上 下
63 / 74

63 亡国の姫君の恋煩い 1

しおりを挟む
 イリュアナ国国王から異例の要請があったのは、特例中の特例であったルシュルト王太子の結婚式の直後であった。

「お兄様、どうなさるおつもりです?」

 ベストク公爵家リビングにおいて、涼しい顔をしたベストク公爵とその妹であるシェリン嬢が向かい合ってお茶を楽しんでいるところだ。

「どうもこうもなく、国王からの命だろう?」

「では、お受けしても宜しいのですね?」

「ん~シェリンはどう思う?」

「どうもこうも……我が家は王都を追われるものと思っておりましたから。」

「それは無いだろう。親戚筋の者達はどうか知らんが、私達にその気は全く無いからね。」

「ええ、勿論ですわ。王太子妃になれなれと言われていても、王太子殿下の方から拒否されすぎていますもの。そんなに見込みが無いものにしがみつきとうはありません。」

 涼しやかなベストク公爵とそっくりのシェリン嬢も表情の読めない顔で肯き返す。

「この度の事は私達には責はない、と国王からもお言葉を頂いているし、お前は何の呵責も無く城へ上がれば良いのでは無いか?」

「城へ…ですか。」

「なんだ?もっと喜ぶかと思っていたのだが?」

 今回国王からあった要請は王太子妃となったサラータ王太子妃の教育係であった。一通りの礼儀作法には問題なくても王家に関わる作法やら城の中での催し物のあれこれ等は妃候補となっていた者達の中から指導する者を選び出したいと言うのが王の考えだ。

 ルシュルト王太子の婚礼直前に、見事に毒入りの茶葉を差し出してきた者達の足取りを掴む事ができた国王側は、その者達がベストク公爵家に関わらない者達であるという事の裏をとってあるのだ。しかし一部の者達はベストク公爵側の陰謀と捉え、ベストク公爵家とその親族筋を無用に敵視している節も見受けられてきていた。滅びた亡国の末裔とはいえ、ベストク公爵家はあくまでもイリュアナ国の公爵家だ。このままいけば国内の貴族同士の力の均衡が崩れてしまう恐れも出てくる。
 だから国王側はこの懸念を払拭させる為にシェリン嬢に白羽の矢を立ててきた。王太子妃の教育係として登城させる事により、ベストク公爵家への疑惑を晴らすのだ。

「お前とて良い機会だろう?久しぶりに麗しの君の姿を存分に拝んでくれば良いだろう。」

 麗しの君………幼いシェリン嬢が密かにそうあだ名をつけてしばし憧れていた騎士がいる。その騎士は主に城内での勤務が多いだろう事から城の中に行けば会えるのだろう。

「……拝むだけで、済んでいた頃が懐かしいですわね……」

 次期王太子妃とまで周囲に望まれていたシェリン嬢だが、こうなってみて本当に王太子妃になどならなくて良かったと思っている。妃となって城へ上がれば否応なく麗しの君の顔を拝む機会は増えるだろうが、それだけまた自分の心も傷つくだろうと分かってしまっているからだ。幼い頃の憧れが、いつしか心に本気の根を下ろし、恋心と言う花を咲かせていた事に気がついたのはつい、最近のことなのだから…










しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【実話】高1の夏休み、海の家のアルバイトはイケメンパラダイスでした☆

Rua*°
恋愛
高校1年の夏休みに、友達の彼氏の紹介で、海の家でアルバイトをすることになった筆者の実話体験談を、当時の日記を見返しながら事細かに綴っています。 高校生活では、『特別進学コースの選抜クラス』で、毎日勉強の日々で、クラスにイケメンもひとりもいない状態。ハイスペックイケメン好きの私は、これではモチベーションを保てなかった。 つまらなすぎる毎日から脱却を図り、部活動ではバスケ部マネージャーになってみたが、意地悪な先輩と反りが合わず、夏休み前に退部することに。 夏休みこそは、楽しく、イケメンに囲まれた、充実した高校生ライフを送ろう!そう誓った筆者は、海の家でバイトをする事に。 そこには女子は私1人。逆ハーレム状態。高校のミスターコンテスト優勝者のイケメンくんや、サーフ雑誌に載ってるイケメンくん、中学時代の憧れの男子と過ごしたひと夏の思い出を綴ります…。 バスケ部時代のお話はコチラ⬇ ◇【実話】高1バスケ部マネ時代、個性的イケメンキャプテンにストーキングされたり集団で囲まれたり色々あったけどやっぱり退部を選択しました◇

