2 / 72
2 塔の精霊
しおりを挟む
コツコツコツ…高い塔に靴の音が高く低く響いていく。城内の端の端、一塔高く高くそびえ立っている塔がある。
風の塔。建国間際の王様が世にいる精霊と契約を結んだために建てられたとか…この塔に住むのは風の精霊シェルツェイン…レギル王子が会おうとしている精霊だ。
風の塔は高くそびえ立ち、頂上に出るといくつかの支柱に支えられた雨除けにもならぬ天蓋が今も強風に煽られはためいている。ここは上空の風を大いに受け、全世界の風とつながる場所で、風を統べる彼女のお気に入りの場所だ。
「シェルツェイン!!シェル!!」
精霊を愛称で呼ぶ事を許されている者は多くは無い。カシュクール国王族で次期継承者であるレギル王子だから許されている。
"ここよ…レギル…"
不思議な声…肉声ではない声だがいつ聞いても耳に心地いい。
「話せるか?」
"ええ…いいわ…今戻るから…"
レギル王子の前に小さな竜巻が現れる…ギュウッと凝縮していくその中に、一人の女性の形を取った精霊シェルツェインが現れた。
"ギル精霊語で話しましょう"
肉体を持っていないシェルツェインには人の言葉は難しい。
"分かった、呼び立ててすまない"
"いいの。何かあった?……あぁ、あれね?"
風はどこまでも制約がない。国境も言葉の区別も彼等には関係ないものだ。シェルツェインも世界を渡り歩き、カシュクールの現場も理解しているのだろう。シェルツェインはカシュクール国の情報網であり、精霊についてレギル王子に手解きをする良い教師だ。
"現状を回復したい、出来たら全ての解決を"
しばしの間………目を瞑ったような彼女の所作は何かを考えあぐねている様に見える。
精霊は人間にはほとんど干渉してこない。地上に何が起ころうとも、自分達が守るべき領域を侵されない限り他者に干渉もして来ないのが通常だ。
"ギル………"
静かにシェルツェインの瞳が開く。彼女の一つ一つの動作にも音はない…
"……それは、無理ね…"
キッパリと、何の感慨もなくシェルツェインは言い切った。
"無理?何故に?解決策は無いのか!!"
レギル王子は焦っていた。いかに自分に憎まれ口を囁く様な国民でも、幼い子供達や弱い者たちがボロボロと犠牲になって行くのは見ていられなかった。解決策の糸口でも、と思いここまで来たのだ。
"落ち着きなさい。ギル。焦りは全てを狂わせるわ。無理なのは、私がするという事が無理なの。"
"シェルでも干渉できないのか?"
レギル王子はしばし茫然とする。何にも縛られる事がない精霊が?
"ギル…何事も理があるの…良く話し聞かせていたでしょう?私達を縛る物もあるのよ。"
"シェル?何と契約をしているんだ?"
精霊の契約。精霊自身が結んだものに精霊は縛られる。ここカシュクールにシェルツェインが止まっているのも過去の契約故にだ。
そして、契約内容は契約者のみと共有するもの。他者の介入を許さない。それをシェルツェインから学んできたにもかかわらず、思わず、レギル王子は聞いてしまう。これに答えるのも契約に反することになるのにだ……
"……………龍とよ……"
シェルツェインの言葉にレギル王子が驚愕し、目を開く…瞬間、シェルツェインの体が音も無く歪み始める…
"シェル!!"
"……理は私達の存在を縛るものよ。ギル、覚えておいて…"
"だが、龍など…!最早既にいない種族では無いのか?"
過去数百年龍の目撃情報は無い。最早御伽噺の架空の生物になっている。
"知性も…力も無い龍は確かにほぼ滅び去ったわね…でも、古の龍達はまだ息づいているわ…"
"龍等どこに……"
この地に干渉している龍を探し出し干渉を解いてもらう…これがシェルツェインの出した解決案…
"私の消滅が見たいのなら、この先を話すけど?"
竜巻が乱れ、シェルツェインの体が歪む…
"シェル!!そんな事、望むものか!"
