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41 終わらない夢 1
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沢山の艶やかな絹の束、絵柄も豊富で見ていて飽きない。布地の種類ごとに分けて並べられている様も整然としていて気持ちがいい。そして、彩り豊かな装飾品の数々に、煌びやかな小物を入れた洒落た小箱達…大柄な衣装棚は壁際に立ち並び、レースのカーテンは天井から幾重にも重なり下げられていて、まるで迷宮にでも迷い込んだ様だ。
いつも見ていて見慣れているはずの大倉庫の中。商家だったらどこも持っているだろう大小の倉庫の内の一つだ。外国からの荷が届くと一斉に展覧会場の如くに商品が大倉庫に並べられる。カクル家の商店で売り捌く品々や、その他の小売店に卸す品もある。が、外国の品をわざわざ遠方から買い付けに来る商店主の為に、一気に見本品を並べて馴染みの顧客を作るのだ。
サラータはこの時期が特に好きだった。ルシーがトラトにいた時には大きな収納ケースの上の特等席に座って飽きる事なく賑わう様を眺めていた。
あれはサラに似合いそう!とルシーが言えば、これは絶対ルシーに似合う!とサラータが言う。幼い子供同士、買い付けに来る商人や小売の店主やらの前でキャッキャとはしゃぐ様は目の保養になると一時話題となったものだ。
「ふふふふ……これ…!絶対にサラに似合う…!」
この絹のリボンは薄紫の瞳に良く映えてきっともっとサラは可愛くなる………!
「お嬢様、お目覚めですか?」
「……ふぇ……?」
「ふぇ?」
目を開ければ、目の前にはルシーではなくて侍女のリンデルが……
「ルシーは?倉庫は?あれ?絹の束……」
「……?…あぁ!夢をご覧になっていたのですね?」
「夢?ルシーは…?」
サラータの頭がはっきりしてくれば、ここはトラトの実家ではない事が分かる。王城だ…昨日の舞踏会の事も徐々に思い出してきた。国王主催の舞踏会に参加して、皆様と国王に挨拶をして、ダンスをして……
そこまでは覚えている……
「ルシー様は今もお仕事でして…」
入浴の準備をしながら申し訳なさそうな侍女リンデルは話を続ける。
「昨夜の事を覚えておいでですか?」
「昨夜、昨夜は舞踏会に出て、戻ってきて、それから……」
「やはり、あまりご記憶が無い様ですね?」
あまりの緊張とその疲れから、ほぼ舞踏会の時の記憶がないのだ。
「ええ…私、どうなって……?」
「ルシュルト殿下と舞踏会からお帰りになって、そのまま倒れ込む様にお休みになられました。」
帰ってきた時から、サラータは目は開いていたものの、どこかに意識を飛ばしてしまっている様な状態でポヤンとしていたそうだ。
「お嬢様は大層魅力的なお顔をしていまして、殿下はそのままお帰りになりたがらず、お部屋から追い出すのに大変でしたのですよ。」
そうだ、ここはまだ王城で、昨日の続きは終わっていない。リンデルはまたしても一級品と分かる室内着を持ち出してきて、サラータを浴室へと誘う。
「昨晩はそのままお休みになってしまいましたから、今朝は入浴をしていただいてから朝食にいたしましょう。お疲れでしょうから今日一日ゆっくりと過ごす様に王命を頂いております。」
朝というのに、サラータの目覚めの頭はパンク寸前だ。
どこの国に、商人の娘に王命を持って休む様にと言われる王様がいるのだろうか……?また、どうしてこんな特別扱いの様な待遇を許してくれるのだろうか……?
毎回の事だが、サラータ付きの侍女達の腕はすこぶる良かった。入浴しているサラータの目はもう覚めたというのに、まだ夢の中にいる様な夢心地にしてしまうのだから。
まだ、あの懐かしい日常に帰る事は出来なそうだ…
いつも見ていて見慣れているはずの大倉庫の中。商家だったらどこも持っているだろう大小の倉庫の内の一つだ。外国からの荷が届くと一斉に展覧会場の如くに商品が大倉庫に並べられる。カクル家の商店で売り捌く品々や、その他の小売店に卸す品もある。が、外国の品をわざわざ遠方から買い付けに来る商店主の為に、一気に見本品を並べて馴染みの顧客を作るのだ。
サラータはこの時期が特に好きだった。ルシーがトラトにいた時には大きな収納ケースの上の特等席に座って飽きる事なく賑わう様を眺めていた。
あれはサラに似合いそう!とルシーが言えば、これは絶対ルシーに似合う!とサラータが言う。幼い子供同士、買い付けに来る商人や小売の店主やらの前でキャッキャとはしゃぐ様は目の保養になると一時話題となったものだ。
「ふふふふ……これ…!絶対にサラに似合う…!」
この絹のリボンは薄紫の瞳に良く映えてきっともっとサラは可愛くなる………!
「お嬢様、お目覚めですか?」
「……ふぇ……?」
「ふぇ?」
目を開ければ、目の前にはルシーではなくて侍女のリンデルが……
「ルシーは?倉庫は?あれ?絹の束……」
「……?…あぁ!夢をご覧になっていたのですね?」
「夢?ルシーは…?」
サラータの頭がはっきりしてくれば、ここはトラトの実家ではない事が分かる。王城だ…昨日の舞踏会の事も徐々に思い出してきた。国王主催の舞踏会に参加して、皆様と国王に挨拶をして、ダンスをして……
そこまでは覚えている……
「ルシー様は今もお仕事でして…」
入浴の準備をしながら申し訳なさそうな侍女リンデルは話を続ける。
「昨夜の事を覚えておいでですか?」
「昨夜、昨夜は舞踏会に出て、戻ってきて、それから……」
「やはり、あまりご記憶が無い様ですね?」
あまりの緊張とその疲れから、ほぼ舞踏会の時の記憶がないのだ。
「ええ…私、どうなって……?」
「ルシュルト殿下と舞踏会からお帰りになって、そのまま倒れ込む様にお休みになられました。」
帰ってきた時から、サラータは目は開いていたものの、どこかに意識を飛ばしてしまっている様な状態でポヤンとしていたそうだ。
「お嬢様は大層魅力的なお顔をしていまして、殿下はそのままお帰りになりたがらず、お部屋から追い出すのに大変でしたのですよ。」
そうだ、ここはまだ王城で、昨日の続きは終わっていない。リンデルはまたしても一級品と分かる室内着を持ち出してきて、サラータを浴室へと誘う。
「昨晩はそのままお休みになってしまいましたから、今朝は入浴をしていただいてから朝食にいたしましょう。お疲れでしょうから今日一日ゆっくりと過ごす様に王命を頂いております。」
朝というのに、サラータの目覚めの頭はパンク寸前だ。
どこの国に、商人の娘に王命を持って休む様にと言われる王様がいるのだろうか……?また、どうしてこんな特別扱いの様な待遇を許してくれるのだろうか……?
毎回の事だが、サラータ付きの侍女達の腕はすこぶる良かった。入浴しているサラータの目はもう覚めたというのに、まだ夢の中にいる様な夢心地にしてしまうのだから。
まだ、あの懐かしい日常に帰る事は出来なそうだ…
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