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2 お父様は皇子様 2

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 カコール皇国皇帝は自他共に認める子供好きだ。それは疚しい意味でのものでは無くて、元々この皇帝は子煩悩な男であった。がしかし、寂しいかな。カコール皇国の皇室はなかなか子供に恵まれず、次期皇帝となる皇太子のみしか子供は産まれなかったのである。家族の内情に少し寂しさを感じていた皇帝の元にある日一報が入った。それは皇帝が帝位に就く際に臣下として降った弟夫婦の、事故による急逝の知らせであった。皇帝の弟夫婦には一人息子がいた。幸いな事にこの甥だけは事故に巻き込まれずに一命を取り留めたのだった。
 知らせを受けた皇帝は周囲に有無を言わせずこの甥を自分の第二皇子として皇室に迎え入れたのである。

「私は兄上の邪魔などしたくは無いのだ!」

 本人にその気があろうとなかろうと、周囲の者達の口を閉じる事は不可能に近い。また第二皇子としての自分の存在を利用して次期皇帝として担ぎ上げようとする者を全て排除することもまた不可能に近い。だから、城を、国を出る。自分を慈しみ、本当の子供の様に愛してくれた家族を守る為に…

 皇太子である兄皇子は子宝に恵まれ、既に3人の皇子がいる。皇太子のスペアの様な役割も既にいらないのである。ランドムが居なくなったとしても何ら問題はなかったのだ。

「…しかし……!」

 騎士として皇族を守って来た者達からしてはランドムもまた敬愛すべき皇族の一人だ。既にランドムの中では片がついている事でも納得はいかないのかもしれない。

「両陛下に伝えてくれ…!このランドム、ご恩は一生忘れませんと!他国にいても大なり小なり必ずお力になりましょうと!」

 若き日のランドムのこの宣言通り、カコール皇国からイリュアナ国に嫁いだイリュアナ国前王妃ミュリョンが毒殺された際には、イリュアナ国王の無念とカコール皇国の威信をかけてあらゆる毒物の種類を調べる為に持てる限りの商人としての情報網を駆使し、毒物のその作用から解毒薬に至るまでの情報をイリュアナ国側に提供して来た。ランドムの名は出せないが、ミュリョン王妃の縁者であるカザラント子爵家を通して出来うる限りを尽くしたのもランドムであったのだ。














 ルシュルト王太子とサラータ王太子妃の喜ばしき初夜の儀もスムーズに済んだある日の事。その後毎日の様に非常に近しい距離で日常を送るものだから、王太子夫妻の仲睦まじさを知らぬ者は王都にはいないほどになった。
 そんな毎日が続くものだから、サラータとて重要な事に気がつくのが遅くなったのだ。それもそのはずサラータにとってのルシュルトとの婚姻は、非日常が一気に襲って来た様なものであって、ゆっくりと常識に照らし合わせて自分の置かれている状況を考えながら把握する事は全くと言うほどできなかったのだから。
 やっと、という様に夫婦のイロハを堪能しつつ慣れて来たであろう今日この頃、常に、非常に近すぎるルシュルトに戸惑いながらも、浮かんでくる疑問を口にする事ができるようになった。

「ルシー、少し聞きたいのだけど…?」

「サラ、何?何か食べたい物でもある?」

 この頃疲れのせいか若干食が進まないサラのために、ルシュルトは時折公務を抜け出してはサラに軽食を持参してお茶をするのだ。

「いえ、違うのです。」

 少し改まった様なサラータの表情。つい、ルシュルトも姿勢を正す。

「私達の婚姻のことなんですが、誰からもどなたからも、未だに反対の声が聞こえてこないのですが……?」

 そうなのだ。非常に驚くべき事に、商人の娘であるサラータと王太子の婚姻だ。最初から身分云々でサラータは婚約者候補としても弾かれて致し方ないものだと思えるのに…未だに王室に対する非難の声さえも聞こえてはこないのだ。それよりも巷では早くもおしどり夫婦としてルシュルト王太子夫妻の噂が飛び回り、筒が無い夫婦生活にあやかろうとサラータがしばし滞在した王都のカザラント子爵邸が観光名所にまでなっていると聞いて、目が飛び出るくらいにサラータは驚いたのだった。

「サラ!もしかして、私の事が嫌になったのか!?」
 
 ルシュルトのこの質問には、後ろに控える護衛や侍女からグッとか、ウッとかの声にならない声を誘発させるには十分であったようで………ハダートン卿などは見たこともない様な渋い顔をしてルシュルトを凝視している。

「は?え?いえ!?私が?ルシーを嫌になるの?え、ちょっと待ってください!?」

 ルシュルトを嫌うことなんて頭の隅にもなかったサラータは軽く混乱してしまう。

 今の発言のどこに嫌だと思う要素があったのか?

「殿下、少し落ち着かれませ。王太子妃殿下が先をお話になれませんわ。」

 やれやれと言いたそうな侍女長ポーラに促され、サラータはやっと先に進む。

「ですから、私は商人の出てしょう?身分差なんて天と地ほどもあるのに、どなたからも嗜められませんでしたよね?」

 だから、なぜなのかと…

 一国の王太子であってもその国の貴族から反対の声が上がったのならば、例え両者思いあっていても破談となってもおかしくはないのだから……

「良く、国王様がお許しになったと。」

 今更といえば、今更な疑問であった。






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