"ギル…私の可愛い子…貴方なら龍を見つけることが出来るはず…精霊の愛子の貴方なら…
貴方のその目…確かに龍を見、引き寄せるものよ…"
言い終わると、パッとシェルツェインの姿は消えた。
「シェル!!!」
"大丈夫…姿が保てなくなっただけ…これ位では消滅しない…"
レギル王子はシェルツェインの返答に大きく安堵した。シェルツェインは幼き頃からのレギル王子の良き理解者の一人で、精霊語の教師…世界の理に至るまでレギル王子の見聞を大きく広げてくれた存在でレギル王子にとっては大切な人の中の一人だった。
「シェル!!感謝する!!」
"精霊の愛子…私は約束を守ったわ…"
シェルツェインはそう言い置いて、その場を去った…
「何と!龍ですと?」
「そうだカリス。シェルツェインははっきりとそう言っていた……」
「しかし、目撃証言など……」
そう、無い。今、この時代に竜を見て生き残っている者が居ない…御伽噺か夢を追っていく様な物。国の崩壊は刻一刻と迫っているこの時にそんな眉唾な物に縋るべきかどうか………
大臣達は揃いも揃って頭を抱え込んだ。
風の塔。建国間際の王様が世にいる精霊と契約を結んだために建てられたとか…この塔に住むのは風の精霊シェルツェイン…レギル王子が会おうとしている精霊だ。
風の塔は高くそびえ立ち、頂上に出るといくつかの支柱に支えられた雨除けにもならぬ天蓋が今も強風に煽られはためいている。ここは上空の風を大いに受け、全世界の風とつながる場所で、風を統べる彼女のお気に入りの場所だ。
「シェルツェイン!!シェル!!」
精霊を愛称で呼ぶ事を許されている者は多くは無い。カシュクール国王族で次期継承者であるレギル王子だから許されている。
"ここよ…レギル…"
不思議な声…肉声ではない声だがいつ聞いても耳に心地いい。
「話せるか?」
"ええ…いいわ…今戻るから…"
レギル王子の前に小さな竜巻が現れる…ギュウッと凝縮していくその中に、一人の女性の形を取った精霊シェルツェインが現れた。
"ギル精霊語で話しましょう"
肉体を持っていないシェルツェインには人の言葉は難しい。
"分かった、呼び立ててすまない"
"いいの。何かあった?……あぁ、あれね?"
風はどこまでも制約がない。国境も言葉の区別も彼等には関係ないものだ。シェルツェインも世界を渡り歩き、カシュクールの現場も理解しているのだろう。シェルツェインはカシュクール国の情報網であり、精霊についてレギル王子に手解きをする良い教師だ。
"現状を回復したい、出来たら全ての解決を"
しばしの間………目を瞑ったような彼女の所作は何かを考えあぐねている様に見える。
精霊は人間にはほとんど干渉してこない。地上に何が起ころうとも、自分達が守るべき領域を侵されない限り他者に干渉もして来ないのが通常だ。
"ギル………"
静かにシェルツェインの瞳が開く。彼女の一つ一つの動作にも音はない…
"……それは、無理ね…"
キッパリと、何の感慨もなくシェルツェインは言い切った。
"無理?何故に?解決策は無いのか!!"
レギル王子は焦っていた。いかに自分に憎まれ口を囁く様な国民でも、幼い子供達や弱い者たちがボロボロと犠牲になって行くのは見ていられなかった。解決策の糸口でも、と思いここまで来たのだ。
"落ち着きなさい。ギル。焦りは全てを狂わせるわ。無理なのは、私がするという事が無理なの。"
"シェルでも干渉できないのか?"
レギル王子はしばし茫然とする。何にも縛られる事がない精霊が?
"ギル…何事も理があるの…良く話し聞かせていたでしょう?私達を縛る物もあるのよ。"
"シェル?何と契約をしているんだ?"
精霊の契約。精霊自身が結んだものに精霊は縛られる。ここカシュクールにシェルツェインが止まっているのも過去の契約故にだ。
そして、契約内容は契約者のみと共有するもの。他者の介入を許さない。それをシェルツェインから学んできたにもかかわらず、思わず、レギル王子は聞いてしまう。これに答えるのも契約に反することになるのにだ……
"……………龍とよ……"
シェルツェインの言葉にレギル王子が驚愕し、目を開く…瞬間、シェルツェインの体が音も無く歪み始める…
"シェル!!"
"……理は私達の存在を縛るものよ。ギル、覚えておいて…"
"だが、龍など…!最早既にいない種族では無いのか?"
過去数百年龍の目撃情報は無い。最早御伽噺の架空の生物になっている。
"知性も…力も無い龍は確かにほぼ滅び去ったわね…でも、古の龍達はまだ息づいているわ…"
"龍等どこに……"
この地に干渉している龍を探し出し干渉を解いてもらう…これがシェルツェインの出した解決案…
"私の消滅が見たいのなら、この先を話すけど?"