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

辺境伯令息の婚約者に任命されました

風見ゆうみ
恋愛
家が貧乏だからという理由で、男爵令嬢である私、クレア・レッドバーンズは婚約者であるムートー子爵の家に、子供の頃から居候させてもらっていた。私の婚約者であるガレッド様は、ある晩、一人の女性を連れ帰り、私との婚約を破棄し、自分は彼女と結婚するなどとふざけた事を言い出した。遊び呆けている彼の仕事を全てかわりにやっていたのは私なのにだ。 婚約破棄され、家を追い出されてしまった私の前に現れたのは、ジュード辺境伯家の次男のイーサンだった。 ガレッド様が連れ帰ってきた女性は彼の元婚約者だという事がわかり、私を気の毒に思ってくれた彼は、私を彼の家に招き入れてくれることになって……。 ※筆者が考えた異世界の世界観であり、設定はゆるゆるで、ご都合主義です。クズがいますので、ご注意下さい。

美しい公爵様の、凄まじい独占欲と溺れるほどの愛

らがまふぃん
恋愛
 こちらは以前投稿いたしました、 美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛 の続編となっております。前作よりマイルドな作品に仕上がっておりますが、内面のダークさが前作よりはあるのではなかろうかと。こちらのみでも楽しめるとは思いますが、わかりづらいかもしれません。よろしかったら前作をお読みいただいた方が、より楽しんでいただけるかと思いますので、お時間の都合のつく方は、是非。時々予告なく残酷な表現が入りますので、苦手な方はお控えください。 *早速のお気に入り登録、しおり、エールをありがとうございます。とても励みになります。前作もお読みくださっている方々にも、多大なる感謝を! ※R5.7/23本編完結いたしました。たくさんの方々に支えられ、ここまで続けることが出来ました。本当にありがとうございます。ばんがいへんを数話投稿いたしますので、引き続きお付き合いくださるとありがたいです。この作品の前作が、お気に入り登録をしてくださった方が、ありがたいことに200を超えておりました。感謝を込めて、前作の方に一話、近日中にお届けいたします。よろしかったらお付き合いください。 ※R5.8/6ばんがいへん終了いたしました。長い間お付き合いくださり、また、たくさんのお気に入り登録、しおり、エールを、本当にありがとうございました。 ※R5.9/3お気に入り登録200になっていました。本当にありがとうございます(泣)。嬉しかったので、一話書いてみました。 ※R5.10/30らがまふぃん活動一周年記念として、一話お届けいたします。 ※R6.1/27美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛(前作) と、こちらの作品の間のお話し 美しく冷酷な公爵令息様の、狂おしい熱情に彩られた愛 始めました。お時間の都合のつく方は、是非ご一読くださると嬉しいです。 *らがまふぃん活動二周年記念として、R6.11/4に一話お届けいたします。少しでも楽しんでいただけますように。

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!

gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ? 王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。 国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから! 12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

愛など初めからありませんが。

ましろ
恋愛
お金で売られるように嫁がされた。 お相手はバツイチ子持ちの伯爵32歳。 「君は子供の面倒だけ見てくれればいい」 「要するに貴方様は幸せ家族の演技をしろと仰るのですよね?ですが、子供達にその様な演技力はありますでしょうか?」 「……何を言っている?」 仕事一筋の鈍感不器用夫に嫁いだミッシェルの未来はいかに? ✻基本ゆるふわ設定。箸休め程度に楽しんでいただけると幸いです。

殿下が恋をしたいと言うのでさせてみる事にしました。婚約者候補からは外れますね

さこの
恋愛
恋がしたい。 ウィルフレッド殿下が言った… それではどうぞ、美しい恋をしてください。 婚約者候補から外れるようにと同じく婚約者候補のマドレーヌ様が話をつけてくださりました! 話の視点が回毎に変わることがあります。 緩い設定です。二十話程です。 本編+番外編の別視点

幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。

秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚 13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。 歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。 そしてエリーゼは大人へと成長していく。 ※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。 小説家になろう様にも掲載しています。

処理中です...