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50 ルシーの結婚式 5
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「どなたが、来ると?」
完璧に支度を終えているのに、サラータは置いてきぼりにされてしまって呆然と両親の去っていった廊下の先を見つめる。
「あ、お嬢様、来られましたわ。」
微かな靴音がまばらに響いて来るのが聞こえると、侍女レイユがサラータのパートナーの到着を告げた。
「来られた?」
サラータが振り返った先には見知った人が…
「ルシュルト王太子、殿下?」
「左様です。」
深く頭を下げてレイユはその場を下がっていく。
「サラ…随分と待たせてしまったかな?」
サラ…といつのまにかに愛称でサラータのことを呼ぶルシュルト王太子は白を基調とした王家の礼服を優雅に着こなし、腰には式典用の豪奢な剣を帯剣している。いつも無造作に流されている琥珀色の長めの前髪は、今日は緩やかに後ろへと撫で付け整えていた。ルシーと同じ薄紫の瞳はこんな時も変わらずに優しくサラータを見つめて来る。
「あの……?」
レイユやサラータの両親が言っていたサラータのパートナーとは数名の近衛と侍女を伴ってこの場に現れたルシュルトなのだろう。
「サラ……物凄く綺麗だ…良く似合っている。きっとサラなら何を着ても良く映える。」
堪えられないとばかりにルシュルト王太子はサラータの手を取りその甲に唇を落とした。
「あの…!」
「ん…?」
小首を傾げて見つめて来るルシュルト王太子の瞳がこれ以上なく優しいのは何故だろう。
「今日は、ルシーの結婚式で…」
「……そうだね…」
ルシュルト王太子は王家の礼服であり正装だ…それも…花婿の色の………
「貴方様が……ルシーの…?」
(こんなに、双子の様な二人が、夫婦になる……?)
絵的にはきっと夢の様に素晴らしい夫婦像になるに違いないと思うのだが……きっと王太子という立場の方との婚姻のためにルシーは何も言えなかったのかもしれない…そう、思うのだが、何故だかサラータの心の中は複雑だ…あれだけ、友人の中でも親友と言ってもいいほど大好きな人の結婚式なのだから、これだけお似合いの二人ならば諸手を挙げてお祝いすべきなのに…喜びや嬉しさよりも、何というか…置いて行かれたような、何かを失ったような奇妙な感覚に囚われてしまってサラータは混乱して来る。
「ルシーにはしばらく会っていないだろ?」
「…?…えぇ…それはお式の準備に忙しかったと思いますし…」
(ルシーの話…?やはり、ルシュルト様がルシーの婚約者なのね…)
「ん~身体がね…もう限界だって…」
「…?…ルシーの身体、ですか?まさか、体調を崩しているのですか?」
(それなのに今日の式は無理やりに…!?)
「フフ、違うよ。物凄く元気だ。」
ルシュルト王太子は困ったようにそれでも物凄く楽しそうにクスクスと笑う。
「…良かった…」
一瞬で緊張が走ったサラータの身体から力が抜ける…
「可愛いな……」
「はい?…何か仰いました?」
「いや、ね。首元が少し寂しそうだと思って。」
ルシュルト王太子の言葉に反応するように侍女カーラが小箱を持って進み出てきた。
「ほら、これなんかどうかな?」
ルシュルト王太子が小箱から出したものは、小ぶりの石を組み合わせて花の形を連ねた合わせたネックレスだ。
「こういうのが好きだったろう?」
見る角度によっては薄紫から濃い紫に色味が変わる透き通った小さな宝石の花々がサラータの首筋にそっと当てがわれた。
「あぁ、やはり…良く似合う…」
ルシュルト王太子が持っていたネックレスはサラータの胸元で輝きを増し、宝石と同じルシュルト王太子の瞳はそれ以上の喜びで満たされたようだった。
完璧に支度を終えているのに、サラータは置いてきぼりにされてしまって呆然と両親の去っていった廊下の先を見つめる。
「あ、お嬢様、来られましたわ。」
微かな靴音がまばらに響いて来るのが聞こえると、侍女レイユがサラータのパートナーの到着を告げた。
「来られた?」
サラータが振り返った先には見知った人が…
「ルシュルト王太子、殿下?」
「左様です。」
深く頭を下げてレイユはその場を下がっていく。
「サラ…随分と待たせてしまったかな?」
サラ…といつのまにかに愛称でサラータのことを呼ぶルシュルト王太子は白を基調とした王家の礼服を優雅に着こなし、腰には式典用の豪奢な剣を帯剣している。いつも無造作に流されている琥珀色の長めの前髪は、今日は緩やかに後ろへと撫で付け整えていた。ルシーと同じ薄紫の瞳はこんな時も変わらずに優しくサラータを見つめて来る。
「あの……?」
レイユやサラータの両親が言っていたサラータのパートナーとは数名の近衛と侍女を伴ってこの場に現れたルシュルトなのだろう。
「サラ……物凄く綺麗だ…良く似合っている。きっとサラなら何を着ても良く映える。」
堪えられないとばかりにルシュルト王太子はサラータの手を取りその甲に唇を落とした。
「あの…!」
「ん…?」
小首を傾げて見つめて来るルシュルト王太子の瞳がこれ以上なく優しいのは何故だろう。
「今日は、ルシーの結婚式で…」
「……そうだね…」
ルシュルト王太子は王家の礼服であり正装だ…それも…花婿の色の………
「貴方様が……ルシーの…?」
(こんなに、双子の様な二人が、夫婦になる……?)
絵的にはきっと夢の様に素晴らしい夫婦像になるに違いないと思うのだが……きっと王太子という立場の方との婚姻のためにルシーは何も言えなかったのかもしれない…そう、思うのだが、何故だかサラータの心の中は複雑だ…あれだけ、友人の中でも親友と言ってもいいほど大好きな人の結婚式なのだから、これだけお似合いの二人ならば諸手を挙げてお祝いすべきなのに…喜びや嬉しさよりも、何というか…置いて行かれたような、何かを失ったような奇妙な感覚に囚われてしまってサラータは混乱して来る。
「ルシーにはしばらく会っていないだろ?」
「…?…えぇ…それはお式の準備に忙しかったと思いますし…」
(ルシーの話…?やはり、ルシュルト様がルシーの婚約者なのね…)
「ん~身体がね…もう限界だって…」
「…?…ルシーの身体、ですか?まさか、体調を崩しているのですか?」
(それなのに今日の式は無理やりに…!?)
「フフ、違うよ。物凄く元気だ。」
ルシュルト王太子は困ったようにそれでも物凄く楽しそうにクスクスと笑う。
「…良かった…」
一瞬で緊張が走ったサラータの身体から力が抜ける…
「可愛いな……」
「はい?…何か仰いました?」
「いや、ね。首元が少し寂しそうだと思って。」
ルシュルト王太子の言葉に反応するように侍女カーラが小箱を持って進み出てきた。
「ほら、これなんかどうかな?」
ルシュルト王太子が小箱から出したものは、小ぶりの石を組み合わせて花の形を連ねた合わせたネックレスだ。
「こういうのが好きだったろう?」
見る角度によっては薄紫から濃い紫に色味が変わる透き通った小さな宝石の花々がサラータの首筋にそっと当てがわれた。
「あぁ、やはり…良く似合う…」
ルシュルト王太子が持っていたネックレスはサラータの胸元で輝きを増し、宝石と同じルシュルト王太子の瞳はそれ以上の喜びで満たされたようだった。
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