［完］幼馴染の結婚式に出たつもりでしたが、なぜか私が幼馴染の隣にいます……

44 終わらない夢 4 ハダートン卿の恋慕 2

　それからすぐの事だっただろうか…あんなにお祭り騒ぎに沸いていた国中が一気に覆される事態が起こる。

　イリュアナ国王妃暗殺…………

　耳を疑う様な事件が国境を超えて他国にまでも広がっていく………

　暗殺……確かにミュリョン王妃がカコール皇国から輿入れる時から、その危険性に着目し王妃の身辺警護にはイリュアナ国を挙げて力を入れてきた。旧ベストク帝国側の支持者からはカコール皇国から王妃を選んだ事を未だに承服しかねる、との声明も王家に上がってきてもいたからだ。旧ベストク帝国支持者側からしても、国王との婚姻はイリュアナ国内にてベストク帝国の力を伸ばすことのできる絶対的な好機だったはずで、国王の婚礼はそれをみすみす指を加えて見ていなければいけない状況だっただけに、過激派に連なるような者達の行動には十分に注意してきたつもりであった。あったのに、王妃が毒殺という非常に許されざる結果を招くことになった。そして犯人の目星は付いているものの、その証拠が見つからない。
　また王妃の身体の反応からは、健康な成人であれば致死には至らない毒であることがわかった。つまり、王妃を暗殺しようとしてこの毒を用いたわけではないと言う事だ。しかしながら産後で体力が著しく失われていたミュリョン王妃の身体はこの毒には耐えられなかったのだと言う……

　王城内は文字通り蜂の巣を突いた様な騒ぎになる…まだ生まれて間もない王子を残し、やっと世継ぎを生んだ王妃の逝去…王妃に使われていた毒の特徴からはもしやルシュルト王子を狙ったものではないのか、との意見も上がる。
　その時に、国王はある決断をした。生まれて間もない我が子を護るために。そして隣国カコール皇国との関係性を悪化させない為に、ミュリョン王妃暗殺の犯人を探すとともにルシュルト王子を徹底的に隠すことにしたのだ…

　マーテルがルシュルト王子の守り役を命じられた数日後にはルシュルト王子は乳母と数名の王の腹心達と共に人知れず王城内から消えていたと言う。

　表向きは王城内の警備を更に強化した一画を王子専用の居住区として設ける事になったと発表があった様だが、王族の居住区域には貴族であっても入る事はできない為、事の真偽を確かめた者は誰一人としていなかった。

　王子の守り役として決まっていたマーテルは、非常に重く残念な結果によってその任から解かれた事になるだろう。その後成人したマーテルはハダートン侯爵の勧めによって騎士団で己れの腕を磨く様になる。成人後の若い情熱を剣技を伸ばすことに注ぎ込んでいたマーテルは見る見る腕を上げて行った。

　あの痛ましい事件から数年経っても王妃暗殺の犯人は見つからず、新たな事件は起こってはいない。王子が逝去した報もない為、元気で過ごしているのだろうという事だけは国民も推察する事ができただろう。

　そんな平穏といえるだろうある日に、マーテルは騎士団宿舎から自宅であるハダートン侯爵邸へと呼び戻される。

「帰ったかマーテル。これからはこの方にお仕えし、勉学から剣技まで其方が培った知識の全てをお教えしなさい。」

「…………！？」

　マーテルの頭は一時混乱する。騎士団に入団しており、冷静沈着そして迅速に物事を考え対処する様に鍛え上げられてきたのに、今マーテルの目の前にいる人物を見ると、父ハダートン侯爵が言っている言葉の意味を理解できない。情けない話だが、マーテルは完全に戸惑ってしまっていた。

　マーテルの目の前にいるのは育ちが良さそうな、歳の頃も5つか6つ位の非常に目鼻立ちの整った幼い少女だったからだ。