
------------------
ソラリス国辺境の町、通称人材登録紹介所なるアーランにここ最近めっぽう強い用心棒がいるらしいとかなりの評判が立った。なんでも物凄い美しい容姿らしく、その手の者達が何度も拐かそうと手を出したようだが、全ての者を難なく返り討ちにしていると言う。
そして今では何でもそのめっぽう強い美人さんは用心棒としてアーランの町に居ついているそうだが、その人が何処から来たのか誰も知らない。ヒョイッと現れては困っている人や人攫いに拐かされそうな人々を助けて行くそうな…
「う~~ん……今日も暖かいなぁ。」
辺境の町アーラン…人材登録紹介所として世界中で知れ渡っている。辺境にしては大きな街で年中各国からの登録者が溢れんばかりに訪れる活気溢れる町。今や冒険者などは流行らないが、まだ未開地がそこ彼処にあるのも事実。年に数回時には国を挙げての調査や、仕方なく未開地に獲物や植物を採りにいく際の護衛として派遣事業を展開している。
そんな町に一獲千金とばかりに職を求めてやって来る若者達もいる。そして物を知らない若者をまた、金蔓として狙う輩もいるのが現実。
「嫌だってば!!離せったら!!」
「うるっせぃ!小娘が!黙れ!」
大柄な男の小脇に抱えられた少女がジタバタと暴れて降りようとしているのだが、何分男の腕は太く少女の力では外す事が出来ない様だ。
「んぅ~~ん!!んんぅぅうう!!」
「アニキ!急いでくだせえ!人が来ますよ!」
ガバッと口まで覆われてしまっては少女は叫び声もあげられないだろう。仲間の一人に促されてアニキと呼ばれた男は少女を抱えたまま森の奥へ消えていこうとしていた。
ここはアーランの町に向かう森から続く道だ。この道は森から出れば見渡し良くなる一本道だが、森に入ると急に鬱蒼と怪しく寂しい道となる。ここ最近、人攫いや拐かしが増えており、アーランへ向かった者達が一様に町に着く前に消えていた。他にも幾つか道はあるが、消えた者達はこの森の一本道を通らなければアーランにつく事が出来ない地域に住んでいた者達だった。
「ふ~~ん。僕の事もこうやって付けてたのかな?」
ストンと軽い音と共に、男達の前にまだ少年の域を出ていない若者が木の上から降りてきた。
「うわ!」
いきなり現れては驚くだろう。ありきたりの叫びを上げて、少女を抱えた男は後ずさった。
「あ!!アニキ!こいつだ!捕まえ損ねて大損したんだ!」
「ほ~~~こりゃまた、ものすげぇ破壊力の別嬪だなぁ…!」
男と、少女の前に現れたのは、ほっそりとした体つきの人物。琥珀色の透き通る瞳は柔らかい光を宿し男達を前にしても怯える様子もない。幼さが残る非常に整った顔立ちに白い肌、真珠色をした艶のある長い髪は無造作に結ばれていても十分に人目を引く魅力があった。
「そうっすよ!この間、逃がしちまったって、仲間達が話してた奴です!噂を聞いて高値で買うって!色んなところから話が出てるんすよ!」
「なら、逃せねぇな!おら!ちょっとこっち持ってろ!」
アニキから少し小柄に見える男へと抱えられた少女は移動する。
「ぷは!何するのよ!離して!」
これ幸いと更に暴れて逃れようとする少女。
「大人しくしろって!」
「嫌よ!誰が!あなた!早く逃げて!町へ行って助っ人を呼んで頂戴!じゃないとあなたまで捕まっちゃうわ!」
必死に抵抗してなんとか隙を作ろうとしている少女のなんと気丈な事だろうか。本当なら怖くて泣いてしまっても良いのに…
「大丈夫。こういうのには慣れているんだ。君、ちょっと目を瞑っていてごらん。」
ニッコリと笑う様は天使の様で…ウットリとその場にいた者達は見惚れてしまう所だった……
思えば卵として産まれてから、ずっと蝶の谷で育ち何十年も、もしかしたら百年以上も出会った者は蝶達だけ…仲間の龍の姿さえ未だにこの目で見た事もない。
さて、そんな自分は今はこんなにも自由だ!さぁ、何処に行こう…きっとあの人間は国に帰る。思い煩う事がないのであればそのまま国で自分の役目を果たすだろう…だったら離れれば良い…彼から離れる…見つかりにくい所…
龍リレランはしばし空中に止まって気配を伺う…
蝶の谷まで来る人間が居るんだ。どんなに精霊が護る所に籠ろうともきっとあの人間には見つかりそうだ。だったら雑多な所に敢えて紛れてしまえばいい。木を隠すなら森。リレランは森でも木でもないが、またあの人間に合わないように見つかりにくい所にしばし身を置く事にした。