竜巻が乱れ、シェルツェインの体が歪む…
"シェル!!そんな事、望むものか!"
"ギル…私の可愛い子…貴方なら龍を見つけることが出来るはず…精霊の愛子の貴方なら…
貴方のその目…確かに龍を見、引き寄せるものよ…"
言い終わると、パッとシェルツェインの姿は消えた。
「シェル!!!」
"大丈夫…姿が保てなくなっただけ…これ位では消滅しない…"
レギル王子はシェルツェインの返答に大きく安堵した。シェルツェインは幼き頃からのレギル王子の良き理解者の一人で、精霊語の教師…世界の理に至るまでレギル王子の見聞を大きく広げてくれた存在でレギル王子にとっては大切な人の中の一人だった。
「シェル!!感謝する!!」
"精霊の愛子…私は約束を守ったわ…"
シェルツェインはそう言い置いて、その場を去った…
「何と!龍ですと?」
「そうだカリス。シェルツェインははっきりとそう言っていた……」
「しかし、目撃証言など……」
そう、無い。今、この時代に竜を見て生き残っている者が居ない…御伽噺か夢を追っていく様な物。国の崩壊は刻一刻と迫っているこの時にそんな眉唾な物に縋るべきかどうか………
大臣達は揃いも揃って頭を抱え込んだ。
0
お気に入りに追加
162
あなたにおすすめの小説
悩める文官のひとりごと
きりか
BL
幼い頃から憧れていた騎士団に入りたくても、小柄でひ弱なリュカ・アルマンは、学校を卒業と同時に、文官として騎士団に入団する。方向音痴なリュカは、マルーン副団長の部屋と間違え、イザーク団長の部屋に入り込む。
そこでは、惚れ薬を口にした団長がいて…。
エチシーンが書けなくて、朝チュンとなりました。
ムーンライト様にも掲載しております。
兄のやり方には思うところがある!
野犬 猫兄
BL
完結しました。お読みくださりありがとうございます!
少しでも楽しんでいただけたら嬉しいです!
第10回BL小説大賞では、ポイントを入れてくださった皆様、そしてお読みくださった皆様、どうもありがとうございました!m(__)m
■■■
特訓と称して理不尽な行いをする兄に翻弄されながらも兄と向き合い仲良くなっていく話。
無関心ロボからの執着溺愛兄×無自覚人たらしな弟
コメディーです。
異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた
りゅう
ファンタジー
異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。
いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。
その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。
繋がれた絆はどこまでも
mahiro
BL
生存率の低いベイリー家。
そんな家に生まれたライトは、次期当主はお前であるのだと父親である国王は言った。
ただし、それは公表せず表では双子の弟であるメイソンが次期当主であるのだと公表するのだという。
当主交代となるそのとき、正式にライトが当主であるのだと公表するのだとか。
それまでは国を離れ、当主となるべく教育を受けてくるようにと指示をされ、国を出ることになったライト。
次期当主が発表される数週間前、ライトはお忍びで国を訪れ、屋敷を訪れた。
そこは昔と大きく異なり、明るく温かな空気が流れていた。
その事に疑問を抱きつつも中へ中へと突き進めば、メイソンと従者であるイザヤが突然抱き合ったのだ。
それを見たライトは、ある決意をし……?
平凡な男子高校生が、素敵な、ある意味必然的な運命をつかむお話。
しゅ
BL
平凡な男子高校生が、非凡な男子高校生にベタベタで甘々に可愛がられて、ただただ幸せになる話です。
基本主人公目線で進行しますが、1部友人達の目線になることがあります。
一部ファンタジー。基本ありきたりな話です。
それでも宜しければどうぞ。
新しい道を歩み始めた貴方へ
mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。
そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。
その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。
あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。
あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……?
※沢山のお気に入り登録ありがとうございます。深く感謝申し上げます。
すべてを奪われた英雄は、
さいはて旅行社
BL
アスア王国の英雄ザット・ノーレンは仲間たちにすべてを奪われた。
隣国の神聖国グルシアの魔物大量発生でダンジョンに潜りラスボスの魔物も討伐できたが、そこで仲間に裏切られ黒い短剣で刺されてしまう。
それでも生き延びてダンジョンから生還したザット・ノーレンは神聖国グルシアで、王子と呼ばれる少年とその世話役のヴィンセントに出会う。
すべてを奪われた英雄が、自分や仲間だった者、これから出会う人々に向き合っていく物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる