上 下
47 / 74

47 ルシーの結婚式 2

しおりを挟む
 満面の笑顔で答えた侍女レイユは一段と綺麗に装丁された薄型のカタログを取り出してくる。

「まぁ……綺麗ね…」

 表紙を見ただけで他の冊子とは格が違う物だ。手に取るにも躊躇ってしまいかねない。

「さ、ご覧になってくださいませ、お嬢様。」

 これがルシーの提案?お式に見せる演出だろうか?近年、新し物好きな若者達に人気を呼んでいる演出がある様で、結婚式の様式は随分と変わってきていると聞く。それにちなんだ商品も良く売れていて、新しいものを見出し取り入れていく若者達は素晴らしい顧客といえよう。お揃いのドレスから奇抜な物や、ドレスコードを設けてお祭り騒ぎの様に楽しむ人々もいるとか。
 結婚式は祝い喜ぶ式なので、これはこれでいいのだろう。

 で、ルシーはサラータに一体何をさせようと?少しだけ、ドキドキしながら素晴らしい装丁の表紙をゆっくりとめくっていった。

「これは………?」

 どのページをめくってもそれはそれは素晴らしいデザインと作りをしたドレスが数ページに渡り描かれている。一見他のカタログと変わらないと思われそうだが、これは、どういう事だろう…?

「はい、どれも素晴らしいデザインだと思いますがお嬢様はどれがお好みでしょうか?」

「えっと…ルシーの物…よね?これ…?」

 そうでなければおかしいのだ。だってここに描かれているドレスは全て花嫁が着る物だから。

「左様です!」

「え?まさか、ルシーのドレスを今から私に選べというの?」

 だって、結婚式はもう直前なのに…?

「違いますわ、お嬢様。これがルシー様からのご提案です!」

「はい?」
 
 ルシーのウエディングドレスをサラータが選ぶ、それもルシーのドレスでは無いという。

「と、いうと?」

「はい。ここに描かれているドレスは全てあるデザイナーの手がけているものでして。」

 そういえば、デザインは違うもののドレスの醸し出す雰囲気がどれもよく似ている。

「ルシー様がとても気に入っているデザイナーでして、このドレスの内どれかをお嬢様にお選びいただきたいとのことですわ。」

「私が…?えっと、ルシーのでは無いのよね?では、私が着るの?」

 そんなことってあるだろうか?結婚式においてはウエディングドレスは花嫁だけの物だ。
 
「物分かりがよろしいですわ!その通りです、お嬢様!さ、どれになさいます?」

 いやいや、どれになさるも何も、駄目に決まっているのでは無いだろうか?花嫁が良いと言っても、花嫁の家族やお相手の花婿の気持ちやら何やら、きっと後から面倒臭い事になりかね無い。相手は貴族だろうから、わざわざ商人の娘が貴族に喧嘩を売る様な事……考えただけでもゾッとする………

「……ねぇ…常識的に考えて?無理に決まっているわ。そんな事をしたらお相手の方になにを言われるのか、カザラント子爵様にも家族ぐるみでお世話になっている身としては、こんな、正面から喧嘩を売る様な事でき無いわ……」

 ルシーのお相手の貴族の事はよく知らないが、悪くしなくてもカクル商会くらいは潰されてしまいそうだ。

「はい。そう考えるのが普通だと思うのですが、これが大丈夫なんですよ?」

「えぇぇ……?」

「ルシー様たってのご希望でして……長年文だけの交流が続く中で、ちっともお嬢様と会うことができなかった事をとても悔やんでおいででして、人生の節目のこの時に、共に思い出に残る物を身につけてほしいとのことでしたの。」

「えぇ…?」

 ルシーがそこまでサラータの事を気にかけてくれた事はとても嬉しい誤算だ。サラータだってルシーに会いたかったのに会えなかったのだから、気持ちは分からないでもない。

「で、では、同じデザインのリボンとか、スカーフとか、髪飾りとかは?」

「それが、ルシー様にはこだわりがありまして、どうしても同じ物(と言ってもデザインはお嬢様のお好みで)を身に纏ってもらいたいと親族が集まる席で懇願されたとか。」

「ええぇぇぇぇ…それ、本当なの……?親族ということはあちらのご家族も…?」

「はい!なんと友情に溢れた花嫁であるのか、と大絶賛されておりました!」

 これでは、またサラータには逃げ場など無いも同然だ……

  




しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

辺境伯令息の婚約者に任命されました

風見ゆうみ
恋愛
家が貧乏だからという理由で、男爵令嬢である私、クレア・レッドバーンズは婚約者であるムートー子爵の家に、子供の頃から居候させてもらっていた。私の婚約者であるガレッド様は、ある晩、一人の女性を連れ帰り、私との婚約を破棄し、自分は彼女と結婚するなどとふざけた事を言い出した。遊び呆けている彼の仕事を全てかわりにやっていたのは私なのにだ。 婚約破棄され、家を追い出されてしまった私の前に現れたのは、ジュード辺境伯家の次男のイーサンだった。 ガレッド様が連れ帰ってきた女性は彼の元婚約者だという事がわかり、私を気の毒に思ってくれた彼は、私を彼の家に招き入れてくれることになって……。 ※筆者が考えた異世界の世界観であり、設定はゆるゆるで、ご都合主義です。クズがいますので、ご注意下さい。

美しい公爵様の、凄まじい独占欲と溺れるほどの愛

らがまふぃん
恋愛
 こちらは以前投稿いたしました、 美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛 の続編となっております。前作よりマイルドな作品に仕上がっておりますが、内面のダークさが前作よりはあるのではなかろうかと。こちらのみでも楽しめるとは思いますが、わかりづらいかもしれません。よろしかったら前作をお読みいただいた方が、より楽しんでいただけるかと思いますので、お時間の都合のつく方は、是非。時々予告なく残酷な表現が入りますので、苦手な方はお控えください。 *早速のお気に入り登録、しおり、エールをありがとうございます。とても励みになります。前作もお読みくださっている方々にも、多大なる感謝を! ※R5.7/23本編完結いたしました。たくさんの方々に支えられ、ここまで続けることが出来ました。本当にありがとうございます。ばんがいへんを数話投稿いたしますので、引き続きお付き合いくださるとありがたいです。この作品の前作が、お気に入り登録をしてくださった方が、ありがたいことに200を超えておりました。感謝を込めて、前作の方に一話、近日中にお届けいたします。よろしかったらお付き合いください。 ※R5.8/6ばんがいへん終了いたしました。長い間お付き合いくださり、また、たくさんのお気に入り登録、しおり、エールを、本当にありがとうございました。 ※R5.9/3お気に入り登録200になっていました。本当にありがとうございます(泣)。嬉しかったので、一話書いてみました。 ※R5.10/30らがまふぃん活動一周年記念として、一話お届けいたします。 ※R6.1/27美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛(前作) と、こちらの作品の間のお話し 美しく冷酷な公爵令息様の、狂おしい熱情に彩られた愛 始めました。お時間の都合のつく方は、是非ご一読くださると嬉しいです。 *らがまふぃん活動二周年記念として、R6.11/4に一話お届けいたします。少しでも楽しんでいただけますように。

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!

gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ? 王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。 国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから! 12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

愛など初めからありませんが。

ましろ
恋愛
お金で売られるように嫁がされた。 お相手はバツイチ子持ちの伯爵32歳。 「君は子供の面倒だけ見てくれればいい」 「要するに貴方様は幸せ家族の演技をしろと仰るのですよね?ですが、子供達にその様な演技力はありますでしょうか?」 「……何を言っている?」 仕事一筋の鈍感不器用夫に嫁いだミッシェルの未来はいかに? ✻基本ゆるふわ設定。箸休め程度に楽しんでいただけると幸いです。

殿下が恋をしたいと言うのでさせてみる事にしました。婚約者候補からは外れますね

さこの
恋愛
恋がしたい。 ウィルフレッド殿下が言った… それではどうぞ、美しい恋をしてください。 婚約者候補から外れるようにと同じく婚約者候補のマドレーヌ様が話をつけてくださりました! 話の視点が回毎に変わることがあります。 緩い設定です。二十話程です。 本編+番外編の別視点

幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。

秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚 13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。 歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。 そしてエリーゼは大人へと成長していく。 ※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。 小説家になろう様にも掲載しています。

婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです

青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。 しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。 婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。 さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。 失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。 目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。 二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。 一方、義妹は仕事でミスばかり。 闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。 挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。 ※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます! ※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。

処理中です...