初めての外の世界にリレランはやや興奮している。見たいと思う所の状況を把握することは出来るが、実際の色や匂い音はまだ聞いた事もない。上空に舞い上がった時の風の音でさえ、卵から出たてのリレランにとっては興奮を誘う。
このまま世界を渡り歩くのも悪くないかもしれない。
雑多な人間の中にまみれて日々忙しく動き回るのもいいかもしれない…リレランは決めた。カシュクールから真反対の国に行く事を。そこにも人々が活発に動く所がある。もしどんな偶然にかあの人間がやって来ても、紛れて仕舞えばいいんだ。逃げて、さらに何処か深くにでも潜ってもう一度卵にでもなればいい。もう、あの輝きを見ないように、あの瞳を見ないように………
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ソラリス国辺境の町、通称人材登録紹介所なるアーランにここ最近めっぽう強い用心棒がいるらしいとかなりの評判が立った。なんでも物凄い美しい容姿らしく、その手の者達が何度も拐かそうと手を出したようだが、全ての者を難なく返り討ちにしていると言う。
そして今では何でもそのめっぽう強い美人さんは用心棒としてアーランの町に居ついているそうだが、その人が何処から来たのか誰も知らない。ヒョイッと現れては困っている人や人攫いに拐かされそうな人々を助けて行くそうな…
「う~~ん……今日も暖かいなぁ。」
辺境の町アーラン…人材登録紹介所として世界中で知れ渡っている。辺境にしては大きな街で年中各国からの登録者が溢れんばかりに訪れる活気溢れる町。今や冒険者などは流行らないが、まだ未開地がそこ彼処にあるのも事実。年に数回時には国を挙げての調査や、仕方なく未開地に獲物や植物を採りにいく際の護衛として派遣事業を展開している。
そんな町に一獲千金とばかりに職を求めてやって来る若者達もいる。そして物を知らない若者をまた、金蔓として狙う輩もいるのが現実。
「嫌だってば!!離せったら!!」
「うるっせぃ!小娘が!黙れ!」
大柄な男の小脇に抱えられた少女がジタバタと暴れて降りようとしているのだが、何分男の腕は太く少女の力では外す事が出来ない様だ。
「んぅ~~ん!!んんぅぅうう!!」
「アニキ!急いでくだせえ!人が来ますよ!」
ガバッと口まで覆われてしまっては少女は叫び声もあげられないだろう。仲間の一人に促されてアニキと呼ばれた男は少女を抱えたまま森の奥へ消えていこうとしていた。
ここはアーランの町に向かう森から続く道だ。この道は森から出れば見渡し良くなる一本道だが、森に入ると急に鬱蒼と怪しく寂しい道となる。ここ最近、人攫いや拐かしが増えており、アーランへ向かった者達が一様に町に着く前に消えていた。他にも幾つか道はあるが、消えた者達はこの森の一本道を通らなければアーランにつく事が出来ない地域に住んでいた者達だった。
「ふ~~ん。僕の事もこうやって付けてたのかな?」
ストンと軽い音と共に、男達の前にまだ少年の域を出ていない若者が木の上から降りてきた。
「うわ!」
いきなり現れては驚くだろう。ありきたりの叫びを上げて、少女を抱えた男は後ずさった。
「あ!!アニキ!こいつだ!捕まえ損ねて大損したんだ!」
「ほ~~~こりゃまた、ものすげぇ破壊力の別嬪だなぁ…!」
男と、少女の前に現れたのは、ほっそりとした体つきの人物。琥珀色の透き通る瞳は柔らかい光を宿し男達を前にしても怯える様子もない。幼さが残る非常に整った顔立ちに白い肌、真珠色をした艶のある長い髪は無造作に結ばれていても十分に人目を引く魅力があった。
「そうっすよ!この間、逃がしちまったって、仲間達が話してた奴です!噂を聞いて高値で買うって!色んなところから話が出てるんすよ!」
「なら、逃せねぇな!おら!ちょっとこっち持ってろ!」
アニキから少し小柄に見える男へと抱えられた少女は移動する。
「ぷは!何するのよ!離して!」
これ幸いと更に暴れて逃れようとする少女。
「大人しくしろって!」
「嫌よ!誰が!あなた!早く逃げて!町へ行って助っ人を呼んで頂戴!じゃないとあなたまで捕まっちゃうわ!」
必死に抵抗してなんとか隙を作ろうとしている少女のなんと気丈な事だろうか。本当なら怖くて泣いてしまっても良いのに…
「大丈夫。こういうのには慣れているんだ。君、ちょっと目を瞑っていてごらん。」
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