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63 亡国の姫君の恋煩い 1
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イリュアナ国国王から異例の要請があったのは、特例中の特例であったルシュルト王太子の結婚式の直後であった。
「お兄様、どうなさるおつもりです?」
ベストク公爵家リビングにおいて、涼しい顔をしたベストク公爵とその妹であるシェリン嬢が向かい合ってお茶を楽しんでいるところだ。
「どうもこうもなく、国王からの命だろう?」
「では、お受けしても宜しいのですね?」
「ん~シェリンはどう思う?」
「どうもこうも……我が家は王都を追われるものと思っておりましたから。」
「それは無いだろう。親戚筋の者達はどうか知らんが、私達にその気は全く無いからね。」
「ええ、勿論ですわ。王太子妃になれなれと言われていても、王太子殿下の方から拒否されすぎていますもの。そんなに見込みが無いものにしがみつきとうはありません。」
涼しやかなベストク公爵とそっくりのシェリン嬢も表情の読めない顔で肯き返す。
「この度の事は私達には責はない、と国王からもお言葉を頂いているし、お前は何の呵責も無く城へ上がれば良いのでは無いか?」
「城へ…ですか。」
「なんだ?もっと喜ぶかと思っていたのだが?」
今回国王からあった要請は王太子妃となったサラータ王太子妃の教育係であった。一通りの礼儀作法には問題なくても王家に関わる作法やら城の中での催し物のあれこれ等は妃候補となっていた者達の中から指導する者を選び出したいと言うのが王の考えだ。
ルシュルト王太子の婚礼直前に、見事に毒入りの茶葉を差し出してきた者達の足取りを掴む事ができた国王側は、その者達がベストク公爵家に関わらない者達であるという事の裏をとってあるのだ。しかし一部の者達はベストク公爵側の陰謀と捉え、ベストク公爵家とその親族筋を無用に敵視している節も見受けられてきていた。滅びた亡国の末裔とはいえ、ベストク公爵家はあくまでもイリュアナ国の公爵家だ。このままいけば国内の貴族同士の力の均衡が崩れてしまう恐れも出てくる。
だから国王側はこの懸念を払拭させる為にシェリン嬢に白羽の矢を立ててきた。王太子妃の教育係として登城させる事により、ベストク公爵家への疑惑を晴らすのだ。
「お前とて良い機会だろう?久しぶりに麗しの君の姿を存分に拝んでくれば良いだろう。」
麗しの君………幼いシェリン嬢が密かにそうあだ名をつけてしばし憧れていた騎士がいる。その騎士は主に城内での勤務が多いだろう事から城の中に行けば会えるのだろう。
「……拝むだけで、済んでいた頃が懐かしいですわね……」
次期王太子妃とまで周囲に望まれていたシェリン嬢だが、こうなってみて本当に王太子妃になどならなくて良かったと思っている。妃となって城へ上がれば否応なく麗しの君の顔を拝む機会は増えるだろうが、それだけまた自分の心も傷つくだろうと分かってしまっているからだ。幼い頃の憧れが、いつしか心に本気の根を下ろし、恋心と言う花を咲かせていた事に気がついたのはつい、最近のことなのだから…
「お兄様、どうなさるおつもりです?」
ベストク公爵家リビングにおいて、涼しい顔をしたベストク公爵とその妹であるシェリン嬢が向かい合ってお茶を楽しんでいるところだ。
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